目次
下痢(看護計画)
いつもご覧いただきありがとうございます。
今回は、下痢について考えていきます。下痢の主な原因で思い浮かぶのは、食中毒や感染性胃腸炎などが思い浮かぶと思います。他にも原因がありますので、確認していきましょう。
排便のメカニズムや便秘について確認したい方は、「便秘」の記事で触れていますので、アクセスしてみてください。関連の電解質異常についての記事も参考にしてみてください。
お急ぎの方は下のジャンプより目的位置に移動してください。
Ⅰ.下痢とは
臨床医学の現在(プライマリ・ケア レビュー)「下痢・便秘症」佐藤健太著:日本プライマリ・ケア連合学会誌 2012.vol.35.no.1を参考にしています。詳細を知りたい方は以下のURLをチェックしてみてください。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/generalist/35/1/35_56/_pdf/-char/ja#:~:text=%E4%B8%8B%E7%97%A2%E3%81%AF%E3%80%8C%E6%97%A5%E3%81%AB%203,%E5%85%A5%E9%99%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E3%81%93%E3%81%A8%E3%82%82%E3%81%82%E3%82%8B%EF%BC%8E
看護学学習辞典:学研からも引用させていただいています。
1.下痢の定義
下痢の定義は「日に3回以上の軟便か水様便の排泄」とされている。
有訴者数は2%前後である。
人は、1日9L近くの水分が腸に流入する。このうち7~8Lは小腸で吸収され、残りの1.5Lは大腸で吸収され、便として100ml程度が排泄される。
小腸や大腸の吸収障害により、便に水分が200ml以上含まれると下痢となる。
一日の水分の摂取量と消化液の分泌量は次のとおりである。
・経口2L、唾液1L、胃液2L、膵液2L、胆汁1L、小腸液1Lの計9L
2.原因別分類
急性の下痢と慢性の下痢に分け、それぞれの原因を上げていきます。
A.急性下痢の分類
【感染性】
1)腸管内感染
(1)細菌
①細菌侵入型
・細菌性赤痢
・病原性大腸菌
・サルモネラ
・カンピロバクター
・エルニシア
②腸管内毒素産生型
・コレラ
・腸炎ビブリオ
・毒素原性大腸菌
③毒素型
・ブドウ球菌
・ボツリヌス
(2)ウィルス
①確定的なもの
・ノロウィルス
・ロタウイルス
・エコーウィルス
・コクサッキーウイルス
(3)真菌
・カンジダ
(4)原虫
・ジアルジア・ランブリア
・アメーバ赤痢
(5)寄生虫
・回虫
・十二指腸虫
・日本住血吸虫
(6)抗菌薬性下痢
・耐性ブドウ球菌
・クロストリジウム・ディフィシル
・腸内細菌叢変化
2)腸管外感染症
・急性全身感染症に随伴する下痢
・傍直腸損傷
・腹膜炎
【非感染性】
1)暴飲暴食
・不消化物摂取
・生もの
・未熟果実
2)アレルギー性
・好酸球性胃腸炎
・腸性紫斑病
・食べ物(小麦、卵、牛乳、サバ、海老、そばなど)
3)毒物
(1)中毒:
・きのこ
・じゅがいもの新芽
(2)薬物
・ジギタリス
・キニジン
・アルコール
・サリチル酸
・水銀利尿薬
・ヒマシ油
(3)重金属
・ヒ素
・リン
・有機水銀
・金
・カドミウム
・亜鉛
4)腸上皮障害性物質
・コルヒチン(痛風治療薬)
・ネオマイシン
・抗ガン剤
・レントゲン
5)物理的原因
・寒冷
・暑熱
・レントゲン
・アイソトープ
6)神経性
7)他の疾患
・心不全
・尿毒症
・ショック
・塞栓
・ペラグラ
・悪性貧血
・迷走神経切断術後
B.慢性下痢の分類
【胃性】
1)無酸症
・悪性貧血
・萎縮性胃炎
・アルコール性胃炎
・胃癌
2)胃手術後
【小腸性】
1)炎症性疾患
・クローン病
・腸結核
・ホウィップル病
2)腫瘍
・がん
・肉腫
・リンパ腫
・悪性リンパ腫
3)先天性疾患
・先天性腸狭窄
・先天性憩室
4)腸手術後
5)腸不完全閉塞
・手術後
・結核性腹膜炎
・癌性腹膜炎
【慢性感染症】
・サルモネラ
・赤痢
・病原性大腸菌
・ぶどう球菌
・ウィルス性
・長期抗菌薬投与後
【寄生虫】
・アメーバ赤痢
・回虫
・日本住血吸虫
【大腸気質的疾患】
・潰瘍性大腸炎
・悪性腫瘍
・大腸憩室
・ポリポーシス
・不完全腸閉塞
・クローン病
【機能的疾患】
・神経性下痢
・過敏性腸症候群
【薬物、放射線】
・水銀
・ヒ素
・アルコール
・カドミウム
・ネオマイシン
・キニジン
・コルヒチン
3.検査
・採血
・X線、CT、エコー
・便の細菌培養
・膵疾患、内分泌疾患検索
4.診断
急性経過例では、ウィルス性下痢症が大半を占める。
急性では、腹痛・嘔吐・発熱の有無、発病地、職業、他の感染症の有無、周囲に同様の症状を呈している人がいないかが重要であり、問診で聞き取ることができる。
急性下痢症のなかには、敗血症や急性腹症などの予後の悪い疾患が含まれるため、迅速な原因測定が必要である。
まず、下痢が急性の場合のほうが緊急度の高い疾患を含んでいるので、急性下痢症でないかを評価する。
(1)の急性下痢症のフローチャートに沿って、レッドフラッグ(重症の危険が高い状態)を除外していく。その後に、毒素型・小腸型・大腸型に病型を分けて、原因微生物の検討と対症療法の指導を行う。
次に慢性下痢症に移り(2)の慢性下痢症のフローチャートに沿って診断される。
(1)急性下痢症診断のフローチャート
①全身状態(特に脱水・ショック)の評価と安定化
脱水の指標:体重減少、血圧・脈拍の姿勢変化、臥位での頸静脈虚脱、意識障害、乏尿。
小児では Capillary refilling time>2秒、皮膚ツルゴール低下
⬇ 脱水あり、または全身状態が不安定
→バイタルコントロールと重篤な基礎疾患
感染性・免疫性など)の検索を同時並行で進める。
⇨初期輸液(20 ml/kg)に反応しない例では後方施設への紹介を検討
________________________________________
②危険な疾患・合併症の除外
危険な疾患:虚血性・炎症性腸炎や大腸型下痢症(3つのI=Ischemic・Inflammatory・Infectious)の重症型やその合併症(急性腹症、溶血性尿毒症症候群、トキシックショック症候群、Toxic megacolon)
Red flags:腹痛・腹部膨満・腹膜刺激徴候、血性下痢、胆汁性嘔吐、繰り返す下痢発作。 最近の外傷・熱帯治療歴やシャンパン使用歴と併設や筋痛の併存を確認する。抗生剤使用歴、院内発症例やアウトブレーク、栄養障害・免疫不全・65歳以上
⬇ Red flags 陽性
→危険な疾患である可能性を考え、精査・入院の可能な施設への紹介を検討する
________________________________________
③病型分類
嘔吐下痢症(毒素)
→嘔吐が主、腹痛・下痢は軽度、暴露から数時間で発症
小腸型下痢症(ウイルスや細菌)
→大量・水様便、初期に嘔吐を伴うが、腹痛は軽度
大腸型下痢症(細菌→虚血・炎症)
→少量・粘血便、嘔吐よりも腹痛が目立ち、しぶり腹を伴う
※大腸型下痢症の大半は ②の Red flags 除外となるため実際には ②の段階で評価されるが、病歴から明らかに感染性腸炎が疑われた場合は ③全身状態の確認をもとに進むとよい
⬇ 病型に合わせた治療の実施・教育(後述)をいつつ、同時に④も行う
________________________________________
④起炎菌推定
食事歴:生/加熱不十分な肉類、卵や魚介類、未殺菌乳やジュースなど
接触歴:ディケアや高齢者施設、病弱な人との接触、性交渉(男性同性愛)
屋外の水や動物(爬虫類・両生類、牧場)との接触、途上国への旅行
(2)慢性下痢症診断のフローチャート
①大腸癌の除外
危険因子:高齢(50歳以上)、男性、欧米食(赤身肉・高脂肪・低繊維)、肥満、喫煙・大量飲酒、大腸ポリープや大腸癌、炎症性腸疾患の既往
Red flags:直腸出血(血便、便潜血反応陽性、貧血)、腹痛、体重減少、直腸診での腫瘍触知
⬇ 陽性→大腸内視鏡検査、専門医紹介
________________________________________
②検査・治療の容易な疾患の評価
非定型下痢症:高分泌成分、性立滞尿の詳細な聴取 ➡便検査(表2)
内分泌性:甲状腺・副腎ホルモンの随伴症状の聴取
→採血(TSH、Glc/HbA1c、電解質、疑わしい場合は副腎ホルモン採取)
________________________________________
③よくある疾患の経験的治療
薬剤性・食事性 →薬歴や食品の中止(表1の鑑別診断欄のリストを参照)
過敏性腸症候群 →診断基準(症状群表5)の確認 ➡ IBS に有効な治療
⬇ 治療に反応しない場合④へ
________________________________________
④稀な疾患の精査
最近報告の増えてきた Collagenous colitis を念頭に薬剤中止を行うか
精査可能な医療機関への紹介を行う
5.治療
①保温、絶食、消化の良い食事
②脱水補正
経口補水液(OS-1)、輸液
③抗生剤
・抗生剤は発熱や血便があり、重篤感・高度脱水・敗血症を合併する重特例に投与される。
また、中等度以上の旅行者下痢症、免疫不全者・新生児(特に未熟児、栄養障害児)、高齢者にも投与される。
________________________________________
・起炎菌・抗生剤の有用性が確認されている病原体が同定された場合
• 赤痢、カンピロバクター
→ 第3世代セフェムやキノロン
• サルモネラ
→ 免疫抑制状態、人工物ありならレボフロキサシンで治療行う。
(リスク無しであれば、抗生剤で保菌期間が長引く可能性があり使わない)
• O-157
→ 国内ではホスミシンが使用される。
(抗生剤使用で溶血性尿毒症症候群を合併し予後悪化すると言われており投与の判断は慎重に行う)
• C. difficile
→ メトロニダゾール、重症例ではバンコマイシン内服
• その他
→ ジアルジア、アメーバ、コレラなども適応となる
④下痢止め
基本的には下痢止めは使用しないが、小腸型下痢症で全身状態良好例ならば使用しても良い。
合併症のtoxic megacolon(中毒性巨大結腸症)には注意が必要。
また、血便、免疫不全・敗血症リスクのある状態・小児(特に低年齢のもの)では投与禁忌である点に注意が必要。
⑤プロバイオティクス
プロバイオティクスとは、人体に良い影響を与える微生物、または、それらを含む製品、食品のこと。
⑥予防
・一次感染予防:手洗い、食事の加熱、ロタウィルスワクチン
・2次感染予防(拡大防止):環境整備、休業命令、保健所への報告・届出
Ⅱ.「下痢」の適応
・日に3回以上の軟便か水様便の排泄がある(これは下痢の定義となっています)
・腹部症状(腹痛、腹部膨満、腸蠕動音の亢進、しぶり腹)
・泥状便、水様便、米のとぎ汁用の便、血便
・便意切迫感
・周囲に下痢症状の人がいる(感染性の下痢の可能性)
・経管栄養
・抗生剤投与(抗生剤使用による腸内の菌交替)
・下剤の乱用
・刺激物の摂取(胃腸への刺激)
・旅行、ストレスなど心的な影響(自律神経への影響)
・アレルギー体質のアレルゲン摂取(腸粘膜浮腫、粘液分泌増加、腸管運動亢進)
Ⅲ.目標設定
目標は患者さんを主語にして立てます。
・医師の処方通りに服薬をできる。
・感染予防対策(手洗い、衛生的な食品の取り扱い)について述べることができる。
・便の性状、量、回数について自身で把握し、異常時は医療者に伝えることができる。
・(感染源の排泄物の場合)排泄後の手洗い、トイレの清潔保持を実施し、他の人への媒介を予防できる。
・臀部の清潔を保持し、皮膚トラブルを予防できる。
・(アレルギー性の場合)アレルゲンを避けることができる。
・適切な緩下剤の使用について述べることができる。
・経口補水液を適度に飲用することができる。
看護師を主語にする場合にはつぎのようになるとおもいます。
・安静保持、補液、抗生剤治療が治療計画通りに受けられるよう支援する。
・安全な療養環境を整備できる。
・便の性状の変化について(治療効果)観察できる。
・腹部症状の緩和につとめる。
・皮膚トラブルを防ぐことができる。
Ⅳ.看護計画
1)観察計画《OP》
・年齢、性別
・バイタルサイン(発熱、熱型)
・問診:職業、職場・学校での集団感染(ノロ、ロタ)、直前の食事内容
・腹部症状(腹痛、腹部膨満感、圧痛)
・腹痛の出現様式(突然かゆっくりか、どのように出現するか、どのくらい持続するか)
・腸蠕動音の異常(亢進)
・排ガスの有無
・1日の排便回数
・便の性状(水様、米のとぎ汁様、血便、便の臭い)
・血液データ(炎症反応、電解質異常)
・XP、CT、エコー像
・便培養結果
・環境変化、緊張状態
・精神状態:不安の程度
・脱水症状(意識障害、こむら返り・痙攣、発熱、嘔気嘔吐、倦怠感、血圧変動、尿の減少、尿の濃縮)
・ツルゴール反応(手の甲をつまんで持ち上げて離した際に、元に戻るまでの時間が2秒以上かかる場合には脱水を疑う。普通はすぐに戻る)
・治療計画の理解度:安静保持、絶食
・皮膚状態:下痢によって皮膚トラブルを起こしていないか
・点滴刺入部
・ストレスの有無、人間関係の悩み
・不適切なストレス緩和法に陥りやすい性格:暴飲暴食、アルコール多飲、性欲の変化
・治療の効果(順調な治療経過をたどっているか)
・アレルギーの有無
・経管栄養の内容、投与速度
・抗生剤の種類、投与間隔(抗生剤使用による菌交替症の出現がないか)
2)行動計画《TP》
・安全な療養生活が送れるように療養環境の整理整頓を行う。
・便の回数が頻回な場合には、ポータブルトイレの使用を検討する。
・安静の保持に必要な落ち着いた環境に整える。
・点滴投与時の滴下トラブルを防ぐ(ルート整理、刺入部確認、速度調整など)。
・適時飲水介助を行う。
・バイタルサイン測定、腹部症状確認、摂食状況確認し、治療の効果をアセスメントする。
・腹部膨満感、腹痛がある場合には、ポジショニング、温罨法、腹部マッサージを行う。
・腹痛の強い場合には、頓用支持の鎮痛剤を使用する。
・下痢による皮膚トラブルが起こらないように、こまめにおむつ交換を行う。
・排便時には微温湯で陰部洗浄を行う。ワセリンなどで表皮を保護し、便が直接付着することによる皮膚トラブルを回避する。
・経管栄養の投与速度に注意し、急速投与による下痢を予防する。
・食事や経管栄養の再開による下痢の出現がないか確認する。
・新たに開始した薬物、抗生剤などの開始による下痢の出現時は、医師へ報告する。
・ストレスを緩和するケアを取り入れる(リラクゼーション、足浴、マッサージ、傾聴など)。
・話しやすい関係を築けるよう務める。
3)教育計画《EP》
・下痢の病態、下痢による身体への影響について説明する。
・治療計画の目的、目標、治療経過について説明する。
・治療上の守ってもらいたい事を説明する。
・内服薬の用法容量を守って服用するよう説明する。
・便の性状を自身で観察できるよう説明する。
・(おむつの方)便が出たら知らせるようにお願いする。(便性状と皮膚状態の確認のため)
・適宜、経口補水液を飲水するよう説明する。
・腹痛があったら、知らせるようにお願いする。
・気分の不快、めまい、腹痛、痙攣などの異常があったら知らせるようにお願いする。
最後までご覧いただきありがとうございます。
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