知覚的便秘(看護計画)
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知覚的便秘(看護計画)
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今回は「知覚的便秘」について考えていきます。
知覚的便秘は、便秘の一種であり、実際には便通の問題がない場合でも、患者が便秘と感じる状態を指します。便は出ているにも関わらず、便が残っていると思い込んで下剤を乱用している状態なども含まれます。
何がそうさせるのでしょうか?
痩身志向という現代の傾向が、我々の思考に影響を与えているように感じます。
痩身思考から「やせ」への願望が強くなり、「神経性やせ症」や「神経性過食症」「神経性食思不振症」などの精神疾患へと発展しているケースがあります。
「ダイエット」と検索すると、様々な方法がでてきますが、その中に宿便を排泄して痩せるという情報があります。
神経性やせ症の患者では、下剤を乱用する人がいます。下剤は薬局で簡単に手に入ります。簡単に手に入りますが、乱用することによる身体への様々な弊害があります。
ここでは便秘の定義から確認し、その後に下剤の乱用によって起こる障害についてみていきましょう。
通常の便秘については以下の記事を参考にしてみてください。
お急ぎの方は下のジャンプより目的位置に移動してください。
1. 便秘の定義
「慢性便秘症診療ガイドライン2017」では、便秘を「本来体外に排出 すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状 態」と定義しています。
よって、毎日でなくても便秘ではない(人によって排便の習慣が異なるので、スムーズに十分な量を排便できれば便秘ではない)と考えます。
便秘には器質性便秘と機能性便秘があります。
この看護診断「知覚的便秘」は、看護診断上にはあるけれども、疾患の診断として存在するわけではありません。ですから器質性か機能性のどちらかに分類することはできません。
知覚的便秘は、腸を動かすために意図的に下剤を乱用している状態ですから、過敏性腸症候群のように精神状態が腸の運動に影響を与えている場合とも異なります。
知覚的便秘の場合には、根底に「神経性やせ症」や「摂食障害」(「神経性過食症」「神経性食思不振症」「過食嘔吐症」)などの精神疾患がうたがわれますので、全身状態管理と合わせて精神的なアプローチが必要です。
2. 摂食障害の紹介:過食嘔吐症
1)過食嘔吐症とは
摂食障害の一種です。摂食障害には、拒食症(神経性食思不振症)、過食症(神経性大食症)、過食嘔吐症があります。
2)過食嘔吐症の病態
・週一回以上の、過食行動
・過食行動は過食衝動が起こると自分でコントロールすることができず、家にあるものを食べ尽くすほど食べてしまう。
・過食したことに自己嫌悪になる。自分を責めてしまう。その後に、過食をなかったことにするために、自発的に嘔吐したり、下剤を乱用する。→不適切な代償行動をする。
・食べては嘔吐しを繰り返す。慣れてくると次第に楽に嘔吐できるようになり習慣化する。また、あとで吐けるから大丈夫という安心感から過食がエスカレートする。
・嘔吐しない過食症だけの人は、ドカ食いをして、嘔吐しないタイプで、急激に肥満(脂肪肝、糖尿病、心筋梗塞リスク)となる。
3)過食嘔吐症の症状
症状の一つに機能性低血糖(1)というものがあります。これが、過食嘔吐が自己コントロールできない理由の一つではないかと考えられています。
(1)機能性低血糖:
①過食をはじめると、血糖値が上昇してインスリンが分泌される。この間は自己コントロールができず、食べ続けている。
②過食している時間はインスリンが分泌され続ける。
③過食後に冷静となり、自己嫌悪となる。そして、嘔吐する。嘔吐することで、食物が胃から排除される。
④血糖値の急激な上昇は収まる。既に分泌されているインスリンが血糖値を過剰に下げてしまう。
→結果、低血糖となってしまう。
⑤脳が低血糖を感知して「摂食」するように働きかける。
⑥食べたいという衝動が起きる。
⑦過食する。
このように悪循環となります。最近では、この低血糖症を治療することで、過食衝動を抑えて過食嘔吐症を克服した事例があるそうです。
(2)過食嘔吐による他の症状
・むくみ、肌荒れ、口内炎、薄毛
・食道炎
・消化管機能低下
・う歯:食事を繰り返すことで口腔内が酸性となる時間が長い、胃酸の逆流で歯のエナメル質が溶ける
・生理不順、無月経
・抑うつ:過食を繰り返す自分に激しい自己嫌悪を抱く
・反社会的行動:ストレスから逃れるために万引きや異性交遊などを衝動的に行ってしまう。
・自傷行為:抑うつが続くと自傷行為や自殺へつながる場合がある。
4)過食嘔吐症の体験談
https://namakerie.me/utsu/kasyoo-goodpoints/
エリログさんのブログに過食嘔吐の経験が紹介されています。
一度読んでみると、「快楽を得るためには何かを犠牲にしなくてはならない」ということがお分かりいただけるのではないでしょうか。薬物、飲酒、喫煙、ギャンブルそれぞれの依存も同じようなことが言えると思います。
3.下剤乱用症候群:下剤乱用に伴う腸管機能不全
過食嘔吐症、やせ症で陥りやすい下剤乱用による弊害を見ていきましょう。
神戸大学医学部付属病院が日本静脈経腸栄養学会雑誌に寄せた症例報告をもとに記載しています。
出典はja (jst.go.jp)です。
1)痩身願望からの神経性やせ症による身体への影響
①神経性やせ症→摂食障害→低栄養→内分泌代謝障害
②神経やせ症→肥満や体重増加への恐怖→下剤や利尿薬乱用→下剤乱用症候群
緩下剤を使用し排便すると、腸管壁に付着していた便(宿便)や水分が排出されて、一時的に体重が減少します。しかし、体内に蓄積した余分な脂肪を落とす効果はありません。ただ、栄養が吸収される前に排泄してしまうので、食べていないのと同じと言えるかもしれません。
ただ、エネルギーを吸収しなくて済む(ぜい肉がつかなくて済む)代わりに、代謝に必要な栄養素も摂取できないことになります。
下剤は長期間の使用で、腸の神経が刺激に慣れてしまいまいます。すると正常な刺激が加わっても排便が起こらなくなります。排便するために、また下剤を増量することになり使用量がどんどんと増えていってしまうのです。
下剤の乱用で、電解質のバランスが崩れます。そして次のような症状が起こります。このような下剤乱用による悪循環で症状をきたしているものを「下剤乱用症候群」(★1)といいます。
★1 ★下剤乱用症候群の症状★
・低カリウム血症
→腸蠕動緩慢、倦怠感、脱力感、不整脈
・低ナトリウム血症
→倦怠感、脱力感、意識障害、痙攣
・ビタミン不足
→肌がボロボロになる、体内の代謝に悪影響
・脱水
・カタル性大腸(常に便意を感じる)※大腸刺激性下剤の長期乱用で起こりやすい
・偽性Bartter症候群
・代謝性アルカローシス
・巨大結腸症
・麻痺性イレウス(腸管神経叢への影響?)
・大腸メラノーシス(大腸黒皮症)
→センナ、大黄アロエなどの大腸刺激性下剤の長期使用で、大腸粘膜が色素沈着を来すもの。ヒョウ柄のような模様になる。メラノーシスそのものの腸管機能の影響はないと考えられているが、刺激性下剤の長期使用は良くない。大腸メラノーシス=刺激性下剤を長期服用しているサイン→下剤の変更などの指導が入る。
・腸管機能不全
2)神経性やせ症や摂食障害が根底にある下剤乱用症候群へのアプローチ
※先に紹介した症例報告を下にまとめています
①重度の栄養障害に対する栄養状態改善
Refeeding症候群(★2)に注意して、経腸栄養を開始。電解質異常の補正(カリウム、ナトリウム)。
経管栄養剤の検討(腎機能にあわせたものなど)し、経口での経腸栄養剤の摂取へと徐々に変更。
泥状便などがでるようになったら低残渣食へ移行していく。
②下剤乱用による消化管蠕動低下(排便機能低下)への対処
腸蠕動低下に対し、大腸刺激性下剤は使用せず、ルビプロストン(商品名:アミティーザ)、ラクツロース(商品名:ラクツロース)、パンテチン(商品名:パンテチン)、大健中湯を使用する。
③下剤への依存を断ち切るための多職種アプローチ
・精神科医との連携:認知行動療法、抗不安薬
・消化器内科医:全身状態の補正
・栄養サポートチーム;本人が受け入れやすい栄養剤や食形態を提案し調整する
・看護師:排便習慣獲得への支援(1日1回決まった時間に排便を試みる、腹部マッサージ)、精神的支持
・理学療法士:腹筋を使う運動や体操の指導
(★2)リフィーディング症候群
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』リフィーディング症候群 - Wikipedia
リフィーディング症候群とは、英語: Refeeding syndrome; 長期慢性的な低栄養状態に対して急激な栄養補給を行った際に生じる体内での水、電解質の分布異常により引き起こされる様々な代謝疾患の総称。
戦争や紛争に伴う飢餓や重度摂食障害の後に開始される、栄養回復のための平常の食事や輸液治療が引き金となり発症し症状は急速に進行する。心不全、呼吸不全、腎不全、肝機能障害、多臓器不全などにより重篤で致命的な合併症を伴うことがある。
臓器発達が不十分な低出生体重児においても急激な栄養投与は、当該疾患を発症させることがある。
発症機序
①
飢餓により生命維持のためのエネルギー代謝は糖を主体とした状態から、体内に蓄積されているタンパク質や脂質を利用する状態に変わる。これにより代謝率は20%程度低下する。この作用を利用したのが、低糖質ダイエットと云える。
②
飢餓が長期になると脂肪(ケトン体)をエネルギー代謝として利用する状態に変化する。(グルカゴン優位)脳と赤血球にグルコースを供給するため骨格筋のタンパク質が利用される。
③
食事や輸液により体内に糖(グルコース)が取り込まれ、インスリンの急激な分泌が起こる。(インスリン優位)
④.
解糖系代謝が活発化しリン、カリウム、マグネシウム、水分などが血管内から細胞内へ移動する。
⑤
血中リン濃度の低下によりクエン酸回路(TCA回路)が機能しなくなる。
もともと飢餓のため必要な電解質とビタミン類が不足しているので、容易に低リン血症、低カリウム血症、低マグネシウム血症が生じる。
4.知覚的便秘の対象
・神経性やせ症
・摂食障害(過食症、過食嘔吐症)
・毎日同じ時間の排便を期待する
・下剤の乱用、座薬の乱用、浣腸の乱用
5.目標設定
目標は患者さんを主語にして立てます。
・知覚的便秘の原因となっている原疾患の治療に向き合うことができる。
・下剤乱用症候群について知ることができる。
・腸の機能について理解できる。
・正常な排泄について理解できる。
・栄養素・電解質・ビタミンの働きについて理解できる。
・気分転換を取り入れることができる。
看護師を主語にたてる場合には以下のようになると思います。
・大腸刺激性下剤に頼らずに、生理的な排便パターンが得られるよう支援する。
・他職種との連携で、本人が主体的に治療に参加し、本人が納得して満足できる結果となるよう支援する(治療内容に納得してもらい、退院後も入院中の生活が継続できるように支援する)
・過食嘔吐症、機能性低血糖、抑うつ、下剤乱用の悪循環を理解してもらい、再発防止に繋げる。
・正常な排泄について理解を促すことができる。
・5大栄養素(糖・タンパク・脂・電解質・ビタミン)について理解を促すことができる。
5.看護計画
1)観察計画《OP》
・年齢、性別
・カタル性大腸(常に便意を感じている)
・体重、BMI
・腹部症状(腹痛、腹部膨満感、圧痛)
・腸蠕動音の異常
・排ガスの有無
・栄養状態
・血液データ(Alb,TP,Hb,TC,Glu,Na,Kなど)
・う歯
・脱毛、肌荒れ
・月経周期(生理不順、無月経)
・上部消化管内視鏡検査所見(食道のただれなど)
・下部消化管内視鏡検査所見(大腸メラノーシス所見:ヒョウ柄の大腸)
・神経性やせ症、摂食障害、抑うつ病の診断
・自己に対するボディイメージ
・理想のボディイメージ、ヤセ願望
・肥満や体重増加への強い恐怖
・幸福感
・精神状態:不安の程度
・性格:神経質、自己概念(自分像)への固執
・タイプA行動パターン(A型気質):せっかち、達成欲求が強い、競争心が強い、野心がある、完璧主義といった特徴のある気質。→ストレスが多い、理想的な状態でないことがストレスとなる
※日本人に多いらしいです。こうした性格は血圧変動や心拍数へ影響を与え、循環器に負担をかけ、心臓病発症リスクとなるそうです。
・ストレスの有無、人間関係の悩み
・ストレスによる身体症状:血圧上昇、心拍数上昇、呼吸数増悪、瞳孔散大、頸肩背部の筋緊張、緊張型頭痛、胃部不快感、不穏、睡眠障害
・低血糖症状:空腹、注意散漫、意識障害など
・ストレス緩和法
・不適切なストレス緩和法に陥りやすい性格:暴飲暴食、アルコール多飲、性欲の変化
・職業、不規則な勤務形態
・毎日の食事環境(誰と、どこで)
・食事間隔、食事内容
・切迫した食欲、衝動的な食欲
・食欲への自己コントロール
・摂取量、摂取内容
・過食、過食嘔吐を始めた時期
・過食、過食嘔吐を継続している期間
・下剤乱用の有無、下剤の種類、量、使用間隔
・下剤内服に対する反応(下剤内服すると排便があるか)
・排便頻度、排便回数、便の性状
・排便への固執
・治療内容
・治療への理解、治療への意欲、治療への参加態度
・治療開始後のrefeeding症候群症状(慢性的低栄養状態に急激な栄養補給を行うことで起こる、水・電解質・代謝異常)
・リハビリの取り組み姿勢、リハビリ内容
・治療の効果(順調な治療経過をたどっているか)
2)行動計画《TP》
・安全な療養生活が送れるように療養環境の整備を行う。
・バイタルサイン測定、腹部症状確認、摂食状況確認し、治療の効果をアセスメントする。
・食事量、排泄パターン、体重をアセスメントする。
・血液検査の内容を確認する。
・嘔吐がないか確認する。
・治療初期の栄養投与の際には、refeeding症候群の発生に注意し、バイタルサインの変化や、全身状態の変化(浮腫、尿量、胸部症状、不整脈など)が起こっていないか、トレンドで把握する。
・話しやすい関係を築けるよう務める。
・お話を傾聴する。
・腹部膨満感、腹痛がある場合には、温罨法や腹部マッサージを行う。
・下剤への強い執着で下剤を要求してくる場合には、医師へ報告する。
・下剤を自己管理(持ち込んでいる)している場合には、お預かりする。
・治療の最終目標を理解しているか確認し、目標が達成できるように励ます。
・体重増加への恐怖を感じている場合など、不安の原因がわかったら、現在の状況と今後のたどる経過を説明し、安心感を与える。それでも効果がない場合には、多職種連携も視野に入れて医師へ報告する。不安が解消される(納得する)まで介入する。
・リハビリの時間以外に歩行訓練や体操など病床でも出来る運動があれば促す。
・気分転換活動を行う(散歩、音楽、動物、傾聴など)。
・リラックスできるケアを取り入れる(足浴、温罨法、マッサージ、音楽など)。
・多職種での関わりとなるため、それぞれが達成状況などの情報共有をし、同じ目標に向かうように調整する。看護師は、患者の思いを代弁し、患者の治療への態度や理解度・積極性を観察して他職種に共有してもらう。
3)教育計画《EP》
・栄養素について説明する。身体にとってどんな役割を果たしているのか。
・バランスの良い食事について説明する。
・精神科での処方がある場合には用法容量を守って服用するよう説明する。
・神経性やせ症、摂食障害、機能性低血糖、下剤乱用症候群について、(医師のIC内容と齟齬が生じないように)説明する。
退院後にまた同じことが繰り返されないように、ご家族にも説明する。
・治療計画の目的、目標、治療経過について説明する。
・下剤の種類について説明する。
・気分不快、胸痛、嘔気嘔吐、腹痛など、これまでにない症状が出たら教えてもらうようにお願いする。
・気分転換活動について説明する。
・退院後にも医師の指示に従って、精神科・消化器内科へ定期的に通院するように説明する。
余談:宿便って何?
「宿便」は明確に定義されていません。この宿便には様々な意見があります。この宿便の正体は謎ですが、日東医誌「宿便についての一考察」で興味深い症例や考察が発表されています。
以下のURLからチェックしてみてください。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kampomed/65/4/65_309/_pdf
宿便もいつかは明確に定義される日が来るかもしれませんね。
近年は、腸の消化機能以外の機能にも注目が集まっています。つまり、食べ物を消化吸収する以外にも役割があるというわけです。
例えば、腸と免疫の関係、腸活などの腸と健康の関係があります。
腸が健康で元気だと、体全体が元気になる(調子が良くなる)という考え方も一般的になってきました。
腸の健康は、体の健康につながっており、腸の不健康は、体の不健康につながっていると考えることができます。
最期までご覧いただきありがとうございました。
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