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セルフネグレクト(看護計画)
こんにちは、いつもご覧頂きありがとうございます(*゚▽゚*)
セルフネグレクト自体は、なんとなくイメージできますよね。ネグレクト=育児放棄・介護放棄ですから。
ここで問題になるのは「セルフケア」の範囲です。
単に「お風呂に入れない」「トイレに行けない」と言ったことだけではありません。
住居の掃除をせずに不衛生な環境のまま生活することも含まれます。(結果ごみ屋敷になる)
どんな場合がセルフネグレクトに該当するのかを一緒に学習していきましょう。
では、セルフネグレクトの対象を洗い出す前に、セルフケアの定義から確認してみましょう(*゚▽゚*)
お急ぎの方は下のジャンプより目的位置に移動してください。
1.セルフケアとは
そもそもセルフケアとはなんでしょう。WHOとオレムの定義をみて、セルフケアの概要を掴んでみましょう。
1)WHO定義
「セルフケアは、医療の利用の如何に関わらず、健康を増進し、病気の予防、健康の維持、病気や障がいに対応する個人、家族、コミュニティの力を手助けするもの」
2)オレムの定義
オレム・ドロセア(米国1914~2007)は、看護サービスと教育の両領域において活動してきた人物。
オレムによるセルフケアの定義は「個人の学習された目標思考的活動であるとし、自らの機能と発達を調整するためにつ用途する個人的ケア」である。
オレムは、セルフケア不足理論を使って個人の安寧を保つ上で不足しているセルフケア能力を見出し、看護実践を方向づけるための枠組みである看護システム理論を説いた。
それは、オレム看護モデルとしても知られており、リハビリテーション、プライマリケアなど、患者の自立生活運動を支援する場において特によく用いられる。
両者の定義を見て、なんとなくセルフケアの概要が掴めたのではないでしょうか。
セルフケアを簡単に言うと、「自分自身で自分自身をケアする」ことです。
ただ、自分自身のケアと一口に言っても、成長の段階によって、望ましい健康段階や発達段階というのが異なりますよね。
月齢や年齢にあった成長発達を遂げるために必要な知識や技術を獲得している状態が、セルフケアの充実している状態といえますね。
そのセルフケアの充実している状態を目指して、不足している知識や技術を探し、不足を充足させるために介入するのがオレムのセルフケア不足理論です(ややこしい(;▽;))。
もう少し、オレム看護論について考えてみましょう。
2.オレム看護論
オレム看護論は、セルフケアを中心的概念とする看護理論です。
この理論は、「セルフケア理論」、「セルフケア不足理論」、「看護システム理論」の3つの理論で構成されています。
それぞれを見てみましょう。
1)セルフケア理論
人間は自己の生命の存続や健康・安寧を維持するために、①不変的セルフケア要件、②発達的ヘルスケア要件、③健康逸脱に対するセルフケア要件、の充足と調整的機能を遂行する、としている。
①普遍的セルフケア要件
普遍的セルフケア要件は、全ての人間は共通のニーズ(ケア要件)のこと。以下の8項目から構成される。
・十分な空気摂取の維持
・十分な水分摂取の維持
・十分な食物摂取の維持
・排泄過程と排泄物に対するケアの維持
・活動と休憩のバランスの維持
・孤独と社会的相互作用の維持
・人間の生命・機能・安定に対する危険の予防
・人間の潜在能力、既知の能力制限、および正常でありたいという欲求に応じた、社会集団の中での人間の機能と発達の促進
②発達的セルフケア要件
発達的セルフケア要件とは、人間の胎内から成人に至るまでの各ライフサイクルで、時期別に必要とされるケア要件のこと。
生命過程の支持、発達過程促進、成長段階に適した成熟に必要な教育など全般。
それを阻害される要因としてオレムが挙げているのは、、教育剥奪、社会的適応の問題、健全な個性化の失敗、親族・友人・同僚の喪失、財産喪失・職業的安全の喪失、未知の環境への突然の転入、地位に関連した問題、不健康もしくは廃疾、苦しい生活状態、末期疾患及び差し迫った死、などである。
③健康逸脱に対するセルフケア要件
健康逸脱に対するセルフケア要件は、損傷・疾病を治療またはコントロールするためのケア要件のこと。
2)セルフケア不足理論
セルフケア不足
個人が自身のセルフケア要件(不変的セルフケア・発達的セルフケア・健康逸脱に対するセルフケア)を満たせないとき、「セルフケア不足」が発生する。
セルフケア不足は、知識がない・判断できない・セルフケアの結果を生み出す行動が取れないと生じる。
看護者はこれを発見し、必要に応じて援助するとされる。
3)看護システム理論
看護システムは、看護者がセルフケア不足をもつ患者に対して、セルフケア要件を充足するために、補完的関係の中で意図的に行う実践行為としている。それは全代償、部分代償、支持教育の3つの援助システムにより構成され、患者の行動に合わせて1つ以上のシステムが用いられる。
患者のセルフケア不足を援助する視点に立って、看護システムは以下の3タイプに分類するとされる。
全代償的看護システム(Total Compensation)
一部代償的看護システム(Partial Compensation)
支持・教育的看護システム(Educative/Supportive)
たとえば昏睡患者に対しては全代償的看護システムが適用されるとされる
セルフケアには「ニーズの不足に対する不変的セルフケア」「発達的セルフケア」「健康逸脱に対するセルフケア」の3つがあることがわかりましたね。それぞれのセルフケア充足に足りないものを「セルフケア不足」とし、その介入方法として看護システム理論があることも学びました。
看護システム理論の中には「全代償」「部分代償」「支援教育」という3つの介入方法があることもポイントですね。
セルフケアについて学んだところで、今回の学習項目である「セルフネグレクト」について考えていきましょう。
セルフネグレクトは、セルフケア全般において困難な場合が対象です。
特定の行為(入浴、排泄、食事、更衣)のセルフケア不足については、下の看護診断を参考にしてみてください。
また、セルフネグレクトから脱却しつつある状態の場合はセフルケア促進準備状態を参考にしてみてください。
3.セルフネグレクトとは
自身の生活環境の衛生管理や健康行動を放任してしまい、自己の心身の健康や安全が脅かされている状態のことを言います。背景には、精神疾患、認知症などの疾患や、家族の喪失などによる意欲低下などがあります。
厚生労働省のHPより抜粋しています。
https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/kousei/22/backdata/01-02-02-30.html

4.セルフネグレクトの対象
セルフネグレクトになってしまうのには、いくつか要因があります。環境要因と個人的要因に分けて考えてみます。
1)環境要因
・衛生環境が不十分
・ゴミ屋敷
・水が汚染している
・空気が汚染している
・騒音で十分な休息が取れず、易疲労。
2)個人的要因
・個人衛生が不十分
・精神疾患
・学習障害
・認知機能の低下(清潔行動が取れなくなる)
・前頭葉機能障害(外傷・腫瘍・脳血管障害など)
・物質乱用(中毒でほかのことが考えられない)
・薬物
・アルコール
・ゲーム
・ギャンブル
・保健活動へのノンアドヒアランス(保健活動への理解がない)※1
・ワクチンの拒否(ワクチンを打てない理由がある場合は除く)
・精神発達的未熟(性教育が不十分)
・認知機能の低下
・喪失体験
・家族の喪失
・家族の巣立ち
・疾患により保健行動や自身のセルフケアが困難となっている
・麻痺
・運動麻痺:自力でのセルフケアに限界がある
・運動麻痺:自助具を必要とする
・骨折
・空間無視(視界に制限がある)
・神経筋疾患(力が入らない、不随意運動があるなど)
・座位困難、立位困難
・疼痛
・心機能障害(入浴で苦しくなる、動悸、胸痛)
・呼吸機能障害(入浴で呼吸が苦しくなる、酸素の吸入)
・消耗性疲労★1
・障害の受容段階で否認、怒り、取引、抑うつの段階にある (★3)障害受容モデルについて
※1 アドヒアランスとは、患者が積極的に治療方針の決定に参加し,その決定に従って治療を受けること。コンプライアンス(患者に対する服薬遵守)から一歩進めて,医療者と患者が相談して治療法を決めることにより,患者の治療への積極的な参加を促し,治療成功をめざすもの
日本薬学会「薬学用語解説」より引用:アドヒアランス – 薬学用語解説 – 日本薬学会 (pharm.or.jp)
★1 消耗性疲労については以下の記事も参考にしてみてください
5.目標設定
目標は患者さんを主語にして立てます。
・原疾患(セルフネグレクトの原因となっている疾患)の治療に向き合うことができる。
・原疾患(セルフネグレクトの原因となっている疾患)の自己管理ができる。
・ADLや障害に合わせた福祉用具や自助具を活用できる。
・衛生的な療養環境を維持できる。
・健康的な生活のためのセルフケアができる。
看護師を主語にする場合にはつぎのようになるとおもいます。
・セルフケア充足のために、ADLや障害に合わせた療養環境を整える。
・発達段階に合わせた支援を行う。
・原疾患の管理を行う。
・障害受容過程の段階に合わせた支援を行う。
・残存機能を生かした生活ができるように、本人や家族へアドバイスをし、知識や技術を習得してもらう。
・ご本人・ご家族・介護者の訴えを傾聴し、不安の緩和に努める。
・成功体験を重ね、自己効力感が高まるように関わる。セルフケアに対する意欲が出るまで見守り支援する。
4.看護計画
1)観察計画《OP》
(1)療養環境の要因
・発達段階に合わせた生活環境かどうか
・障害の状態に合わせた生活環境であるか
・手すり、スロープ
・柵
・ポータブルトイレ
・誤薬が起こらない管理かどうか
・服薬カレンダー、服薬のチェックはだれがしているか
(2)個人的な要因
・労作によるバイタルサインの変動
・バイタルサインの安静時と労作時の変化
・労作時の自覚症状の有無(めまい、動悸、息切れ、胸痛、疼痛)
・認知力低下
・服薬コンプライアンス(内服をちゃんと飲んで、症状がコントロールできているか。
過剰に飲んだりしていないか)
・意欲の有無
・認知症スケール:長谷川式、MMSE
・精神疾患
・抑うつ
・幻覚(幻視、幻聴)
・妄想(被毒妄想、殺されるなど)
・意欲低下、気分障害
・服薬コンプライアンス低下(服薬コントロール不良)
・既往歴、現病歴
・受傷時期
・病期:急性期、慢性期、終末期など
・症状
・治療:
・食事療法:制限食
・後遺症
・麻痺、変形
・麻痺:部位、範囲、完全麻痺、部分麻痺
・麻痺の場合の残存機能
・介護者の有無、介護者の介護力
・末梢の感覚(指先・足先)
・言語障害(頼みたくても頼めない)
・膀胱直腸機能障害
・不随意振戦、てんかん発作
・自助具
・杖、歩行器
・疼痛管理:
・疼痛の程度:フェイススケール、ペインスケールなど。
・疼痛出現のタイミング:安静時疼痛、労作時の疼痛
・疼痛の部位
・疼痛の種類;刺すような痛み、突然の痛み、じわじわと圧迫されるような痛みなど
・負荷試験
・6分間歩行
・筋力:MMT
・静脈血データ
・貧血
・低栄養
・現疾患管理に必要な血液データ
・障害や死の受容過程段階
否認→怒り→取引→抑うつ→受容の各段階における現状。
・悲観的発言
・自傷他害行為
・物質乱用の有無
・薬物
・アルコール
・ゲーム
・ギャンブル
・物質乱用による社会からの孤立
・対人トラブル
・金銭トラブル
・自傷他害
・犯罪(お金や依存物質を得るために犯罪を犯していないか)
2)行動計画《TP》
・不安や悩みを傾聴する。
・原疾患治療の診療上の世話を行う(服薬介助、リハビリ、処置介助)。
・セルフケア不足の内容に合わせて、「全代償」「部分代償」「支援教育」を行う。
・ADLや機能障害にあった安全・安楽・自立に配慮したケアを行う。(残存機能を生かす)
・療養環境を整備する
・ケアマネージャー(介護保険)や日常生活支援員(障害サービス)と連携し、
退院後の療養環境を整える。
・L字柵、手すり、車椅子、滑り止めマット、ポータブルトイレなどの設置をする。
・食事の際の食器、自助具の工夫をする。
・移動のための十分なスペースを確保する。整理整頓。
・ストマの管理を行う。
※ストマ管理は「排泄セルフケア不足」を参考にしてみてください
・動きやすい衣服や靴を選択できるよう促す。
・障害の受容過程に合わせた支援を行う。
障害や死の受容過程は必ずしも一方向に進むものではなく、進んでは後退してを繰り返す場合もあります。受容段階に入ったと思っても、その前の段階の抑うつに戻ることもありますので、自傷他害行為が起こりやすい時期は特に注意しましょう。
・リハビリなどうまくいかない、思い通りにならなくても、出来た時にはともに喜んで、成功体験を積んでもらう。不安定な時期は抑うつ症状に注意する。自己効力感を高める関わりをする。
・服薬カレンダーへの薬のセッティングを行う。
・依存物質を遠ざける。
・依存物質の離脱症状が出た際には、自傷他害行為に注意する。
(抑制が必要な時に備えて抑制同意を取っておく)
3)教育計画《EP》
・内服は自己中断せず、処方されたものを内服するよう説明する(自宅での療養生活を維持するために内服は大切です)。
・自覚症状(疼痛、動悸、息切れ、呼吸苦など)があったら知らせるようにお願いする。
・痛みは我慢せず、知らせるように説明する。必要に応じて鎮痛薬が使用できることを説明する。
・ライフスタイル変化への適応のための助言を行う。
・ワクチンの有効性について説明する。(疾患やアレルギーにより摂取出来ない事情がある場合は除く)
・厚生労働省予防接種情報を紹介する。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/yobou-sesshu/index.html
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/kihonteki_keikaku/index_00001.html#Q1
・ご家族へも手伝いすぎずに残存機能を残すための介助をするように説明する。(何をどこまで)
・自宅での生活に必要なサービスが受けられるように、ソーシャルワーカー、ケアマネージャーに相談する。
・在宅療養を支援するご家族にも、障害受容過程について説明し、困ったときにはケアマネージャーなどに相談出来ることを説明する。
・生活環境により健康状態が維持できない場合には、住環境の変更(転居)なども視野に含めて、ソーシャルワーカーへ依頼する。
・物質依存がある場合には、自助グループなどの参加を促す。ソーシャルワーカーへ依頼する。 物質依存に関しては★2中毒リスク状態を参考にしてみてください。
★2 中毒リスク状態
★3 障害の受容モデル
ショッキングな出来事が起こると、特に自分自身のことや身近な人のことなど、その事実を受け入れられるまで時間がかかりますよね。
その事実を受け入れられるまでの過程を「モデル」として発表された方々がいます。
そういう過程を経ると知ることは、介入するもの(看護師などの患者さんと直接関わるもの)にとって重要です。段階に合わせて注意すべき点が異なるからです。
2つの有名なモデルを紹介します。他にも「コーン」「ションツ」のモデルもあります。気になる方は調べてみてください。
Ⅰ)キューブラ・ロス(米国・精神科医):死の受容過程
末期患者の系統的な研究をしていく中で、死の受容過程を見出した。
①否認:「うそでしょ?自分が?」「そんなはずはない」信じられない段階
②怒り:「なんでこんなことになった」「あのときあんなことがなければ」「あの時の生活のせいなのか」「こんなに頑張ってきたのに、なんで自分がこんなことになければならないのだ」「この先どうなっていくんだ?死ぬのか?死ぬのは痛いのか?いつなんだ?」事実を認識したものの受け入れがたく、やり場のない怒りや悲しみが押し寄せる段階
③取引:「神様、どうか治してしてください。まだやり残したこともあるんです。」神頼みをする段階
④抑うつ:「どうにもならないのなら、もう死にたい。家族に迷惑もかけたくないし。」あきらめや投げやりになる段階
※この時期は自殺企図を示す場合があるので注意。
⑤受容:「誰しも最期の時はくるから。これも運命なのかもしれない」「くよくよしていても仕方がないから、できることをしよう。後悔しないように。」受け入れて前に進もうとする段階
2)フィンク(米国・精神科医):危機モデルによる悲嘆プロセス
危機発生直後から適応までの介入プロセスを発表。
①衝撃:死の予告、死別などの心理的衝撃
強烈な不安・パニック・茫然自失
②防衛的退行:死別という出来事に対する防衛機制
否認、抑圧、現実逃避
③承認:現実の知覚と自己再調整の時期
※この時期は自殺企図を示す場合があるので注意。
④適応:訪れる死別の状況や現実に対応
建設的な方法で受け入れ、新たに自己の存在や価値を見出す。
キューブラ・ロスのモデルは「死」を前提としていますが、内容を見ていただきますと、「死」以外のバッドニュースでも同様な過程をたどるような気がします。
障害や死の受容過程は必ずしも一方向に進むものではなく、進んでは後退してを繰り返す場合もあります。受容段階に入ったと思っても、その前の段階の抑うつに戻ることもありますので、自傷他害行為が起こりやすい時期は特に注意しましょう。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。ご意見ご感想ご質問がありましたら下のコメント欄よりお待ちしております(*゚▽゚*)

