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自発換気障害(看護計画)
いつもご覧いただきありがとうございます。
今回は「自発換気障害」を取り上げていきます。
自発換気とは人工呼吸器などの補助なく、自身の力で呼吸している状態ですよね。
脳梗塞などで呼吸中枢が機能しなくなる状態や、窒息などで換気ができなくなる状態で、命にかかわる場合が少なくない状況です。
この計画は医師との共同問題となりますので、医師の指示に従うことが前提です。看護師としての役割としては、経過の観察(変化や治療効果)をしたり、適切に治療が行われるように管理することが重要です。
観察をして経過が良好かどうかを知るためには正常を知る必要があります。
まず、自発換気のための呼吸器の生理からおさらいしてみましょう。
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関連の計画に以下のものがありますので参考にしてみてください。
ガス交換障害
非効果的呼吸パターン
1.自発換気の生理(呼吸の生理)
1)呼吸調節
(1)神経性調節
①延髄(延髄毛様体)にある呼吸中枢による調節
②横隔神経(C4レベル)による横隔膜運動の調節(①が上位中枢)
③肋間神経(T1~11レベル)による肋間筋運動の調節(①が上位中枢)
(2)化学性調節
①中枢性化学受容体:延髄の化学受容体でのCO2濃度↑感知で、呼吸促進する調節
②末梢性化学受容体:頚動脈小体・大動脈小体でのO2↓、pH↓感知で、呼吸促進する調節
(3)行動性調節
①大脳皮質で、発声や情動の変化を捉えて、呼吸を調整→例:過換気症候群など
呼吸がどこで調整されているか大まかに理解できたところで、今度は、その調整がうまくいかなくなった場合について考えていきましょう。
呼吸の調整がうまくいかなくなるというのはどういうことでしょう。またそうなった場合にはどんな症状が出るでしょうか。
調整がうまくいかなくなると、呼吸苦が出現する、努力呼吸となる、呼吸のリズムが乱れる、深さが異常になるといった症状が出ます。それぞれに原因がありますのでみてみましょう。
2.呼吸の異常
(1)呼吸リズムの正常値
異常を知るためにはまず正常値を知る必要があります。
呼吸数正常値:12~20回/分(新生児は40~50回/分)
(2)努力呼吸
①起座呼吸
臥位では呼吸が苦しいが、座位になると呼吸が楽になる状態。
臥位時には呼吸が浅くなり、起座位となると正常の呼吸ができる。
※臥位:静脈還流増加→呼吸困難増強
※座位:静脈還流減少→呼吸困難緩和
原因疾患:左心不全、肺水腫、喘息の大発作、胸膜肥厚
②口すぼめ呼吸
③陥没呼吸、鼻翼呼吸
(3)パターン異常
①クスマウル呼吸:呼吸数は大きく変わりがないが、深い呼吸となる。
代謝性アシドーシスなどでみられる代償性換気。
原因疾患:糖尿病性アシドーシス、尿毒症、重症下痢
②チェーンストークス呼吸:低換気とか換気を周期的に繰り返す呼吸。
原因疾患:大脳皮質障害、間脳障害、重症心不全、高齢者(睡眠時)、Pickwick症候群(★1)
③ビオー呼吸:無呼吸と頻呼吸が不規則に不規則に繰り返される失調性呼吸。
チェーンストークスよりも周期が短く、不規則であるのが特徴。
原因疾患:延髄の障害、髄膜炎の末期
★1Pickwick症候群
高度肥満により、睡眠時に上気道閉塞をきたすもので、肥満による重度の睡眠時無呼吸症候群のことである。
症状として、昼間の強い眠気や居眠り、夜間の無呼吸がみられる。
(4)呼吸数と深さの異常
①頻呼吸:呼吸数25回/分以上、深さは正常
原因:肺炎、発熱
②徐呼吸:呼吸数12回/分以下、深さは正常
原因:頭蓋内圧亢進状態、麻酔
③多呼吸:呼吸数増加・深さ深くなる
原因:呼吸窮迫症候群(RDS)、過換気症候群、肺血症性塞栓症、先天性横隔膜ヘルニア
④過呼吸:呼吸数正常、深さ深くなる
原因:過換気症候群、神経症、もやもや病
⑤無呼吸:安静呼気で無呼吸期間が出現する
原因:睡眠時無呼吸症候群
(5)呼吸筋異常に起因する呼吸の異常
①重症筋無力症
②破傷風
③ボツリヌス中毒
④Guillain-Barre症候群
⑤中毒(有機リン、n-ヘキサン、ふぐ毒)
⑥筋萎縮性側索硬化症(ALS)
ここまで正常な呼吸と異常な呼吸についてみていきました。
異常呼吸による酸素化不良となった状態を「呼吸不全」といいます。呼吸不全にはⅠ型とⅡ型がありましたね。
それぞれの定義と分類を見てみましょう。ここまで把握できると、換気障害が理解できると思います。
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3.呼吸不全(Ⅰ型とⅡ型、急性と慢性)
呼吸不全の定義は、「室内気吸入時のPaO2が60Torr以下となる呼吸障害、またはそれに相当する呼吸障害を呈する異常状態である。」とされている。
慢性と急性の分類は慢性呼吸不全の定義を見ればわかる。「慢性呼吸不全とは、呼吸不全の状態が少なくとも1ヶ月以上持続するものをいう」と定義されている。
1)Ⅰ型とⅡ型
Ⅰ型とⅡ型の共通事項は、PaO2が60Torr以下であることである。
Ⅰ型ではPaCO2が正常値であるのに対し、Ⅱ型ではPaCO2が45Torr以上である。
Ⅰ型とⅡ型の違いは、Ⅰ型が「肺・気道」の障害が起因しており、Ⅱ型は肺を駆動する「胸郭、運動ニューロン、中枢神経系」の障害が起因していることにある。
(1)Ⅰ型呼吸不全
・PaO2≦60Torr
・PaCo2正常
①原因:
・シャント増加:ARDS、肺動静脈瘻
・肺拡散能の低下:COPD、間質性肺炎、肺切除後
・換気血流比不均衡:気道肺胞系・肺血管系に異常をきたす疾患
(2)Ⅱ型呼吸不全
・PaO2≦60Torr
・PaCo2≧45Torr
①原因:
・呼吸中枢機能低下:肺胞低換気症候群、Pickwick症候群
・神経・筋疾患:進行性筋ジストロフィーなど
・高度気流閉塞/死腔の増加、喘息重積発作、COPD
4.自発換気障害の適応
〈自発換気障害の症状がある〉
・呼吸数・深さの異常
・SPO2値の低下
・呼吸困難
・チアノーゼ
・意識障害
・そのた中枢神経系への異常をきたす症状(麻痺、瞳孔異常など)
〈肺・気道の障害〉
・シャント増加:ARDS、肺動静脈瘻
・肺拡散能の低下:COPD、間質性肺炎、肺切除後
・換気血流比不均衡:気道肺胞系・肺血管系に異常をきたす疾患
・頻呼吸:肺炎、発熱
・多呼吸:呼吸窮迫症候群(RDS)、過換気症候群、肺血症性塞栓症、
・気胸
〈胸郭、運動ニューロン疾患、中枢神経系の疾患〉
・呼吸中枢機能低下:肺胞低換気症候群、Pickwick症候群、脳梗塞・脳出血後遺症
・神経・筋疾患:進行性筋ジストロフィーなど
・高度気流閉塞/死腔の増加、喘息重積発作、COPD
・ボツリヌス中毒
・中毒(有機リン、n-ヘキサン、ふぐ毒)
・代謝性アシドーシス:糖尿病性アシドーシス、尿毒症、重症下痢
・チェーンストークス呼吸:大脳皮質障害、間脳障害、重症心不全、高齢者(睡眠時)、Pickwick症候群
・ビオー呼吸:延髄の障害、髄膜炎の末期
・徐呼吸:頭蓋内圧亢進状態、麻酔
・多呼吸:先天性横隔膜ヘルニア
・過呼吸:過換気症候群、神経症、もやもや病
・無呼吸:睡眠時無呼吸症候群
5.目標設定
目標は患者さんを主語にして立てます。
・治療計画が理解できる。
・治療に伴う自己管理ができる。
・再発防止のための生活習慣見直しができる。
・(在宅)呼吸状態の異変を感じたら病院受診ができる。
看護師を主語にする場合にはつぎのようになるとおもいます。
・バイタルサイン、モニターで異常の早期発見に努める。
・呼吸数、呼吸のリズム、呼吸の深さ、努力呼吸を観察・記録し、異常の早期発見に努める。
・自発換気障害の原因疾患の経過を観察し、異常の早期発見に努める。
・呼吸苦などの不快症状の緩和に務める。
・不安を傾聴し、不安の緩和に務める
6.看護計画
1)観察計画《OP》
・年齢、性別
・既往歴、現病歴
・喫煙、ブリンクマン指数(一日の喫煙本数×喫煙年数—-高いほどよくない)
・体重、肥満度(Pickwick症候群リスクの肥満かどうか)
・バイタルサイン
・血圧、脈圧、左右差
・心拍数、脈拍数、心拍と脈拍の差
・心雑音
・SPO2
・ETCO2
・体温
・呼吸
・呼吸数、呼吸の深さ・リズム
・無呼吸(安静時、睡眠時)
・呼吸音の左右差
・肺雑音
・努力呼吸、陥没呼吸、口すぼめ呼吸、鼻翼呼吸、呻吟
・異常呼吸:ビオー呼吸、クスマウル呼吸、チェーンストークス呼吸
・XP
・陰影欠損、スリガラス陰影、肺の虚脱
・喀痰
・血痰、膿瘍たん、黄色たん
・チアノーゼ
・ばち状指
・動脈血データ(PaO2、PaCO2、pH、HCO3、BE)
PaO2低下
<60Torr …呼吸促迫、頻脈
<40Torr …チアノーゼ、興奮、見当識障害
<20Torr …昏睡、徐脈、ショック
PaCO2上昇
>55Torr …発汗、血圧上昇、手のぬくもり
>65Torr …傾眠、羽ばたき振戦
>55Torr …昏睡、縮瞳
・意識レベル(アシドーシス、尿毒症などによる意識障害の有無)
・人工呼吸器装着中
・呼吸器の設定
・回路異常
・挿管チューブカフ圧、挿管固定部トラブル
・酸素投与量
・鎮静剤、鎮痛剤の使用の有無
・モニタ異常値の有無(ECG、SPO2、ETCO2、P、BP)
・酸素投与
・投与デバイス、投与量(安静時・労作時)、SPO2、血ガスデータ、意識状態
・酸素ボンベの使用状況、本人が交換できるか
・静脈血データ
・炎症反応、BUN、HbA1c、BNPなど換気障害の原因疾患を示すデータ
・レントゲンなどの画像データ
・呼吸困難感:安静時呼吸困難、労作時呼吸困難
・スパイロメトリー:一秒率、肺活量
・循環動態の指標となる数値や症状
・チアノーゼ
・尿量減少、
・湿性咳嗽
・喀痰:量、性状(色、粘稠度)
・水分出納バランス
・心電図
・不整脈
・内服薬
・認知障害、コンプライアンス
・食事形態、食事摂取量、補助食品、栄養を示す血液データ
・精神状態、ストレス(過換気症候群のリスク)
2)行動計画《TP》
・安全・安楽・自立に配慮したケアを行う。
・治療計画に沿った診療の補助を行う。
・チューブ類を整理し、屈曲や抜去が起こらないようにする。
・安静度を守れるように環境を整える。
・転倒防止に配慮した環境整備をする。
・人工呼吸器使用中は、設定値、実測値をダブルチェックする。回路の破損を確認する。加湿の蒸留水の量を確認する。挿管チューブの挿入長・カフを確認する。挿管チューブにテンションがかからないように固定する。
・人工呼吸器使用に伴う鎮静を行っている場合には鎮静スケールによる評価を行う。スケールの指示に従い、適宜鎮静剤の量を調整する。モニターの値を確認する。異常値があればリーダーと主治医へ報告する。
・挿管チューブ挿入中は、マウスケアを2人で行う。固定による皮膚トラブルを観察する。
・シリンジポンプの使用法、交換手順を再確認し、フリーフローに注意する。
・睡眠時無呼吸症候群の夜間BiPAP使用導入時は、必要性を説明しながら、患者が受容できるように関わる。設定、酸素量、回路の確認など安全に使用できるようにセッティングする。
・BIPAPマスクが清潔に使用できるように、洗浄を行う。
・NPPV使用に伴う皮膚障害を防ぐため、ドレッシング剤などで保護する。
・酸素使用中は、酸素の投与デバイス・投与量・意識状態を確認する。酸素が確実に投与されているか、ルートをたどって確認する。引っ張らないように環境整備を行う。
・ボンベの残量を確認し、残量が少ない場合には交換する。自己管理をしている患者さんでも、使用時に声をかけ量を確認する(ときどき開栓を忘れたまま歩いていることがある)。
・医師の指示に従い、決められた時間に尿量の測定を行う。CVP測定、インアウトバランスを確認し、記録する。
・ピークフローを測定している患者の数値を確認する。忘れている場合には声掛けをする。
・吸入薬が適切に使用できているか確認(セットの仕方、吸入後の息こらえなど)し、出来ていない場合には説明しながら、手技が習得されるまで毎日見守りを行う。
・タバコ、火気類を預かる。(院内に持ち込まないように本人、家族に説明する)
・良肢位保持のための他動運動(関節可動域運動)を行う。
・治療中にもADLが顕著に低下しないよう、呼吸状態に合わせた活動を取り入れる。
・苦痛症状がないか確認し、苦痛の緩和に務める。
・不安があれば傾聴し、不安の軽減に努める。
・呼吸苦などの症状で、清潔ケアや食事などの必要なことが自身でできない場合には、援助する。
・その他、換気障害をきたす現疾患のある場合には、その疾患の管理も行う。
3)教育計画《EP》
・いつもと違う異常な症状(息切れ、苦しい、尿の減少、尿が出にくい、むくみがひどくなった、突然の強い眠気)があったらすぐに知らせるように説明する。
・治療計画の目的、目標、治療経過について説明する。
・治療上の守ってもらいたい事を説明する。
・(必要時)在宅での生活改善について説明する。
・自宅でのBIPAP使用が継続されるように、使用法・回路管理法などを説明する。
・定期の吸入薬の使用法を説明する。喘息発作などで使用する吸入薬(メプチンなど)の使用間隔についても説明する。
・酸素ボンベへの接続、使用法を説明する。
・チューブ類の抜去に伴う危険について説明し、抜去が起こらないような療養方法について説明する。
・酸素使用時は火気厳禁であることを説明する。
・自宅で酸素を使用する場合も火気厳禁は同様で、最低でも火気より2mは離れる必要があると説明する。
・在宅でいつもと違う呼吸器の症状が出現した場合には、病院受診をするように説明する。
・過換気症候群などの精神的な要因がある場合には、他の診療科への受診も検討されるように医師からお話してもらう。
・浮腫がある場合には、皮膚が弱くなっていることを説明し、ぶつけたりしないよう気をつけてもらう。
・内服治療では、医師の指示に従い、用法用量・期間を守る必要性を説明する。
・栄養管理中(Na、K、タンパク、リン、水分制限など)は、菓子などを持ち込まないように本人、家族に説明する。持ち込みたい場合には医師に確認を取るため、勝手に食べないように説明する。
・タバコ、火気類を院内に持ち込まないように本人、家族に説明する。
・本人と家族に必要時は抑制をさせてもらう旨を説明し、承諾を得る。
最後までお付き合い頂きありがとうございました。
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