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人工換気離脱困難反応 (看護計画)
いつもご覧いただきありがとうございます。
今回は「人工換気離脱困難反応」について考えていきます。
人工換気とは人工呼吸器を使った呼吸のことです。人工換気からの離脱が難しくなっている状態に対して介入していきます。
人工呼吸器を離脱し、自発呼吸するための段階的な介入のことウィーニングといいます。
学生の方は、人工呼吸器をつけた患者さんが、呼吸器を外すことができるなんて信じられないかもしれません。私も、「人工呼吸器って自分で呼吸ができない人が付けるものなんじゃないの?」と学生時代は思っていました。
人工呼吸器を一時的に使用する場合はどんな時でしょう?学習してみれば、納得します。
それは、どんな場合か一緒に学びましょう。
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1.人工呼吸器の適応
そもそも人工呼吸器はどんな人が付けるのでしょう?
その対象者について見てみましょう
1)人工呼吸器とは
自力での呼吸では、十分な換気ができない場合に、人工的(機械的)に換気を行うもの。
補助換気(自発呼吸を助ける)と強制換気(機械が人に変わって換気をする)がある。
2)適応
人工呼吸器の明確な開始基準はなく、医師の判断に任される。
①換気障害
・呼吸運動の問題(無呼吸、呼吸筋力低下)
・気道確保困難
②酸素化障害
・人工呼吸以外の治療で改善されない低酸素血症
③呼吸仕事量が過剰(酸素消費量の増加→呼吸筋の疲弊)
・代謝亢進による一回換気量の増加
・コンプライアンス低下する病態
・気道抵抗が上昇する病態
④循環動態が不安定
・ショック
・重症不整脈
⑤手術(麻酔機の使用)
3)人工呼吸器開始の目安
①呼吸回数の異常: 徐呼吸≦5回/分 or 頻呼吸≧40回/分
②意識障害:低酸素血症、CO2ナルコーシス
③酸素吸入でも改善されない低酸素血症: 急性はPaO2≦60mmHg、慢性はPaO2≦50mmHg
④高二酸化炭素血症: 急性PaCo2≧50mmHg、慢性はPaCo2≧70mmHg
2.人工換気について
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人工換気は、自力での呼吸が困難な場合、機械の力を借りて、肺に空気や酸素を送り込むもの。
空気の量をコントロールするもの(定量式)、気道内圧を見ながら空気の量をコントロールするもの(低圧式)がある。
また、吸気を送り込むタイミングも、定められたタイミングで強制的に送り込むものと自発呼吸のあったタイミングでアシストする形で吸気を送り込むものがある。両者を併用するモードもある。
また、呼気の終末で肺胞が虚脱しないように低い圧(PEEP)をかけることもできる。
もっと細かく言うと、吸気にかける時間を短くするかどうかを工夫することでより多くの肺胞を膨らますことができる。ライズタイムを長くすれば長い時間で肺胞を膨らますことができる。
これらは、肺や気道の病状によってモードが選択される。
モードもたくさんあるし、それに付随する細かい設定もたくさんあって、混乱してしまいますよね。
メーカーの違いで、同じモードでも名前が違ったりします。それも混乱のもととなっています。
一度に全部覚えてマスターするなんてことはできないので、何度も復習して、少しずつ覚えていきましょう。
呼吸器の患者さんを受け持つ回数が増えてくると、だんだん、理解できるようになります。
1)駆動部位と換気方法による分類

2)侵襲性の有無による分類

侵襲性の有無による分類には、IPPVとNIVがある。
IPPVは「侵襲的陽圧換気」のことで、気管内挿管や気管切開を用いるもの。
NIVは「非侵襲的陽圧換気」のことで、マスクを用いるもの。
メーカーによってモードの名称が異なるため、それぞれに確認が必要。
3)モード
自発呼吸が「ある」か「ない」か。自発呼吸回数は正常範囲内か。
など、自発呼吸の状態によって、強制換気や補助換気を行う。
A.IPPV(侵襲的陽圧換気)の仲間
(1)CMV:持続的強制換気
自発呼吸がない人が対象となるモード。機械により等間隔で強制換気が入る。
①CMV(調節強制換気)
②AMV(補助強制換気)
(2)IMV:間欠的強制換気
自発呼吸はあるが、十分な換気量が保てない場合。自発呼吸に対しては補助換気を行い、
次の自発呼吸まで時間が空いてしまう場合には、強制換気が時間で入る。
①SIMV(同期式間欠的強制換気)
②A/C
(3)自発換気モード
自発呼吸がある人が対象のモード
①PSV(圧支持換気)
②CPAP(持続気道陽圧)
B. NIV(非侵襲的陽圧換気)の仲間
(1)NPPV(非侵襲的陽圧換気)
(2)maskCPAP(持続的気道陽圧)
4)コントロール方式
定量式と低圧式の二種類がある。
・定量式:あらかじめ設定した量のガスを送り込む
・定圧式:あらかじめ設定した気道内圧に達するように気道にガスを送り込む
3.ウィーニング
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ウィーニングとは、人工呼吸による強制換気から自発呼吸に切り替える過程のことです。
1)離脱(自発呼吸)までのみちのり
①人工呼吸となった原因が改善する ※原因については1.の2)適応を参照
②離脱に進む条件を満たしている
③自発呼吸トライアルをクリアしている
④抜管
離脱までのみちのり①~④をもう少し詳しく見ていきましょう。
①人工呼吸となった原因の改善は、1.の2)で人工呼吸器の対象となる状態をおさらいしましょう。
②離脱に進む条件を満たしている。
《人工呼吸器離脱に進む条件》
人工呼吸器を装着している時点で、下の条件を満たしているものは離脱(自発呼吸トライアル)へと進む。
・適切な酸素化:
FiO2≦40%のとき、SPO2≧90%以上
・呼吸性アシドーシスや電解質異常がない
・血行動態の安定:HR≦120回/分、血圧の安定
・適切な精神状態:覚醒しており、持続的な鎮静剤の使用がない
・痰の量が少ない、または排痰のために適切な咳ができる
③自発呼吸トライアルをクリアしている
《自発呼吸トライアル(SBT)》
自発呼吸トライアルとは、強制換気モードから自発呼吸モードへ切り替えた後も、呼吸が安定しているかを確認するもの。
強制換気モードにはCMV、AMV、A/C、SIMVがある。
自発呼吸モードにはPSV、CPAPがある。
《自発呼吸トライアル成功と判断する条件》
人工呼吸器モードを強制換気から自発呼吸モードへ変更したとき、下の条件を達成できた場合を、トライアル成功と判断する。
・適切な酸素化:SPO2≧90%維持でき、呼吸性アシドーシスやPaCO2の貯留がない
・呼吸パターンが安定している。呼吸数≦30回/分。努力呼吸が見られない。
・血行動態の安定:心拍数の安定、血圧の安定、不整脈の出現がない
・適切な精神状態:意識障害や強い不快感がない。
ここまでくれば、今回の看護診断「人工換気離脱困難反応」の対象が見えてきましたね。
「人工換気離脱困難反応」の対象は、
人工呼吸器適応となって人工呼吸器を装着したが、状態が改善し離脱の条件を満たしたため、自発呼吸トライアルへ進んだものの、自発呼吸トライアルはクリアできず、ウィーニングに手こずっている状態、といえますね。
4.「人工換気離脱困難反応」の対象
1)自発呼吸トライアルの成功条件を満たせない状態
・適切な酸素化ができない:
・SPO2≧90%維持できない
・呼吸性アシドーシスである
・PaCO2の貯留がある
・呼吸パターンが安定していない:
・呼吸数≦30回/分
・努力呼吸が見られる。
・血行動態が不安定:
・心拍数の不安定
・血圧の不安定
・不整脈の出現
・適切な精神状態でない:
・意識障害がある
・強い不快感がある。
2)原因となる疾患の症状が残っている
①換気の問題
・呼吸運動の問題(無呼吸、呼吸筋力低下)
・たんの貯留などによる気道確保困難
②呼吸仕事量が過剰(酸素消費量の増加→呼吸筋の疲弊)
・代謝亢進による一回換気量の増加
・コンプライアンス(肺の伸びやすさ)が低下する病態:重症肺炎、肺線維症
・気道抵抗が上昇する病態:COPD、喘息
5.目標設定
目標は患者さんを主語にして立てます。
・ウィーニング過程を理解できる。
・ウィーニングに積極的に参加できる。
看護師を主語にする場合にはつぎのようになるとおもいます。
・口腔内の清潔保持、排痰ケアを行い、気道のクリアランスを保持する。
・自発呼吸トライアル時は、呼吸数、SPO2、呼吸苦、脈拍数など密に観察し、異常の早期発見に努める。
・患者さんの訴えを傾聴し、不安の緩和に努める。
・患者さんが酸素を安全に使用できるよう支援する。
・ADLの維持に努める。
6.看護計画
1)観察計画《OP》
・既往歴、現病歴
・心疾患・弁疾患、不整脈、ショック
・肺疾患:喘息、COPD、肺線維症、重症肺炎
・人工呼吸器:換気モード、設定
・自発呼吸の有無、自発呼吸の回数、自発呼吸のパターン
・異常呼吸の有無(あえぎ、呻吟、陥没、尾翼、口すぼめ)
・呼吸困難(安静時、労作時)
・バイタルサイン
・SPO2
・血圧、脈圧、左右差、脈拍欠損
・心拍数(徐拍、頻拍)、脈拍数(徐脈、頻脈)、心拍と脈拍の差
・聴診:肺雑音(肺水腫)、心雑音(弁疾患3.4音)
・呼吸:回数、パターン
・呼吸音:左右差、副雑音
・身体所見
・浮腫、チアノーゼ、末梢冷感
・自覚症状:
・呼吸苦
・胸痛
・不安
・意識障害
・画像検査
・XP、CT:胸水、腹水、骨折など
・喀痰:性状、量、自己喀出の有無
・静脈血データ
・貧血:Hb、RBC
・心機能:BNP、proBNP
・腎機能(心機能低下による2次的腎機能低下):BUN、Cr
・中性脂肪、総コレステロール、HDL、LDL
・高血圧を示す症状
・鼻出血、頭痛、血圧上昇など
・心原性ショック症状
・血圧低下、意識消失、尿量減少など
・心電図
・不整脈
・内服薬(6Rに添ってみてみる。どのようなものを飲んでいて、どのようなリスクがあるか確認)
・チアノーゼ、抹消冷感
・治療計画
・内服薬
・認知障害、コンプライアンス
・ペインスケール
・鎮静スケール(RASS)
2)行動計画《TP》
・安全・安楽・自立に配慮したケアを行う。
・不安を傾聴する。
・モニタ装着時はバイタルサインの異常の早期発見をする。
・チューブ類を整理し、屈曲や抜去が起こらないようにする。
・人工呼吸器装着中は、勤務交代時など(施設のルールに従い)に人工呼吸器の設定値、回路の破損、酸素量をチェックする(出来たらダブルチェック)。
・気道内分泌物を適宜吸引し、気道クリアランスを維持する。
・排痰ケアを行う。体位ドレナージ、スクイージング、タッピングなど
・挿管時のマウスケアは、抜管に注意して2名で行う。テープ固定は、一日おきに左右交互へ交換し、皮膚トラブルの出現に注意する。
・挿管チューブ、気管切開チューブのカフ圧を調整する。
・安静度を守れるように環境を整える。
・点滴のルートを刺入部からルートに沿って確認する。鎮静薬、麻薬、循環作動薬の取り扱いには特に注意し、6Rに沿って確認する。
・シリンジポンプの使用法、交換手順を再確認し、フリーフローに注意する。
・内服薬の介助・管理をする。
・抜管後、術後の初回離床時は、脈拍、酸素飽和度、顔色、気分不快の出現に留意しながらギャッチアップから段階的に行う。
・酸素使用中は、酸素の投与デバイス・投与量・意識状態を確認する。酸素が確実に投与されているか、ルートをたどって確認する。引っ張らないように環境整備を行う。
・良肢位保持のための他動運動(関節可動域運動)を行う。
・ADLの低下が起こらないよう、生活リハビリの観点で、自身ができることは自身で行ってもらうように、また自身で行えるような環境整備を行う。
・ADL維持、良肢位保持のため、ROM訓練をする。
・苦痛症状(呼吸苦、疼痛)がないか確認し、苦痛の緩和に務める。不安があれば傾聴し、不安の軽減に努める。
・疾患や治療によりできなくなったセルフケアを補う。
・自発呼吸トライアルの経過に合わせた、症状に合わせた介助を行う。
3)教育計画《EP》
・治療計画の目的、目標、治療経過について説明する。
・治療の経過、目的の理解度を確認しながら、理解していない場合には補足して説明する。治療に納得してもらえるように関わる。
・内服は自己中断せず、処方されたものを用法容量を守って内服する。
・自覚症状(疼痛、動悸、息切れ、呼吸苦など)があったら知らせるようにお願いする。
・痛みは我慢せず、知らせるように説明する。必要に応じて鎮痛薬が使用できることを説明する。
・生活習慣改善の必要性がある場合には、医師、栄養士、理学療法士の方針を確認し、方針に沿った対応や説明をする。
・チューブ類の抜去に伴う危険について説明し、抜去が起こらないような療養方法について説明する。
・酸素使用時は火気厳禁であることを説明する。
・酸素ボンベへの接続、使用法を説明する。
・自宅で酸素を使用する場合も火気厳禁は同様で、最低でも火気より2mは離れる必要があると説明する。
・ライフスタイル変化への適応のための助言を行う。
・自宅での生活に必要なサービスが受けられるように、ソーシャルワーカー、ケアマネージャーに相談する。
ここまでおつきあいいただきありがとうございました。
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関連計画の紹介
「換気」に問題のある場合には「自発換気障害」「非効果的呼吸パターン」を参考にしてみてください。
NOCを見ますと、自発換気障害も非効果的呼吸パターンも介入計画が似ていますし、かなりの部分で重複しています。
呼吸は「換気」と「ガス交換」で成り立っていますが、「ガス交換」の障害には看護診断「ガス交換障害」を参考にしてみてください。
ガス交換障害とは、下記の要因から、ガス交換に問題が生じているものをいう
①拡散障害:間質性肺炎(肺胞の壁が固くなる)、肺水腫(肺胞と毛細血管の間に水が入り、拡散の邪魔をする)
②シャント:無気肺(肺胞内に空気が入ってこない)、肺炎(肺胞の壁の炎症によって拡散ができない)、肺動静脈瘻(静脈血が毛細血管を介さずに動脈血に流れ込んでしまい、ガス交換のチャンスを失う)
③換気血流不均衡:血栓塞栓症(肺胞は広がっているが、血流が途絶えてしまう
④肺胞低換気:呼吸中枢抑制、神経・筋疾患、胸壁疾患
気道内分泌物が除去できない、喀痰困難には「非効果的気道浄化」を参考にしてみてください。

