目次
感染リスク状態
いつもご覧いただきありがとうございます。
今回は「感染リスク」について学んでいきましょう。
私たちは新型コロナを経て、多くの方は「呼吸器感染」に対しての対策を、体験し習得してきました。
感染は呼吸器感染だけではありません。
感染症は、病原菌の存在と、それに接触した場合、それを媒介した場合、自然な免疫が働かず弱い菌にも感染してしまう場合のように、菌に接触した機会と自身の免疫力が大きく関係しています。
感染の3要因について学ぶと、対策が見えてきます。まずは3要因から学んでいきましょう。
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1.感染が成立する要件について考えてみましょう。
冒頭でお話しした3要因は以下のようになっています。
✩感染の3要因
1、感染元:感染の原因となる細菌やウィルスを含んでいるもの。
・血液、体液、分泌物、排泄物
2、伝播経路:感染源を媒介する手段
・接触感染、飛沫感染、空気感染
3、感受性宿主:抵抗力の低下した宿主
・年齢、基礎疾患、免疫状態、医療処置、侵襲的な治療、薬物(ステロイド、抗生物質)、栄養状態
これらの3要因が一つでも断たれれば感染は成立しないといわれています。先の3要因をさらに細かく分類したものが6要件です。
✩感染の6要件
1、病因:細菌、ウィルス、真菌、原虫、リケッチア、クラミジア、マイコプラズマ、寄生虫
2、病原巣:患者、医療従事者、環境
3、排出門戸:身体開口部(口、鼻、肛門)、菌のついた手指、医療器具
4、伝播経路:接触感染、空気感染、飛沫感染
5、侵入門戸:鼻、口、創傷、カテーテル挿入部
6、感受性低下:易感染状態(免疫不全、抗がん剤使用、低体温、ステロイド使用、免疫抑制剤使用など)

3要因や6要件の一つでも断つことができれば、感染成立を防げるとすれば、基本的な感染対策(換気、手洗い、適切な汚物の処理)で防げることが見えてきます。
2.看護計画「感染リスク状態」の対象
1)疾患に起因するもの
・糖尿病(好中球貪食機能低下、免疫反応低下、血流障害などによる易感染状態)
・治療にステロイドを使用する疾患(ステロイドは細胞性免疫を抑制する効果あり。容量と投与期間により感染リスクが増加する)→免疫力低下
・呼吸器系:喘息、喘息様気管支炎、COPD(肺気腫、慢性気管支炎)、間質性肺炎(急性、特発性)、好酸球性肺炎、薬剤性肺炎、サルコイドーシス、肺水腫、咽頭周囲炎、急性喉頭蓋炎、カリニ肺炎、サイトメガロウイルス肺炎、結核
・循環器系:心筋炎(パルス療法)、心膜炎、急性リウマチ性心内膜炎、急性リウマチ性全心炎、高安動脈炎
・消化器系:潰瘍性大腸炎、クローン病、急性肝炎、劇症肝炎、薬剤性肝障害、自己免疫性肝炎、原発性胆汁性胆管炎、腸チフス、急性腹膜炎
・腎・泌尿器系:急性進行性糸球体腎炎、ネフローゼ症候群、HBV・HCV関連腎症
・血液系:再生不良性貧血、自己免疫性溶血性貧血、特発性血小板減少性紫斑病、血栓性血小板減少性紫斑病
・代謝系:低血糖症、アミロイドーシス
・内分泌系:甲状腺機能亢進症(バセドウ病)、甲状腺機能低下症、急性副腎不全、慢性原発性副腎皮質機能低下症(アジソン病)
・アレルギー・免疫系:関節リウマチ、エリトマトーデス、多発性筋炎、強皮症、全身性血管炎(ANCA関連など)、シェーングレン症候群、ベーチェット病
・神経系:多発性硬化症、多発性ニューロパチー、ギランバレー症候群、末梢性顔面神経麻痺
・悪性腫瘍:白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫
・運動器系:椎間板ヘルニア、頸肩腕症候群、関節周囲炎、手根管症候群、急性痛風性関節炎(痛風)
・皮膚疾患:重症皮膚炎、紅皮症、急性蕁麻疹、重症薬疹、天疱瘡、類天疱瘡
・その他:出血性ショック、宿植片対宿主病、急性脊髄損傷、血液型不適合輸血、アナフィラキシーショック、肺血症、結核、ハンセン病、
・免疫抑制剤を使用する疾患→免疫力低下
・自己免疫性疾患、臓器移植時の拒絶抑制、宿植片対宿主病予防
・免疫抑制剤の使用:プログラフ(タクロリムス)、グラセプター(タクロリムス)、ネオーラル(シクロスポリン)、アザニン(アザチオプリン)、イムラン(アザチオプリン)、
リツキサン(リツキシマブ)など
・脳梗塞などによる嚥下障害
2)上記以外の感染リスク要因:
・乳児(生後4ヶ月までは母親由来のIgG残るがそれ以後消失、免疫力低下する)
・感染症のアウトブレイクやパンデミック。
・病院・施設入所:菌を拾いやすい環境
・手術:身体への侵襲への補修。ホメオスタシスへの影響。創感染、気道感染、肺炎。など。
・喫煙:気道粘膜の慢性的炎症、変性、一次防御機能の低下。
・貧血、循環不全
・ワクチン未接種
・低体重(栄養不足)、過体重
・褥瘡
・医療留置物:
・中心静脈栄養、抹消静脈栄養
・膀胱留置カテーテル
・気管切開、人工呼吸器、自己喀痰困難
・ドレーン留置
・セルフケア不足(手洗い、含嗽、マスク未着用)、精神疾患などでセルフケアを拒否する
・全身熱傷(熱傷は全身傷だらけと同じ状況です)
3.看護目標
目標は患者さんを主語にします。
・感染の3要因を断ち、感染成立を防ぐことができる。
・創部の清潔を保ち、感染を予防できる。
・感染予防対策について述べることができる。
4.看護計画
1)観察計画(OP)
・治療計画(抗がん剤の使用、ステロイドの使用、免疫抑制剤の使用)による作用と副作用
・易感染性の疾患(AIDS、糖尿病、白血病、熱傷など)の進行や症状、治療による易感染の程度
・侵襲のある治療(手術、ガンマ線など)の経過
・血液検査結果(WBC、CRP、プロカルシトニン、血清アミロイドAタンパク(SAA))の推移
※プロカルシトニンは感染症と相関性があります(正常値0.3ng/ml以下)
・画像診断(XP、CTなど)での感染兆候
・発熱(平熱より1℃以上の体温上昇)
・頻呼吸、血圧変動、脈拍変動などバイタルサインの変調
・呼吸音の左右差、肺雑音(喀痰による気管支閉塞、無気肺)
・気管切開部周囲の状況(感染兆候)
・喀痰の性状、量、臭気
・便の性状(ノロウィルスなどの消化管感染症)の推移
・便の回数
・尿の性状、尿の回数(尿路感染症)
・ドレーン挿入部の状況(感染兆候)
・ドレーンからの廃液(色、量、臭)
・中心静脈カテーテルの刺入部の状況(感染兆候)
・脂肪製剤(プロポフォールやイントラリポス)の投与
・バルンカテーテ挿入部の状況
・尿の性状、量、臭気
・帯下の異常(性感染症)、陰部の掻痒、発赤、熱感
・創部の状況(熱感、発赤、腫脹、疼痛)、膿様分泌物、離開
・感染に対する意識(手洗いの未施行)
・汚物の取り扱いが不適切(汚物に触れた手で別のところに触れる)
・療養環境(入院・施設入所・不潔な環境)
・低栄養:
TP(6.7g/dl以下)、ALB(3.8g/dl以下)、
コレステロール(120mg/dl以下)、
Hb(男性13.5g/dl以下、女性11.5g/dl以下)、BMI(18.5以下)
※低栄養は褥瘡や縫合不全などのリスクです
・生活環境の清潔さ(衛生的でない環境や地域、ゴミ屋敷など)
・感染症流行→地域での流行(アウトブレイク)、世界的流行(パンデミック)
・衛生物品の不衛生な取り扱い(哺乳瓶、おむつ)
・褥瘡の状態(上皮化する前は感染リスクが高い)
・食事の形態(嚥下機能に適した食事であるか)
・食事摂取状況(食事の際のむせ込み、食後のSPO2低下、肺雑音、吸引物)
・経管栄養時の姿勢、経管栄養直後の姿勢
・口腔内の衛生環境(不十分なマウスケア)
・ワクチンの摂取状況
2)行動計画(TP)
・クリーンルーム使用の場合は、使用基準を守り、外部からの病原菌を持ち込まない
・清潔な療養環境を保持する(定期的な換気、片付け、清掃、環境整備)
・アウトブレイク、パンデミックの際には、マスク着用や手洗いを励行する。
3密(密閉、密集、密接)を避ける
・易感染患者に対し、マスク着用と手洗いが習慣となるように、行動を促す。
・一処置一手洗いを励行する(手指消毒でもよい)
・状況に応じて標準予防策(スタンダードプリコーション)の実施。
※スタンダードプリコーション:
すべての血液・体液・粘膜・を感染源とみなし、
手指衛生の徹底や個人防護具(PPE)を適切に使用することをいいます。
※個人防護具(PPE)
・装着時:手洗い→ガウン→マスク→フェイスシールド→手袋
(手袋はガウンの前でもいい)
・外す時:手袋→手指アルコール→フェイスシールド→マスク→ガウン
(最も汚い手袋を先に外します)
・嚥下障害のある場合、食事前に頸部・肩の体操、
嚥下体操(口・舌の体操、パタカラ体操)、唾液腺マッサージを行う。
・嚥下障害のある場合、食形態を工夫する
(とろみ付き、一口大、刻みあんかけ、ムース食、ペースト食)
・嚥下障害のある場合、自助具の工夫をする(スプーンを1口大のものにし、一口量が適切となるように工夫する)。
・食事摂取時、経管栄養時の姿勢を整える。
・口腔ケアを行い、口腔内の清潔を保持する。
・たんの多い場合は適宜吸引を行い、気道浄化に努める。
・オムツ着用の際は、定期的にオムツの交換をし、排泄物による皮膚のトラブルが起こらないようにする。
・体位交換を定期的に行い、褥瘡の発生を防ぐ。
・自力体位変換が困難な場合は、エアマットを導入し、褥瘡好発部位への過度な重圧を避ける。
・Baカテーテルを適切に固定し、尿道口の損傷を防ぐ。
・Baカテーテルの尿廃棄の際には不潔とならないように留意する。
・CVカテーテル挿入部のフィルム交換は清潔に行う。
・CVカテーテル挿入部から輸液までを順に辿り、破損や異常がないかを確認する。
・CVカテーテル感染の兆候があったら医師へ報告する。(カテーテル先端を培養に出す(と思います)ので介助する)
・プロポフォールを使用している際には12時間おきにルートを交換する。
・輸血製剤の使用ルートは24時間以上使用しない。
※気になる方はCDCガイドライン
https://www.info-cdcwatch.jp/views/pdf/CDC_guideline2011.pdfをチェックしてください。
・留置針は72~96時間ごとに交換する。ルートも同時に交換する。
・透析の場合AVシャントの感染がないか、シャント音があるか確認する。
・ドレーンが引っ張られないように適切に固定する。
・ドレーンのメラバック交換の際は清潔に行う。
※脳ドレーン、硬膜外麻酔などの挿入物も同じ
・鎮静剤使用や、神経筋疾患などの自己喀痰困難な場合は、排痰ケアを行い、肺炎を予防する。
・RASSを用い、過鎮静となっていないか確認する。
・人工呼吸器関連肺炎(VAP)予防のために、回路の点検を行い、清潔操作で喀痰を吸引する。
・下肢末梢の血行不良や壊死がある場合は、足浴をし、清潔と血流保持をする。
・予防接種計画に基づく接種を促す。
・高齢者はインフルエンザや肺炎球菌ワクチンの接種を促す。
・術後、創部のガーゼ交換を清潔に行う。
・空気感染症患者の入院時には、N95マスクを装着し、陰圧室を用意する。
・感染症患者が複数発生した場合は、ゾーニングを行い、拡大を防ぐ。
・ノロウィルスの際は、次亜塩素酸を適切に使用し、殺菌する。(床、触れたところ、寝衣)
・ノロウィルスの排泄物はビニールに包み他に触れないように移動させる。
3)教育計画(EP)
・免疫力低下をきたす疾患の場合、免疫力低下による感染リスクを説明する。
・免疫力低下時の感染予防行動(手洗い、マスク、3密を避ける)を説明する。
・免疫力低下(抗がん剤など)時は、病院のルールに従うように説明する。
(生もの食事ダメ、鉢植えは土壌に菌がいるからダメなどいろいろな規制があります)
・予防接種の有効性と副作用について説明する。
・Ba、ドレーン、点滴などの挿入物が地に落ちて不潔にならないように説明する。
・挿入物を引っ張らないように説明する。
・介護者の認識不足がある場合、正しい手技の獲得のための説明をする。
(喀痰吸引、おむつ交換、排泄物の取り扱い、食形態、食事介助の留意点など)
・創部の疼痛や滲出液があったら申し出るように説明する。
・バランスよく食事を摂取するように説明する。
(偏った食事は創部の治癒遅延や皮膚のバリア機能低下、褥瘡治癒遅延など様々な影響がある)
・性感染症を繰り返さないために、不特定多数のパートナーとの関係に対する認識の改善や、コンドームの着用の必要性を説明し、行動変容を促す。性感染症による命の危険や不妊症についても説明する。
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