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血栓症リスク状態 (看護計画)
いつもご覧頂きありがとうございます。
今回は「血栓症リスク状態」について考えていきます。
血栓が血管を閉塞すると塞栓症となりますね。塞栓症となると、それより末梢への血流が途絶えますから梗塞となります。脳で起これば脳塞栓(脳梗塞)、心臓で起これば心筋梗塞、肺で起これば肺梗塞(肺塞栓)です。閉塞性動脈硬化症や深部静脈血栓症などもありますね。
たかが小さな血液の塊とあなどることはできません、詰まる場所によって重大な臓器障害を起こしてしまいます。
血栓ができやすい状態や、血管の内腔が狭くなって小さな血栓でも梗塞をきたしやすくなっている状態など、さまざまなケースがあります。
今回はそんな「血栓症リスク状態」について考えていきましょう。
1.血栓症リスク状態の対象
血栓の形成には、血管壁・血流・血漿成分が関与しています。
なかでも血漿成分に含まれる血小板、凝固系、抗凝固因子、線溶系が血栓傾向に大きく関与します。
これらの一つでも異常をきたすと、血栓ができやすくなります。
1)先天性疾患による血栓症リスク
・プロテインC・S欠乏症(抗凝固因子であるプロテインCの欠乏により血栓症をきたす疾患、プロテインSはプロテインCの補助因子として抗凝固作用を持つ)
・AT(アンチトロンビン)欠乏症(アンチトロンビンは凝固系のトロンビン阻害作用を持つ抗凝固因子であるため、アンチトロンビンの欠乏で血栓傾向となる)
2)後天性疾患による血栓症リスク
①血液疾患
・赤血球増加症(多血症):真性多血症と二次性多血症があり、真性多血症の場合は赤血球のみでなく、血小板や白血球も増加するため、血液がドロドロになりやすく、血栓ができやすい。
・本態性血小板血症
・発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)
②自己免疫疾患
・抗リン脂質抗体症候群:抗リン脂質抗体と呼ばれる自己抗体が血栓をつくる疾患
・ヘパリン起因性血小板減少症・血栓症
・後天性血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)
③内分泌疾患
・クッシング症候群
・糖尿病
④その他
・ネフローゼ症候群
・妊娠・経口避妊薬(高エストロゲン)
・悪性腫瘍
・人工弁
・薬剤性
・外科手術
・長期臥床
・抜歯後の疣贅
・静脈注射を繰り返す
・人工透析
・血管内治療
3)血管内腔が狭くなる疾患
・動脈硬化(★1★動脈硬化について)
★1★動脈硬化について
動脈硬化とは動脈壁の肥厚、硬化、機能低下を示す動脈病変の総称。
1)動脈硬化の分類
(1)粥状硬化(アテローム硬化)
(2)中膜硬化
(3)細動脈硬化
2)分類別特徴
(1)粥状硬化(アテローム硬化)
①概要
大型~中型の動脈に見られ、内膜の効果・粥腫・潰瘍化・中膜肥厚などの病理的特徴がある。
虚血性心疾患、大動脈瘤、脳梗塞などの致死性疾患につながるリスクがある。
②好発部位
動脈の分岐点などの血流の乱れる部位に生じやすい
腹部大動脈、冠動脈、大腿動脈、頚動脈、椎骨・脳底動脈に好発
③リスクファクター
・素因:加齢、男性、家族歴
・生活習慣:喫煙、肥満(内蔵型肥満)、運動不足、精神的ストレス
・高リスク病態:脂質異常症、高血圧、糖尿病、冠動脈疾患、非心原性脳梗塞、末梢動脈疾患、慢性腎臓病
④症状
通常は無症状だが、進行により臓器の虚血症状を引き起こしたり、プラークが破綻して管腔の閉塞をきたし、致死的な疾患に進展する可能性がある。
⑤治療
生活習慣の改善:食事療法、運動療法、禁煙
リスク疾患の管理:脂質異常症、高血圧、糖尿病、メタボリックシンドローム
(2)中膜硬化
中型動脈にみられ、中膜の輪状石灰化が特徴だが、内腔の狭小化は生じない。
(3)細動脈硬化
全身の細動脈にみられ、高血圧との関連が重要視されている。脳出血、腎硬化症、ラクナ梗塞をきたす。
2.目標
目標は患者さんを主語にして立てます。
・処方されている内服を用法容量通りに服用できる。
・定期的に医師の診察を受けることができる。
・妊娠やエストロゲン製剤の使用時は水分の摂取や適度な運動ができる。
・生活習慣に起因する動脈硬化に対し、生活習慣を見直すことができる。
看護師を主語にする場合にはつぎのようになるとおもいます。
・抗凝固薬、抗血小板薬の内服を継続し、血栓の発生を防ぐ。また診察頻度も守り、定期的に医師の診察を受けるよう促す。
・妊娠やエストロゲン製剤の使用時は水分の摂取や適度な運動により血液循環を保持することで血栓の発生を防ぐ。
・喫煙による多血症や、生活習慣に起因する動脈硬化からくる血栓症のリスクに対し、生活習慣の是正を目指す。
・多血症治療に使用する抗がん剤使用時は、モニタリングにより異常の早期発見を行う。
・血管への侵襲的な治療を行うときにはモニタリングにより異常の早期発見を行う。
3.看護計画
1)観察計画《OP》
①リスクの把握
・年齢
・性別
・バイタルサイン
・血圧(左右差、脈圧)
・脈
・呼吸数・SPO2・呼吸苦
・発熱
・身体所見
・静脈血栓(ホーマンズ兆候、皮膚色)
・顔面紅潮(多血症疑い)
・基礎疾患
・プロテインC・S欠乏症
・AT(アンチトロンビン)欠乏症
・本態性血小板血症
・発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)
・抗リン脂質抗体症候群
・ヘパリン起因性血小板減少症・血栓症
・後天性血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)
・クッシング症候群
・糖尿病
・ネフローゼ症候群
・悪性腫瘍
・動脈硬化
・素因:加齢、男性、家族歴
・生活習慣:喫煙、肥満(内蔵型肥満)、運動不足、精神的ストレス
・高リスク病態:脂質異常症、高血圧、糖尿病、冠動脈疾患、非心原性脳梗塞、末梢動脈疾患、慢性腎臓病
・内服薬
・妊娠・経口避妊薬(高エストロゲン)
・人工挿入物
・人工弁
・侵襲的治療
・外科手術
・静脈注射を繰り返す
・人工透析
・血管内治療
・体動の減少(深部静脈血栓症のリスク)
・長期臥床
・麻痺
・骨折などの安静指示
・抜歯後の疣贅
・脱水、食事摂取量、飲水量
・各血液データ
・赤血球、Hb,Ht
・血小板、APTT、PT時間、FDP、Dダイマー
・電解質バランス(脱水兆候)
・脂質
②治療に向けたコンプライアンスの把握
・年齢と認知機能
・現在の内服薬、服薬コンプライアンス
・介助者の有無、介助者の認知機能
2)行動計画《TP》
・抗凝固薬の内服に伴う合併症(出血、骨粗鬆症、皮膚壊死など)の出現を観察し、転倒や外傷に注意してケアを行う。
・抗血小板薬の内服に伴う合併症(出血、消化性潰瘍など)の出現を観察し、転倒や外傷に注意してケアを行う。
・転倒を予防するために環境整備を行う。
・転倒を予防するためにかかとのある履物や動きやすい服を選択してもらえるよう誘導する。
・便の性状や腹部症状を確認し、血便や腹痛などの異常があれば医師へ報告する。
・内服薬が正しく内服できるように服薬カレンダーを利用する。患者、家族とともに確認しながら内服薬をセッティングする。
・血栓塞栓の兆候がないか確認する。胸痛、心電図異常、頭痛、麻痺、構音障害、意識障害、せん妄など。
・静脈血栓予防のためにROM運動を実施する。
・静脈血栓予防のために生活リハビリを取り入れ、車椅子への移乗など離床時間を多く設ける。
・脱水予防ため、飲水を勧める。
・脱水予防のため、室温を適度に調整する(高齢者は体温調整機能が低下していることに加え、エアコンのし用を控えるため二重に脱水のリスクがある)
3)教育計画《EP》
・定期的な受診の必要性を説明する。血液検査などで血球数や凝固機能を確認するため。
・服薬の継続の重要性を説明する。
・服薬カレンダーや薬ボックスなど、内服薬が指示通りに内服できるように工夫されたグッズについて紹介する。
・老老介護など、服薬コンプライアンスや療養環境の整備(転倒予防のための環境整備)などが困難な場合は、ケアマネージャーやソーシャルワーカーと連携し、療養環境を整備してもらう。
・ワルファリンは納豆、クロレラ、青汁と摂取しないよう説明する。
・動脈硬化や二次性多血症など生活習慣が起因している場合には、病状の悪化を防ぐための生活習慣改善を勧める。
・胸痛、頭痛、嘔吐、めまい、麻痺などの症状が出たらすぐに病院に連絡し、受診するように説明する。
・脱水予防のため、室温を適度に調整し、のどが渇く前に飲水をする必要性を説明する。
・抗血小板薬や抗凝固薬の服用により、転倒や打撲による出血のリスクがあることを説明する。
・転倒を予防するための療養環境について説明する。
・寝たきり(決戦ができやすい状態)を予防するため、ベッド上でもできる運動を紹介する。
・生活リハビリなどで活動することは、循環を促進し、血栓予防となることを説明する。
ここまでお付き合い頂きありがとうございました。
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