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リスク傾斜健康行動(看護計画)
いつもご覧いただきありがとうございます。今回は「リスク傾斜健康行動」について考えていきます。
リスク傾斜ってのは、そもそもどういうことなのでしょう?
リスクの傾斜?上向きの傾斜?下向きの傾斜?
リスク傾斜健康行動は本場のNANDAではrisk-prone health behaviorと書かれています。
Prone(プローン)は「なりやすい」と直訳
Behavior(ビヘイビア)は「振る舞い」と直訳
risk-prone health behaviorは「リスクが生じやすい健康行動」と直訳されました。
何のリスク?病気となるリスクですよね。
「病気につながる生活習慣」と言い変えることが出来るでしょうか。
健康管理に関連して、似たような看護計画「非効果的健康維持行動」と「非効果的健康自主管理」がありますね。
それぞれがどう違うのか比較してみましょう。
1.「リスク傾斜健康行動」と「非効果的健康維持行動」と「非効果的健康自主管理」の比較
本来は、NANDAの定義と診断指標を挙げて比較検討できるのが一番良いのですが、著作権の関係上、このサイト内でご紹介することができません。
ご自身のお手元のNANDAを開いて見てください。
1)リスク傾斜健康行動
診断指標と関連因子を併せてみることでみえてくる対象は……?
①前提として、「健康状態の改善が必要な状態」がある。
・定期健診などで、異常項目が見つかって健康状態の改善(生活習慣の改善)が必要な状態
・新たに発症した疾患が、生活習慣に起因している疾患で、生活習慣の改善が必要な状態
・慢性疾患に罹患しており、生活習慣の改善が治療の一部になっている患者(塩分、水分、カリウム、タンパク制限など)
②①とともに理解力不足、医療への不信、依存性物質の摂取(よくないとわかっていてもやめられない)、ストレス発散に非健康的でない方法をとってしまう、などの問題により、生活習慣を変えられない現状がある。
①②の両方に該当するひとがこの看護診断介入の対象となる。ここでは、理解力や判断力、実行するための能力もあるが、「できるのにやらない、できるのに後回し、まだだいじょうぶでしょう」という気持ちの持ち方や性格、精神疾患などで改善できず、ずるずると良くない状態を続けている人が対象となります。そこが次の非効果的健康維持行動との違いといえるかもしれません。
後述する非効果的健康自主管理と重複している内容もかなりあります。
2)非効果的健康維持行動
診断指標と関連因子を併せてみることでみえてくる対象は……?
まず、「健康」を維持するための努力が必要な状態(現段階では特別病気ではないけれど、対策をしないと病気になってしまう・健康でいられなくなる状態)がある。
健康は主観的な部分が大きく、職種や年齢によっても異なります。
血液データや画像診断で問題がなくても「身体がしんどい、調子が悪い」と感じる人もいるでしょうし、5年前までは肉をたくさん食べても体調が悪くならなかったけれど最近は肉を少し食べるだけで胃もたれをするようになったなどと加齢変化で生活習慣を見直す必要がある場合もあるでしょう。
「自分なりの良いコンディション=健康」とすると、今の自分の心身の状態や仕事などを含む生活環境に合わせた健康維持行動をとることが、良いコンディション(=健康)を維持できる秘訣と言えます。
ではそれができない「非効果的な健康維持行動」の原因は、次の①~⑤に該当するのではないでしょうか。
①認知力障害、発達課題が未完成などの考える能力に問題がある。自身の健康問題を認識することができない。
②資源の不足により、知識を得るための環境が十分でない。自身の健康問題を認識することができない。
③知識があるけれど、微細粗大運動能力の低下により実践することができない。
④適応障害などで、コミュニケーションスキルが低く、情報の収集ができない。自身の健康問題を認識することができない。
⑤改善策の情報収集をせずに、自己流の方法で健康問題を解決しようとする。
「できるのにやらない」ということではなく、そもそも「やらなきゃいけない」ということ自体がわからない、その必要性に気づかずに生活している、「頭ではわかっているけど、体が思うように動かないからできない」という場合が該当しています。そこが前項目の「リスク傾斜健康行動」との違いと言えます。
3)非効果的健康自主管理
定義と診断指標を併せてみることでみえてくる対象は……?
①前提は、既に病気に罹患しており、退院後も治療のための自己管理が必要な状態である。
②①に該当するが、治療計画が複雑、経済的困窮、家庭内の不和や家庭での理解が得られない、あきらめ、治療に懐疑的、支援が得られないなどの理由で十分な健康管理ができない場合に対象となる。
この診断では、自身のやる気の問題もあるが、それ以外に周りの環境にも影響を受ける複合的な問題と言える。この看護診断では、もうすでに疾患に罹患していて、在宅でも継続的に管理が必要な状態(慢性疾患)なので、在宅での管理が十分に行えるように調整することは、長く在宅で生活できるようにするため(退院後すぐに入院となるケースを防ぐため)に重要といえる。
4)3つの看護診断の比較まとめ
リスク傾斜健康行動→生活習慣を改善すれば疾病の予防や悪化を防ぐことができる患者。理解力や行動を起こすことができる能力があるが、行動を起こさないひと。「やったほうがいいのはわかるけど、行動するのはめんどくさい、気持ちが付いてこない」ひと。
非効果的健康維持行動→健康維持のための改善策・対策があることを認識できない(理解力不足、コミュニケーション不足)ために、解決する行動までいたらない患者。もしくは、認識していても運動機能の問題で行動できない患者。
非効果的健康自主管理→既に疾患があって、在宅でも疾患の自己管理(食事、運動、服薬、感染管理など)が必要な患者。慢性疾患患者。自身の管理能力だけでなく、周囲の人からの支援の有無も影響してくる。
2.リスク傾斜健康行動の対象
・定期検診で「要精査」や「経過観察」などの結果が出た
・肥満度・BMI・腹囲
・メタボリックシンドロームに該当
・血液データの異常
・食生活
・運動習慣
・栄養と活動のバランス
・健康状態への認識
・物質乱用(アルコール、違法薬物、向精神薬)
・喫煙
・ストレス、ストレッサー
・経済的困窮(栄養バランスに配慮した食生活ができない程困窮している、炭水化物ばかりとっている)
3.目標設定
目標は患者さんを主語にして立てます。
・自身の健康に関心が持てる。
・できるところから少しずつ改善できる。
・心と体のバランスを整えることができる。
・無理のない活動と休息のバランスを維持できる。
・非効果的なストレス発散を避けることができる。
看護師を主語にする場合にはつぎのようになるとおもいます。
・ストレッサーを排除あるいは、ストレス緩和法を取り入れて、問題のある生活習慣(飲酒、喫煙、暴飲暴食、薬物)に頼らない生活を送れるよう支援する。
・疾患管理や、発症予防のために生活習慣(食事、運動、服薬など)が改善できるよう具体的に計画を立てる。
・定期的に健康診断を受け、自己健康管理ができるよう支援する。
・受診日に受診をするようにし、自身で疾患の管理ができるように支援する。
4.看護計画
1)観察計画《OP》
・年齢、身長、体重、BMI、肥満度
・栄養摂取量が適量か、食事形態、嚥下機能
・運動量、運動機能、麻痺、神経筋疾患
・肥満、やせ
・血液データ上の異常
・健康への意識の高さ
・健康のための習慣(食事、運動、服薬管理)
・毎日の生活スケジュール、活動と睡眠のバランス、習慣(夜更かし、寝酒、喫煙)
・食生活、摂取時間、回数、偏りがないか、外食が多くないか、バランスが良いかなど
・現状の生活習慣の問題点を認知しているか
・生活習慣改善の必要性を認知しているか
・生活習慣を改善しないことで発症する疾病のリスクを把握しているか
・疾病に罹患することで生じる健康問題や、不快症状、ADLの変化、生活の変化、仕事への影響を理解しているか
・疾病に罹患することで生じる家族への影響を理解しているか
・ストレッサーの存在(仕事、対人関係、家事、育児、嫁姑関係、収入と支出のバランス、経済状況、問題行動のある家族、認知症のある家族、見守りが必要な家族、近隣トラブル、精神的不安定、不眠、疾病、不快症状、疼痛、呼吸苦、死への恐怖、制限の必要な治療、長期にわたる治療)など
・ストレッサーに対するコーピング(ストレス対処法)ができているか
・ストレッサーに対するコーピングの方法が適切か(飲酒、喫煙、暴飲暴食、薬物乱用など不適切な方法を選択していないか)
・現在の疾患、症状、スタミナ、ADLに合わせた活動量を選択しているか(無理をしすぎていないか)
・現在の疾患、症状、スタミナ、ADLに合わせた活動量を求められていないか(職場や家庭内での理解の有無)
・活動と休息のバランス
・定期的に健康診断を受けているか
・予防接種歴
・感染予防策が適切に行えているか
・慢性疾患をコントロールするために必要な良好環境をりかいしているか
・疾病管理のための生活習慣の方法を理解しているか(水分制限、塩分制限、リン・カリウム制限、タンパク制限、カロリー制限など)
・社会資源の活用(介護保険の要介護度が適切か、障害認定、生活保護など
2)行動計画《TP》
・栄養量の不十分な場合には、食事量、形態、嚥下機能を評価し、適切な食事形態となるように調整する。
・運動機能障害(麻痺などで食行動に問題がある)場合には、自助具を使用して、食事摂取量が増えるように調整する。
・塩分制限のある患者で、食事にふりかけや梅干、マヨネーズなどを必要以上に使用している場合には、食事制限の理由について説明し、家族に持って帰ってもらうなどの対応をする。
・食事制限のある患者で、多く間食をしてしまう患者には、食事制限の理由について説明し、家族に持って帰ってもらうなどの対応をする。
・ADL低下や、麻痺によって運動量が減少している場合には、ベッド上や座位で行える運動を取り入れる。
・生活習慣改善のために、入院中から気を付けて良い習慣が習慣化するように関わる。
3)教育計画《EP》
・患者とともに、一日の生活パターンを書き出し、健康問題へつながる問題点を抽出する。
・患者とともに、仕事、家族構成、育児、家事など、患者に必要な仕事量を抽出する。
・患者とともに、食生活の内容を書き出し、問題点を抽出する。
・患者とともに、継続できる生活パターンを考える。
・(良くない生活習慣を選択してしまう要因となる)ストレッサーとなっているものを抽出してもらう。
・どのようにすればストレスの除去・緩和ができるか考えてもらう。
・排除できないストレッサーならば、他の方法でストレス発散できないか考えてもらう。
・食生活、運動習慣、内服薬などの自己管理が必要な場合は、医師の指示に従うように説明する。
・患者と同居家族に対し、生活習慣を改善しないことで起こりうる経過(悪化、発症)について説明する。
・患者と同居家族に対し、生活習慣を改善することで起こる経過について説明する。
・感染症対策のために、予防接種の有効性を説明する。
・予防接種での副作用の発現歴がある場合には無理に接種せず、感染予防のための手洗いやマスクの着用を徹底するように説明する。
・食事制限の必要な場合、その理由について説明する。
・食事内容の改善が必要な場合は、患者自身だけでなく、調理する家族にも説明する。(減塩、タンパク制限など)必要時は、栄養士からの説明を受けるように説明する。
・運動療法が必要な場合は、患者と理学療法士とで相談しながら、実現可能な運動習慣を生活に取り入れるための計画を立てる。
・禁煙できない場合には、喫煙による身体への悪影響を説明し、禁煙外来を勧める。
・禁酒できない場合には、過剰な飲酒による身体への悪影響を説明し、自助グループへの参加を勧める。
・ADLや介助量に合わせた支援が受けられるように、メディカルソーシャルワーカーと連携し、介護保険の申請などをしてもらう。
非効果的健康自主管理


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