領域4 活動/休息
エネルギー資源の産生、保存、消費、またはバランス
類4 心血管/肺反応: 活動/休息を支える心肺メカニズム

NANDA 看護計画 血圧不安定リスク状態(00267)


看護診断 血圧不安定リスク状態(00267)
定義 動脈血管を流れる血液の勢いが変動しやすく、健康を損なう恐れのある状態

血圧不安定リスク状態では、動脈硬化などで血圧の高値が続く状態ではなく、自律神経系の影響や薬剤の影響で血圧の変動をきたす場合を対象にしています。
上がりすぎる、下がりすぎるリスクがある場合に介入していきます。
まず、血圧についておさらいしてみましょう。

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1.血圧とは


1)血圧の構成要素

血圧は以下の因子で構成されています。
「血圧」=「心拍出量」×「末梢血管抵抗」
心拍出量と末梢血管抵抗についてもう少し詳しく見てみます。
心拍出量は「心拍出量」=「1回拍出量(ml)」×「心拍数(回/分)」で求められます。
正常では1回拍出量50~80(ml)、心拍数60~90(回/分)です
心拍出量の増減に影響するのは、心収縮力、前負荷、後負荷、心拍数です。
末梢血管抵抗に影響するのは、血管床の面積、動脈壁の弾性、血液の粘性です。

では、次に、血圧の調整についてみてみましょう。

2)血圧の調整

(1)血圧が下がった場合の調整機構(昇圧系)

①レニン-アンギオテンシン-アルドステロン系
腎臓への血液量現象により、レニン分泌され、レニンはアンギオテンシンを産生し、ACEという活性酵素のはたらきで活性型のアンギオテンシンⅡになる。
アンギオテンシンⅡは血管収縮作用がある。アンギオテンシンⅡは強力な血管収縮作用で血圧上昇に大きな役わりを果たす。
アンギオテンシンⅡは副腎皮質を刺激してアルドステロンを分泌。アルドステロンは「抗利尿効果」でナトリウム再吸収促進し、血管内に水分を引き込む。循環血液量を増加させて血圧を上昇させる。
②バソプレッシン
下垂体後葉から分泌されるホルモン。抗利尿ホルモンで、腎臓における水の再吸収を増加させ、血管収縮作用もあるため、循環血液量を増加させる。
③圧受容体による自律神経系調節
・頚動脈洞と大動脈弓にある圧受容体が血圧を感知して、延髄の心臓中枢へ刺激が伝達される。
迷走神経を刺激して心拍数減少、心拍出量減少させる。
④頚動脈小体と大動脈小体による化学受容体による調節
・血液中のCO2濃度上昇とO2濃度減少を感知して交感神経を興奮させる。
それにより心拍数を上昇させる。

 

(2)血圧が上がった場合の調整機構(降圧系)

①心房性ナトリウム利尿ペプチド
レニンの分泌抑制、糸球体での濾過亢進(尿量増加で循環血液量減少)、腎臓におけるナトリウム排泄促進(ナトリウムは水を引き付けるため、ナトリウムと一緒に水分も排泄すると、循環血液量減少となる)
②キニン・プロスタグランディン
キニンによる血管拡張作用で血圧低下。キニンはプロスタグランディンの産生にも関与し、プロスタグランディンは腎臓での尿排泄、細動脈拡張を促し、血圧を下げる働きがある。
③ブラジキニン
血管拡張作用による循環血液量減少。ブラジキニンはACEという変換酵素の活性を受けて活性化する。
ACEは昇圧効果のある「アンギオテンシンⅡ」にも降圧効果のある「ブラジキニン」にも作用する変換酵素である。
④エストロゲン
血管拡張作用による循環血液量減少
⑤カリウム
カリウムによりナトリウムの排泄を促進する。ナトリウムは水を引き込んで排出するため降圧作用が得られます。
また、レニンの分泌を抑える働きがあります。

 

ここまでのおさらいで、血圧の調整には自律神経系と内分泌(ホルモン)が影響をしていることがわかりますね。
では、血圧が不安定になる場合とはどんな場合でしょう?
自律神経や内分泌による調整がうまくいかなくなる、血液量が減少する(または増加する)、循環の経路に異常があることが想像できます。
次に今回の診断である「血圧不安定リスク状態」の対象について考えてみましょう。

 

2.血圧不安定リスク状態の対象


1)自律神経調節の異常

・頭蓋内圧亢進
・脳梗塞・脳出血の既往(再発の可能性がある)
・動脈硬化のリスク(高齢、高脂血症、糖尿病)
2)内分泌異常
・クッシング症候群
・甲状腺機能亢進症・低下症
・副甲状腺機能亢進症
・糖尿病
3)薬品の使用
・エピネフリン
・ノルアドレナリン
・ドパミン
・抗不整脈薬
・利尿薬
・麻酔薬(鎮静、鎮痛、筋弛緩、反射抑制)
4)循環動態の異常
・出血
・不整脈(心拍出量の不安定)
・心疾患、弁膜疾患
・電解質・酸塩基平衡異常
・腎不全
・浮腫、リンパ浮腫
5)その他
・体位性:起立性低血圧
・ショックショック(循環血液量減少性、血液分布異常性、心外拘束性、心原性)★1
・手術の予定
・貧血

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★1…ショック

ショックは原因別に4つに分類されます。
①循環血液量減少性ショック
・出血による血液喪失
・体液喪失
②血液分布異常性ショック
・アナフィラキシーショック
・神経原性
・感染性
③心原性ショック
・心筋症
・不整脈
④心外閉塞・拘束性ショック
・心タンポナーデ
・心膜炎
・肺塞栓
・緊張性気胸
ショックについては以下の記事を参照してみて下さい

ショックリスク状態

心拍出量減少

心拍出量減少リスク状態


心血管機能障害リスク状態

3.血圧不安定リスク状態に対する目標

目標は、患者さんを「主語」にします。
「看護者が○○できる」ではなく、
「患者さんが○○できるようになる」といった具合です。

・血圧の自己管理ができる。
・医師の処方通りに服薬できる。
・高血圧につながる生活習慣を避けることができる。
・めまい、気分不快、動悸の際の自己対処について述べることができる。

※看護師の目標としては以下のようなものが挙げられると思います。

・異常の早期発見をし、早期対処につなげる。
・体位性などの患者自身の意識で予防できるものについて理解を促す。
・患者自身で、疾患の管理ができるよう支援する。

4.看護計画


1)観察計画《OP》

・年齢
・既往歴
・内分泌系疾患
・脳血管疾患
・血管疾患(動脈解離など)
・心疾患
・アレルギー(薬物、食物、接触性)の既往
・現病歴
・熱傷の急性期
・心疾患急性期
・脳血管疾患急性期
・周手術期
・事故
・外傷
・その他疾患の急性期
・妊娠高血圧
・血液データ
・心機能を表すデータ:BNP、proBNP
・炎症反応を示すデータ:プロカルシトニン、CRP
・血糖
・貧血
・腎機能低下を示すデータ
・電解質異常を示すデータ
・酸塩基平衡異常を示すデータ
・バイタルサイン
  ・血圧(通常時、現在)
  ・血圧、脈圧、左右差
  ・脈拍(頻脈、徐脈、不整脈)
  ・呼吸(頻呼吸)
  ・SPO2低下
  ・発熱
・症状
  ・意識レベル低下
  ・浮腫
  ・尿量減少
  ・ショックの5P(蒼白・冷汗・虚脱・脈拍微弱・呼吸速迫)
  ・末梢冷感
  ・動悸、胸痛などの自覚症状
  ・チアノーゼ
  ・末梢感覚障害
・食生活
  ・脂肪、糖質を多く取る食生活
・精神疾患(ストレスに対して脆弱)
  ・不安障害
  ・双極性障害など
・居住地
  ・塩分を多く取る地域柄
  ・極端な温度差のある地域(気候、室内と室外)
・治療計画
  ・手術
  ・麻酔を使用する
  ・昇圧薬、降圧薬、
  ・侵襲的な処置
  ・術後、離床期
  ・安静度(絶対安静、免荷)による循環動態への影響
・ストレッサー
  ・緊張の持続
  ・ライフイベント

  

2)行動計画《TP》

・バイタルサイン測定をする。
・モニタリングを行う。
モニターのアラーム時には必ず訪室して状態を確認する。
・モニタリングの内容を記録し、トレンドで情報が把握できるようにする。
・自覚症状の有無や兆候に注意し、兆候が見られたらバイタル測定を行う。
・昇圧剤、降圧剤、エピネフリン製剤、抗不整脈薬などの投与時には6Rを徹底して確認する。
増量時、減量時、ショットでの投与時はとくに注意してモニタリングを行う。
・微量で投与する薬剤の投与経路を確認する。
同一ルートで投与して良い薬剤かを確認する。
配合変化による影響を避ける。
・ノルアドレナリンなどの血管刺激性の強い薬剤の投与中は、血管炎の発現がないか注意して確認する。
・浮腫の増強や体重増加のあった場合には、医師に報告する。
浮腫の部分は愛護的に扱い、皮膚トラブルを起こさないように注意する。
浮腫の部分を挙上し、ドレナージを行う。
・ショックの兆候(5P)に注意して観察する。
・血液製剤を使用する際には、投与時、投与中、副反応に注意して観察する。
・内服薬の投薬介助をする(確実に嚥下するまで確認)
・手術に向けての不安があれば傾聴し、不安払拭のための関わりをする。
・周手術期に伴う身体変化(侵襲、麻酔)は術後の正常な経過をたどっているか(ムーアの分類などを参考に)を確認しながら、術後日数に合わせたケアを行う。
術後出血の兆候があれば、すぐに医師に報告する。
※術後の経過について知りたい時は、「術後回復遅延」も参考にして見てください

 

3)教育計画《EP》

・動悸、眼華閃発 、胸痛、胸部不快、放散痛、嘔気などいつもと違う症状のあるときには、ナースコールをおすように説明する。
・治療計画について医師からの説明の理解度を確認し、不明な点は追加で説明する。
・不安やわからないことをそのままにせず、相談するようにお願いする。
・内服治療は継続することが重要であると説明し、調子が良くても自己中断しないように説明する。
・薬カレンダーなどの利用を提案する。
・浮腫のある部分はぶつけたりしないように気をつけてもらう。
・点滴やドレーンなどの管類の管理について説明する。
・食事療法が必要な場合には、栄養士からの説明でわからないところがないか確認する。

 

参照文献
T.ヘザー・ハードマン 上鶴重美. (2016). NANDA-I 看護診断 定義と分類 2015-2017. 医学書院.
T.ヘザー・ハードマン、上鶴重美、カミラ・タカオ・ロペス. (2021年7月1日). NANDA-I看護診断ー定義と分類 2021-2023 原書第12版. 株式会社 医学書院.
岡庭豊. (2012). 看護師・看護学生のためのレビューブック. 株式会社 メディックメデイア.
岡庭豊. (2019.3). イヤーノート2020. 株式会社メディックメディア.
岡庭豊. (平成15年). 病気がみえる VOL.2 循環器. 株式会社メディックメディア.
黒田裕子(訳). (2015). 看護成果分類(NOC)原著第5版 成果測定のための指標・測定尺度. エルゼビア・ジャパン株式会社.
山口徹 北原光夫 福井次矢. (2012). 今日の治療指針.
山内豊明. (日付不明). フィジカルアセスメントガイドブック. 医学書院.
大橋優美子 吉野肇一 相川直樹 菅原スミ. (2008). 看護学学習辞典(第3版). 株式会社 学習研究社(学研).

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投稿者 FlorenceMYM

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