
NANDA-00173 看護計画 急性混乱リスク状態
領域5 知覚/認知
注意、見当識、感覚、知覚、認知、コミュニケーションを含む、人間の処理システム
類4 認知 記憶、学習、思考、問題解決、抽象化、判断、洞察、知的能力、計算、言語の使用
目次
00173 急性混乱リスク状態
看護診断:急性混乱
定義:短期間に発症し、持続が3ヶ月未満の意識・注意・認知・知覚の可逆性障害が起こりやすく、健康を損なうおそれのある状態
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今回は「急性混乱」の「リスク型」診断です。リスク型ですから、現状はまだ症状が出ていない人が対象となります。
すでに症状が出ている人は実在型診断の「急性混乱」をチェックして見てください。
では、急性混乱リスクについて考えていきますが、その前に、「混乱」ってなんでしょうか?
「混乱」と「せん妄」と「不穏」はどう違うのでしょう?
そんな疑問が沸くのは私だけでしょうか?
それぞれの定義を確認し、考えてみましょう。
1.「混乱」「せん妄」「不穏」の違い
「混乱」は後回しにして、まず、「せん妄」と「不穏」から考えていきます。
1)せん妄
「せん妄」は診断名です。
(1)定義:
軽度の意識障害に加え、興奮や知覚障害(幻覚、妄想、錯覚)により、意思疎通が一過性に困難となる状態。
ここでのポイントは、「一過性」「意識障害」です。
(2)発症様式:
数時間~数日で発症し、日内変動がある。夜間に多い。
(3)原因:
①準備因子:認知症、脳血管疾患、高血圧、糖尿病、高齢
②促進因子:入院・ICU、手術、術後疼痛、持続輸液、尿道カテーテルなどのくだ類、
暗所、睡眠不足、身体拘束、不安
③直接因子:薬剤(睡眠薬など)、アルコール、代謝異常、電解質異常、低酸素血症、
高炭酸ガス血症、感染症、脳血管障害、頭部外傷、脱水、肝機能障害、腎機能障害
(4)治療
・原因・誘因の除去
・重度のせん妄(幻覚・興奮)には、抗精神病薬
2)不穏
(1)定義:
Goo辞書では
「穏やかでないこと。状況が不安定で危機や危険をはらんでいること。」と紹介されています。
「せん妄」が診断であるのに対し、「不穏」は、患者に現れている「状態」「症状」「行動」を表す言葉となっています。
不穏はせん妄と異なり、「意識障害(見当識障害・記憶障害)」を伴いません。
(2)不穏の具体的症状
・興奮
・落ち着きがない
・支離滅裂
・点滴などのクダ類を自己抜去する
(3)不穏の原因
・疼痛
・せん妄(せん妄による不穏)
3)混乱confusion
(1)定義:
混乱は、当惑させる[させられる]こと
・不明瞭、曖昧
・混同、取り違え
・混乱状態、無秩序
・当惑、困惑、戸惑い
看護診断「急性混乱」の「関連因子」、「ハイリスク群」「関連する状態」を見ますと、
「脳血管障害歴がある」、「脱水」、「身体拘束」、「意識レベル低下」などが含まれ、
せん妄を満たす要件と重複しています。
この「混乱」は「せん妄」と近い感覚で考えて良いのではないかと思います。
また、NOC内のリンケージでは、「急性混乱」の成果指標に「せん妄のレベル」が入っています。
「急性」がつくことで「一時的、一過性」であることを強調しています。ただ、せん妄の定義からしますと、せん妄自体が「一時的、一過性」であることが前提ですから急性せん妄とはいいません。「急性混乱≒せん妄」として考えていきます。
ただ、せん妄には低活動性せん妄という分類もあります。見当識障害や記憶障害をきたしているが危険行動はなく、落ち着いている場合がそうです。今回の「急性混乱」は、低活動性せん妄ではなく、活動性のあるせん妄のイメージで立案します。
せん妄は、臨床でも、術後や高齢者に多く見られます。つい薬を使ったり、抑制をしてしまいがちですが、それらは最終手段です。日中の活動性を増やしたり、人間関係を構築して環境に慣れてもらったりと出来ることをしてみることから始めてみるのがベストですね。
2.急性混乱リスク状態の対象
冒頭でも触れましたが、すでにせん妄の症状が出ている人は対象外です。
せん妄をきたす原因を持っている人、せん妄を引き起こす治療を受ける人、前回の入院時にせん妄をきたしたことがある人、など、今後せん妄が予測され、対策が必要な人に対して立案していきます。
①準備因子(もともと素因がある)がある
・認知症(長谷川式20点未満、)
・脳血管疾患(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)
・脳腫瘍
・頭部外傷
・高血圧
・糖尿病
・高齢
②促進因子(せん妄を誘引する間接的な原因となる)がある
・入院
・ICU管理
・手術
・疼痛
・持続輸液・尿道カテーテルなどのくだ類
・暗所
・睡眠不足
・身体拘束
・不安
③直接因子(せん妄を引き起こす直接的な原因となる)がある
・薬剤(睡眠薬など)
・アルコール
・代謝異常(甲状腺機能異常、副腎皮質機能異常、下垂体機能異常)
・電解質異常
・低酸素血症
・高炭酸ガス血症
・感染症
・脱水
・肝機能障害
・腎機能障害
④せん妄歴がある
3.目標設定
1)リンケージを参考にした指標
・せん妄のレベル(0916)
(定義:短期間で発現する可逆的な意識および認知の障害の重症度)
・見当識(0901)
(定義:人、場所、時間を正確に認識する能力)
・認知(0900)
(定義:複雑な精神的プロセス)
・興奮のレベル(1214)
(定義:ストレスまたは生化学的な誘引の破壊的な生理的・行動学的徴候の重症度)
行動的反応の適応)
・睡眠(0004)
(定義:身体の回復を伴う自然で周期的な意識の停止)
2)目標
目標は、患者さんを「主語」にします。
「看護者が○○できる」ではなく、
「患者さんが○○できるようになる」といった具合です
・昼夜逆転がなく、夜間の睡眠が十分に確保できる。
・自身の落ち着く生活環境(療養環境)を作ることができる。
・不安を相談することができる。
・医師の処方通りに服薬できる。
※看護師の目標としては以下のようなものが挙げられると思います。
・安全な環境を提供する。
・せん妄の頻度が少なくなるよう支援する。
3.看護計画
1)観察計画《OP》・
(1)せん妄の原因となるもの
①準備因子(もともと素因がある)
・認知症
・脳血管疾患(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)
・脳腫瘍
・頭部外傷
・高血圧
・糖尿病
・高齢
②促進因子(せん妄を誘引する間接的な原因となる)
・入院
・ICU管理
・手術
・疼痛
・持続輸液・尿道カテーテルなどのくだ類
・暗所
・睡眠不足
・身体拘束
・不安
③直接因子(せん妄を引き起こす直接的な原因となる)
・薬剤(睡眠薬など)
・アルコール
・代謝異常(甲状腺機能異常、副腎皮質機能異常、下垂体機能異常)
・電解質異常
・低酸素血症
・高炭酸ガス血症
・感染症
・脱水
・肝機能障害
・腎機能障害
(2)身体状況
・バイタルサイン
・意識レベル、記憶障害、見当識障害
・せん妄歴
・幻覚、妄想
・認知障害(長谷川式20点以下、MMSE21点以下)
・疾患:脳血管疾患、脳腫瘍、脳外傷
・疾患の治療経過
・治療内容
・現在の療養環境(ICU、ナースステーションからの距離、多床室)
・疼痛の部位、程度、鎮痛剤の使用
・ADL、IADL
・要介護度
・睡眠と活動のバランス
・不眠(音や頻尿、環境変化など)
・活動・生活範囲(ベッド周囲のみ、室内のみなど)
・消極的言動、無気力、不安
・面会の可否
・馴染みの人がいるかどうか(医師、看護師、リハビリ、SWなど)
2)行動計画《TP》
原因と誘引の除去を行う。
①環境整備
・静かで明るすぎない、落ち着いた環境にする。(モニターの音でせん妄になる場合もある)
・自己抜去や柵の乗り越えなどで目が離せない場合には、落ち着くまでナースステーションからの距離が近い部屋に移動する。
・馴染みのもの(時計や小物等)を持ってきてもらい、配置する。
・面会でご家族に会ってもらう機会を設ける。
・できる限り、こまめに訪室する(覗くだけでもいいのでほったらかしにしない)。
②原因除去
・直接原因となっている疾患がある場合には、治療計画に沿って、医師の指示の下、食事の介助、投薬などを行う。
・抑制が必要か、妥当性を検討する。(抑制しなくて良い調整を)
・点滴、バルンカテーテルなどの管類は見えないように工夫する(裾を通す、包帯を巻くなど)
・寄り添ったり傾聴したりして、関係づくりをする。
安心できる環境であることを理解してもらう。
叱ったり、説教したりするとかえって不信や恐怖となり、逆効果なのでしない。
・痛みがあれば医師の指示に従い、鎮痛薬の投与などをする。
③昼夜のバランス
・昼間はできるだけ車椅子に載せたり、テレビを見せたりして覚醒を促し、夜間眠れるようにする。
・気分転換活動を取り入れる。
④記録をする
・いつ、どの様なせん妄が起きて、どのように対処したかを記録しておく。
(どの対処が効果的であったか評価できる。)
3)教育計画《EP》
・困った事があれば相談するように伝える。
・ご飯をちゃんと食べて、水分も適度に取るように伝える。
・昼間は活動に付き合って欲しいと伝える。(患者が一人で動くと危ないので一緒に付き添わせてもらうと伝える)
・痛みがあれば我慢しないで知らせていいことを伝える。
参照文献
T.ヘザー・ハードマン 上鶴重美. (2016). NANDA-I 看護診断 定義と分類 2015-2017. 医学書院.
T.ヘザー・ハードマン、上鶴重美、カミラ・タカオ・ロペス. (2021年7月1日). NANDA-I看護診断ー定義と分類 2021-2023 原書第12版. 株式会社 医学書院.
リンダJ.カルペニート. (2014.1.1). 看護診断ハンドブック. 株式会社 医学書院.
岡庭豊. (2012). 看護師・看護学生のためのレビューブック. 株式会社 メディックメデイア.
岡庭豊. (2019.3). イヤーノート2020. 株式会社メディックメディア.
黒田裕子(訳). (2015). 看護成果分類(NOC)原著第5版 成果測定のための指標・測定尺度. エルゼビア・ジャパン株式会社.
山口徹 北原光夫 福井次矢. (2012). 今日の治療指針.
山内豊明. (日付不明). フィジカルアセスメントガイドブック. 医学書院.
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