看護計画 領域9 コーピング/ストレス耐性

NANDA-00074 看護計画 家族コーピング機能低下

NANDA-00074 看護計画 家族コーピング機能低下
領域9  コーピング/ストレス耐性  ライフイベント/生命過程への対処
類2 コーピング反応  環境ストレスを管理するプロセス

00074 家族コーピング機能低下


看護診断:家族コーピング機能低下
定義:患者が健康問題に関連する適応課題を管理・習得するうえで必要な、普段は支援的なプライマリーパーソン(家族メンバー・大切な人・親しい友)からのサポート・慰め・援助・励ましが、足りない、役に立たない、低下した状態

いつもご覧いただきありがとうございます。以前は「 家族コーピング妥協化 」という診断名でした。
今回の診断はなんとなくわかりにくい診断ですよね。誰に対するコーピングなのかぱっと見はよくわかりません。
定義を見ていくと、内容がわかってきます。

定義を整理すると下のようになります。
・問題を抱える人:患者
・問題を解決する人:患者
・問題解決のサポートをする人:プライマリーパーソン(家族、友人、大切な人)
・患者の想い:プライマリーパーソンによる支援が不足しているか、役に立っていないと感じている。
これをまとめると、
「患者は自分の課題解決のために、プライマリーパーソンに支援をしてもらっているが、満足していない」と言えると思います。

類似の診断に「家族機能中断」があります。
こちらは、家族構成員のイベントが発生したことによる「家族機能」が中断、破綻した際に立案します。
この診断の目標は「イベントによる課題を克服し、家族機能を維持する」ことになります。

今回の「家族コーピング機能低下」でも、プライマリーパーソンの中に「家族」が含まれていますので、患者に発生した課題解決に家族が関与することは同じです。
異なるのは「家族機能」という「機能的なまとまり」に焦点を置くのではなく、もっと個人的なことに焦点が置かれているということです。
患者側の意見からすると「やってくれるのはいいけどやり方が悪い」とか「来なくていいときに来て、来てほしいときに来ない」とか、「薬の飲ませる順を間違えている」とかいったケアの不満があり、「言いたいけど言えない」「失語で伝えることができない」「言いすぎる」などが考えられます。
プライマリーパーソン側からすると「こっちも疲れているのに要求が多い」とか、「さっきやったばっかりなのに文句言う」とか、「きりがないから少し放っておこう」など要求をわかっていてあえて知らんぷりをしたりしているケースもあるかもしれません。
どちらの診断も、当事者間だけでは解決が難しいように思います。他の家族の力を借りたり、社会資源を利用したりして解決に導いていくのであれば、初めから「家族機能中断」を立案してもよいかもしれませんね。
また、家族の構成員が夫婦二人だけの場合には「非効果的パートナーシップ」を挙げてもよいかもしれません。

家族機能中断

非効果的パートナーシップ

1.家族コーピング機能低下の対象

《患者本人》
・ADL低下
・認知力低下、被害妄想
・セルフケア能力に欠如がある
・介助者への理解が不足している
・介助者への不満がある
・介助者への欲求が多くある。
・文句を言う

《プライマリーパーソン(家族・友人・介助者)》
・患者のADL低下を認めない、気付いていない、できるだろうと思っている
・患者が罹患したことで、役割が増加し、患者にかけられる時間が少なくなった
 ・収入が減り、出費が増えたので働きに出る
 ・介護による負担が増加した
・愛想が尽きた
・介護疲れ(介護で夜間も眠れないなど)
・プライマリーパーソン自身も罹患したり、基礎疾患が悪化した

《患者とプライマリーパーソンの相互関係》
・コミュニケーション不足

2.目標設定


1)NOC/リンケージによる成果の指標


・介護者の介護能力:間接的ケア、直接的ケア
・家族のノーマライゼーション・家族のコーピング
・家族の社会的風土
・治療中の家族支援


2)目標設定


目標は、患者さんを「主語」にします。
「看護者が○○できる」ではなく、
「患者さんが○○できるようになる」といった具合です。
・自身の悲嘆を家族内で表出できる。家族間で共有できる。
・家族の課題を共有し、話し合うことができる。
・家族が役割を分担できる。
・家族皆がそれぞれの頑張りを認め、尊重できる。

3.看護計画


1)観察項目(OP)


★これらについて情報収集をします。要因の発生した時期・持続期間・変化の程度・誰に・誰が・どこで・どのくらいの影響か、を把握し、どこからアプローチするかを考えます。
・疾患、障害
・患者の変化(罹患前、罹患後)
 ・ADL、障害、麻痺など日常生活への影響(何をどのように援助する必要性が出てきたか)
 ・不足しているセルフケア
  ・誰がどんなふうにできなくなったセルフケアを介助しているか
  ・介助にかかる時間、頻度、時間帯(夜間など)
 ・自助具の使用
 ・疾患管理に必要なこと(服薬管理、リハビリ、療養環境整備など)
 ・自己管理能力
 ・認知機能の変化
 ・罹患による役割の変更(退職、配置換えなど)
 ・罹患による収入の減少
 ・医療費の負担
 ・介護費の負担
・プライマリーパーソンの存在
 ・プライマリーパーソンの発達段階
 ・プライマリーパーソンのADL、疾患
 ・プライマリーパーソンの認知機能
 ・患者が罹患する前のプライマリーパーソンの役割(家庭内での役割、患者に対しての役割)
 ・患者が罹患した後のプライマリーパーソンの役割
  ・収入の減少により働きに出た
  ・働きに出たことにより家事や介護ができる時間が短くなった
・患者本人の発言
 ・自身の役割に対する発言
 ・プライマリーパーソンに対する発言
 ・患者のプライマリーパーソンに対する要望
・プライマリーパーソンの発言
 ・自身の役割に対する発言
 ・患者に対する発言
 ・プライマリーパーソンの患者に対する要望
 ・患者の要望に耳を傾けているか
・患者とプライマリーパーソンの関係
 ・付き添って何年か
 ・関係は良好か
 ・関係はフラットか
・プライマリーパーソンの変化
 ・プライマリーパーソンの罹患、基礎疾患の増悪
 ・進学、入学、別居(学生マンションに入るなど
 ・他の家族の介護、看護
 ・家族の役割の増加
 ・ヤングケアラー(学業と家事、育児などとの両立)
 ・仕事をしながら、家事や介護・看護を行う
・家族構成の変化
 ・構成員の増加(出産、里帰り、離婚で戻ってくる、養子縁組)
 ・構成員の減少(入院、施設への入所、出張、他界)
 ・里親を引き受ける
 ・ペットの迎え入れ、喪失
・考え方の変化
 ・別居
・発達段階
 ・思春期
 ・受験期
 ・就職期
 ・入学、卒業
・コーピング方法に問題がある
 ・家庭内暴力
 ・薬物、アルコールなどの依存

2)行動計画(TP)


・情報の聴取、感情の表出のために落ち着いた場所で傾聴をする。
 アドバイスは控え、事実のみを共感的姿勢で聴取する。聴取内容は、メモを取り記録する。
 他の家族の構成員からも話を傾聴し、事実を把握する。
(構成員によってとらえ方に違いがある場合や、思い込みや過大解釈をしている場合があり、そうしたバイアスの傾向をとらえ、正確に事実を把握していく)
・収集した情報を主治医やソーシャルワーカーなどと共有し、対策を考える。
・不足しているセルフケアに対して、補完的なケアを行う。
・疲弊している場合には、ゆっくり休養できる療養環境を整える。
・障害、慢性疾患となったために、自身での医療的ケアが必要となった場合(ストマ、酸素管理、自己導尿、自己血糖測定、インスリン投与、低血糖対処、エピペンの所持など)、技術習得のための指導を行う。
 ※できたらパンフレットなどを準備してお話し・実演する。人間は忘れますから。
・障害、慢性疾患となったために、患者自身での医療的ケアが必要となった場合(ストマ、酸素管理、自己導尿、自己血糖測定、インスリン投与、低血糖対処、エピペンの所持など)、ご家族にも同様に技術習得のための指導を行う。
・自宅で家族が介護をする場合、介護技術習得のための指導を行う。
・ご自宅で家族が医療的ケア(吸引、栄養、人工呼吸器管理)を行う場合、技術習得のための指導を行う。
・役割が偏らないように、プライマリーパーソンそれぞれの発達段階に合わせた技術を習得してもらう。

3)教育計画(EP)


・お互いの意見が言えるように、場を提供する。立ち会って傾聴し、必要時は話の内容を整理する。
・いがみ合ったり、文句を言ったりするばかりでなく、お互いの存在を尊重できるように、話の内容を整理する。
・フォーマル・インフォーマルな支援が受けられるようにソーシャルワーカーに相談してもらう。
 訪問サービス、福祉用具など市町村によって手続きが異なる場合がある。
・慢性疾患・障害・麻痺の生活上の注意について、本人と家族に説明する。
・定期診察日には受診するように説明する。
・血圧や血糖など、毎日記録するように指示が出ているものに対しての説明を行う。
・服薬は指示どおりの用法用量を守るように説明する。飲み忘れた場合の対処についても説明する。
・自宅で家族が介護をする場合、在宅での実現可能な介護方法を話し合う。
・家族で分担したほうが望ましい場合、家族で話し合いの場を設け、状況の説明と今後の予測される経過、必要なケアの量について説明を行う。そのうえで、誰が何を協力するかを話し合ってもらう。
・家族の構成員の頑張りを認め、それぞれが頑張りを共有する。
・慢性疾患の場合の、増悪時の対応(発作、低血糖、浮腫増強など)について指導する。
・医療的ケアが必要となった場合、業者とのやり取り(HOT・酸素ボンベの取り寄せ、人工呼吸器業者、腹膜透析業者など)や、緊急時のやり取りについて話しておく。
・精神疾患の病期について家族に説明し、自殺企図・妄想幻覚の増強で他害などが現れた場合には、迷わず相談するように説明する。(ケアマネ、障害ケアマネ、訪問看護師、訪問診療の医師などいつもの状態を把握している人に相談する)
・依存物質からの脱却を試みる場合には、家族会・自助グループなどの情報提供をする。
・ALSなど難病の場合にも家族会があるため、情報提供をする。
・介護者がお勤めの場合には、介護休暇取得などのアドバイスを行う。
・障害者手帳、障害年金などが受給できるケースでは、ソーシャルワーカーより説明してもらう。


参照文献


T.ヘザー・ハードマン 上鶴重美. (2016). NANDA-I 看護診断 定義と分類 2015-2017. 医学書院.
T.ヘザー・ハードマン、上鶴重美、カミラ・タカオ・ロペス. (2021年7月1日). NANDA-I看護診断ー定義と分類 2021-2023 原書第12版. 株式会社 医学書院.
リンダJ.カルペニート. (2014.1.1). 看護診断ハンドブック. 株式会社 医学書院.
岡庭豊. (2012). 看護師・看護学生のためのレビューブック. 株式会社 メディックメデイア.
岡庭豊. (2019.3). イヤーノート2020. 株式会社メディックメディア.
黒田裕子(訳). (2015). 看護成果分類(NOC)原著第5版 成果測定のための指標・測定尺度. エルゼビア・ジャパン株式会社.


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