領域4 活動/休息
エネルギー資源の産生、保存、消費、またはバランス
類2 活動/運動 身体の一部を動かすこと(可動性)、働くこと、またはしばしば(常にではなく)抵抗に対して行動すること

00040 不使用性シンドロームリスク状態


看護診断:不使用性シンドロームリスク状態
定義:指示された、またはやむを得ない筋骨格系の不活動状態のために体組織の崩壊が起こりやすく、健康を損なうおそれのある状態

定義によると「指示された、またはやむを得ない筋骨格系の不活動状態」のために「体組織の崩壊、健康を損なう」おそれがある状態とあります
筋骨格系の不活動状態には、「安静の指示」「免荷の指示」「鎮静」「抑制」などの他人による制限と、「自力体交困難」「動きたくない」「動く気がしない」「外出の機会がない」などの自身の身体的や精神的問題により行動が制限されている場合とがあります。
体組織の崩壊、健康を損なう状態とは、「筋力低下」「活動低下による心肺機能の低下」「活動低下による食欲低下」「活動低下による便秘」「活気・意欲の低下」など、動かないことでの全身状態の機能低下(動かなくても良い身体への変化)をきたす状態と言えます。
これらを一言で「廃用症候群」とか「生活不活発病」と言い換えることができます。

 

1.廃用症候群・生活不活発病とは


廃用症候群も生活不活発病「disure syndrome」という用語の訳です。Disure(デシュア)は「廃用」「不使用」という意味です。「disure syndrome」はアメリカのリハビリテーション専門医であるハーシュバーグ博士が名付けた診断です。
日本では廃用症候群と訳されて普及していきましたが「廃」という言葉のイメージが「不要なもの」という悪い印象を与えてしまうため、生活不活発病という名称で呼ばれることも増えてきています。


1)「廃用症候群・生活不活発病」定義


厚生労働省「閉じこもり予防・支援マニュアル(改訂版)」より引用。

https://www.mhlw.go.jp/topics/2009/05/dl/tp0501-1g.pdf

廃用症候群定義:廃用(使わないこと)、すなわち不活発な生活や安静でおきる、全身のあらゆる器官・機能に生じる”心身機能の低下”である


2)廃用症候群の症状


:周囲への関心低下、意欲低下、抑うつ傾向、認知力の低下
心臓:静脈血栓症、浮腫、起立性低血圧、息切れ
肺:肺機能低下、誤嚥性肺炎、沈下性肺炎
消化器:蠕動運動低下、食欲低下、便秘
骨:骨粗鬆症
筋肉・関節:関節拘縮、筋萎縮、筋力低下、尖足→ADL低下
皮膚:褥瘡
その他:脱水、失禁、尿路感染

 

2.廃用症候群予防施策→→寝たきりゼロへの10か条(平成3年 厚生労働省)以下URL参照


http://www.ipss.go.jp/publication/j/shiryou/no.13/data/shiryou/syakaifukushi/412.pdf


平成2年度からスタートした「高齢者 保健福祉推進十か年戦略」(ゴールドプラン)で、「ねたきり老人ゼロ作戦」を重要な柱のひとつと位 置づけ,寝たきり予防の啓発活動が進められている。


(1)寝たきりゼロへの10か条

(2)目的

①脳卒中や骨折等,寝たきりに導く原因疾患の発 生を防止する。
②早期リハビリテーションの普及等によリ,原因 疾患発生後に,それにより生じる障害を最小限 にとどめる。
③脳卒中や骨折による障害が残っても,障害の悪化を防止、社会復帰促進をする。
④閉じこもり症候群の予防をする。
(★1)


(3)10か条の各標語に盛り込まれた具体的 テーマ

原因や誘因の発生予防を訴えるもの
○作られた寝たきりの防止を訴えるもの(寝かせ きりを戒めるもの)
早期リハビリテーションの重要性を訴えるもの
生活リハビリテーションの考え方を周知するも の
寝・食分離をはじめ,生活にメリハリをつける よう努力を促すもの
○本人の主体性・自立性の尊重を訴えるもの
機器の積極的活用を促すもの
住環境の整備の促進を訴えるもの
社会参加の重要性を訴えるもの
地域の保健・福祉サービスの積極的利用を促す もの

 

(★1) 閉じこもり症候群

閉じこもり症 候群とは、生活の活動空間がほぼ家の中 のみへと狭小化することで活動性が低下 し、その結果、廃用症候群*を発生させ、 さらに心身両面の活動力を失っていく結果、寝たきりに進行するというプロセスを指したもので ある。

閉じこもりの要因は、「身体的要因」「社会・環境要因」「心理的要因」がある(上の図を参照)。それらの要因により、限られた狭い空間で過ごすようになり(閉じこもり)、それにより各機能が低下する廃用症候群となり、ひいては寝たきりへと繋がる。

 

3.看護診断「不使用性シンドローム」の適応

〈身体的要因〉
・歩行能力の低下
・IADL 障害
・認知機能の低下
・散歩・体操や運動をほとんどしない
・日常生活自立度の低下
・下肢の痛み
・体重や筋肉の減少感
・視力,聴力の低下
・ 生活体力の低下
・油脂類の摂取頻度が少ない
・生活習慣の不規則性
・健康生活習慣がない
・転倒経験あり
・咀嚼力の低下
・脳卒中の既往
〈心理的要因〉
・ADL に対する自己効力感の低さ
・主観的健康感の低さ
・うつ傾向 生きがいがない
・ 転倒不安による外出制限があること
・主観的幸福感が低い
・QOL の低さ
・健康関連 QOL が低い
・体力自己評価が低い
・精神的健康度が低い
・外出志向,生活創造志向,人生達成充足感,穏やかな高揚感などが低い
〈社会・環境要因〉
・高齢であること
・集団活動などへの不参加
・家庭内の役割が少ない
・社会的役割の低さ
・親しい友人がいない
・老研式活動能力指標の低さ
・近隣との付き合いが少ない
・友人・近隣・親族との交流が少ない
・ソーシャル・ネットワークが小さい
・日中すごす場所が家の中,あるいは自室のみ
・低所得である
・同居子がいること
・社会的接触が少ない
・居宅から 30 分以上の距離に住む友人が少ない
・外出の援助などソーシャル・サポートが少ない
・ 同居家族との会話が少ない
・畳の部屋での生活
・人口密度が低い地域

 

4.目標設定

リンケージによる目標設定(NOCの後半に載っています)
 ※「リンケージ」は「NANDA」「NIC」「NOC」をつなぐ役割があります(リンクは「連結」の意味)。

1)リンケージ上の成果

不動に伴う影響:生理学的(0204)
 (定義:身体可動性障害によって生理学的機能の調整が困難であること)
不動に伴う影響:心理認知学的(0205)
 (定義:身体可動性障害により心理認知学的機能の調整が困難であること)
神経学的状態:脊髄神経系感覚/運動機能(0914)
 (定義:感覚刺激と運動刺激を伝達する脊髄神経系の機能)

 

2)目標

目標は、患者さんを「主語」にします。
「看護者が○○できる」ではなく、
「患者さんが○○できるようになる」といった具合です。

・社会活動に参加する。

・早期離床の効果を述べることができ、早期離床に取り組むことができる。

・生活リハビリを取り入れることができる。

※看護師の目標としては以下のようなものが挙げられると思います。

・閉じこもり症候群・寝たきりを予防する。
・急性期より早期離床に努める。
・活動と休息のバランスについて理解を促すことができる。

 

5.看護計画


1)観察計画《OP》

・バイタルサイン
・意識レベル
・呼吸音、肺雑音
・腸蠕動音、腹部膨満、腹部緊満、腹痛、圧痛
・認知障害(長谷川式20点以下、MMSE21点以下)
・疾患と疾患の病期
・安静度(ベッド上、室内フリー、病棟フリー、院内フリーなど)
・鎮静剤使用の有無
・麻痺の有無、部位
・疼痛の有無、範囲、部位
・MMT(徒手筋力テスト)、関節可動域
・自助具の使用
・ADL、IADL
・認知症高齢者の日常生活自立度(★2)
・障害高齢者の日常生活自立度(★3)
・活動範囲(ベッド周囲のみ、室内のみなど)
・着衣(浴衣、パジャマ、洋服)、はきもの(スリッパでないか)
・自宅の環境(手すりやスロープなどでバリアフリーになっているか)
・自宅の寝室(ベッドかふとんか)
・同居家族の有無、介護力
・現在のケアプラン(デイサービスやデイケアが組み込まれているか)
・意欲、活気
・消極的言動、無気力
・睡眠と活動のバランス
・清潔への意識(不潔となっていないか)
・食欲、食事量、水分摂取量
・皮膚状態、褥瘡の有無
・深部静脈血栓の徴候(下肢の疼痛(圧痛)、発赤、皮膚色の変化(暗紫色)、ホーマンズ徴候)
・尿回数、尿失禁、便回数、便失禁、便秘、排泄環境
・自己での水分制限(トイレの回数を減らすため、尿を減らすため、迷惑をかけたくない)
・呼吸機能(SPO2、呼吸数、呼吸苦、息切れ)咳嗽

(★2)認知症高齢者日常生活自立度

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000077382.pdf

 

(★3)障害高齢者の日常生活自立度.

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000077382.pdf

 

 

2)行動計画《TP》

・安全・安楽・自立に視点を置いて環境整備をする。
・自身でできることは自分で行ってもらう。そのための見極め(なにがどこまでできるのか)をし、他のスタッフへも申し送り、誰もが同じ介入をする。
・できないことの手助けをする。全部は手伝わない。
・リハビリ職とも連携し、リハビリでの実施内容、進行状況、生活上の注意などの情報を共有し、療養生活に組み込む。
・活動しやすい衣服や履物を選択する。
・季節の催しや売店への買い物、散歩など、気分転換につながる介入も時折行う。
・手すりの設置がされているトイレへ誘導する。
・移動時は段差のないところを誘導する。
・急性期から早期離床に取り組む。
・ベッド上でもできるROM訓練を取り入れる。
・日中はトイレまで移動するなど、生活範囲の拡大につながるように声掛けをする。
・日中は覚醒を促すためにベッドから離れてすごしてもらう(車椅子、ナースステーション、食堂など)。その際は、目の届くところにいてもらう。
・疼痛などにより活動が制限されている場合には、医師に鎮痛剤の指示をもらい、鎮痛剤の投与をする。
・患者や家族の話を傾聴し、不安や困っていることを傾聴する。またその中で介入が必要な事柄があれば、スタッフ間で話し合って、解決策を提示する。
・関節可動域訓練、歩行訓練など筋力や関節可動域保持のための介入を行う。
・日中活動し、夜間睡眠がとれるようにバランスを整える。朝の日光を取り入れる。
・体交時には、麻痺側を巻き込んだり、下になったままにならないよう気をつける。

 

3)教育計画《EP》

・急性期の早期離床の効果を説明する。
・長期臥床による寝たきりへのリスクを説明する。
・受傷による後遺症で麻痺が残った場合には、麻痺側の扱い(脱臼、血流障害)について説明する。
 ・車椅子に移乗するときには、麻痺側を体幹の内側に入れてから移乗する。
 ・体位変換時は、麻痺側を下にする時間は短時間とする。
 ・体位変換時は、麻痺の腕の位置に注意し、脱臼しないように注意する。
 ・痛みを感じないので、怪我などにも注意する。
・在宅では、朝起きたら更衣をし、暮らしのメリハリをつけることのメリットをお話する。
・デイケア、デイサービスなどの利用ができるよう、ソーシャルワーカーへ橋渡しをする。
・介護者の介護負担軽減(訪問サービスやレスパイト)のためのサービス利用ができるよう、ソーシャルワーカーと連携する。
・疼痛があるときには我慢せず、ナースコールを押すように説明する。
・介助が必要な場合には、遠慮せず、ナースコールを押すように説明する。
・内服薬は用法用量を守って内服するように、本人と介護者に説明する。飲み忘れしないような工夫も一緒に考えていく。
・脳梗塞などの再発を予防するための生活習慣について説明する。
・脳卒中(脳血管障害)の早期発見のためのACT-FAST(★4)について説明する。

 

(★4)ACT-FAST(アメリカの脳卒中協会の標語)

ACT-FASTは脳卒中を早期発見するためのツールです。
Face:顔の麻痺「イーと歯を見せてください」
Arm:手の脱力「手を挙げてみてください」
Speech:構音障害「お名前お願いします」
Time:発症時刻
上のFace、Arm、Speechに異常があったら発症時刻を確認して、すぐに救急車を呼んでください。発症から4.5時間がゴールデンタイムでその時間がT-P A治療の対象です。

参照文献

T.ヘザー・ハードマン、上鶴重美、カミラ・タカオ・ロペス. (2021年7月1日). NANDA-I看護診断ー定義と分類 2021-2023 原書第12版. 株式会社 医学書院.
T.ヘザー・ハードマン 上鶴重美. (2016). NANDA-I 看護診断 定義と分類 2015-2017. 医学書院.
岡庭豊. (2012). 看護師・看護学生のためのレビューブック. 株式会社 メディックメデイア.
黒田裕子(訳). (2015). 看護成果分類(NOC)原著第5版 成果測定のための指標・測定尺度. エルゼビア・ジャパン株式会社.
山口徹 北原光夫 福井次矢. (2012). 今日の治療指針.
青柳智和. (2018). 洞察力で見抜く急変予兆~磨け!アセスメントスキル~. 株式会社ラプタープロジェクト.
大橋優美子 吉野肇一 相川直樹 菅原スミ. (2008). 看護学学習辞典(第3版). 株式会社 学習研究社(学研).

 

ここまでお付き合いいただきありがとうございました。ご意見ご感想ご質問がありましたら下のコメント欄よりお待ちしております(゚▽゚)

投稿者 FlorenceMYM

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