
NANDA-00085 看護計画 身体可動性障害
領域4 活動/休息
エネルギー資源の産生、保存、消費、またはバランス
類2 活動/運動 身体の一部を動かすこと(可動性)、働くこと、またはしばしば(常にではなく)抵抗に対して行動すること
目次
00085 身体可動性障害
看護診断:身体可動性障害
定義:自力での意図的な身体運動や四肢運動に限界のある状態
↓↓↓↓
2021年版より定義が変更され、「関連因子」と「関連する状態」の診断補助項目が追加されました。より具体的にイメージできるようになっています。
看護診断:身体可動性障害
定義:胴体あるいは1つ以上の四肢の、意図的な自力運動に限界のある状態
補足:類似の看護診断について
体位変換や移乗に関する看護診断では、状態に合わせて以下のように選択してみてください。
《何らかの原因でADLの低下をきたしている場合》
看護診断:身体可動性障害
定義:自力での意図的な身体運動や四肢運動に限界のある状態
《ベッド上での体位変換ができない場合》
看護診断:床上可動性障害
《面から面への移動が困難な場合:ベッド⇔車椅子、ベッド⇔ストレッチャーなど》
看護診断:移乗能力障害
定義:隣接する面から面への自力移動に限界のある状態
1.「身体可動性障害」の適応
身体可動性障害の定義は「(旧)自力での意図的な身体運動や四肢運動に限界のある状態」「(新)胴体あるいは1つ以上の四肢の、意図的な自力運動に限界のある状態」です。
自力で動きたいけど動けない、自力で動こうという気がそもそも起こらない場合が考えられます。
動きたいけど動けないのは、加齢変化による解剖生理的な要因や疾患による稼働の制限が考えられます。
動く気力がないのは、精神的な問題や、エネルギー不足、消耗性疲労などが考えられます。
どのような場合が対象になるか考えてみましょう。
・要介護3・4・5
・認知症高齢者の日常生活自立度でⅢ・Ⅳ・M(★1)
・障害高齢者の日常生活自立度でランクA2・B・C(★2)
・認知機能の低下(移動するという言葉の意味がわからない、動作の方法がわからないなど)
・感覚性失語(指示が理解できない)
・高次脳機能障害(指示が理解できない、気が散りやすい)
・麻痺の程度(完全、不全)、範囲(四肢、下肢、半身)
・脊髄損傷と損傷部位
・神経筋障害
・パーキンソン病
・脊髄小脳変性症
・筋萎縮性即索硬化症
・重症筋無力症
・筋ジストロフィー
・多発性筋炎
・神経炎・脊髄炎(感染症由来)
・筋骨格系の障害
・骨折、ヘルニア、円背
・脊柱管狭窄、脊椎すべり症
・関節腫瘍
・ギプスの装着
・脱臼
・自己免疫性疾患
・リウマチ、シェーングレン、SLE、強皮症
・筋力不足
・杖、歩行器などの使用
・サルコペニア(食欲低下・骨折による不動などの原因により筋肉量減少をきたしたもの)
・ロコモティブシンドローム(骨・筋肉・関節・靭帯・腱・神経などの運動器の障害により移動機能が低下した状態)
・フレイル(虚弱:健康と要介護の中間で、社会的フレイル、身体的フレイル、心理的フレイルがある。身体的フレイルにロコモティブシンドロームとサルコペニアは含まれている)
・消耗性疲労
・精神疾患:うつ病
・視力の問題(よく見えず、安全に動くことができない):視力低下、霧視、視野欠損
・安静指示:免荷の指示、ベッド上安静の指示
・肥満
・疼痛
・意識レベルの低下
・薬剤
・療養環境、生活環境がADLに適していない
・ADLの低下
(★1)認知症高齢者日常生活自立度
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000077382.pdf

(★2)障害高齢者の日常生活自立度
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000077382.pdf

2.目標設定
リンケージによる目標設定(NOCの後半に載っています)
※「リンケージ」は「NANDA」「NIC」「NOC」をつなぐ役割があります(リンクは「連結」の意味)。
1)リンケージ上の成果
・移動:車椅子(0201)
(定義:車いすに乗って場所から場所に移動する個人の行動)
・歩行(0200)
(定義:補助具の使用にかかわらずひとりで歩いて場所を変えることができる個人の行動)
・可動性(0208)
(定義:補助具の使用にかかわりなく、自身の環境内で目的に適った動きがひとりでできること)
・疼痛のレベル(2102)
(定義:観察または報告された疼痛の重症度)
・活動の耐性(0005)
(定義:エネルギー消費を伴う日常生活活動における運動に対する生理的反応)
・体力(2004)
(定義:身体的活動を活発に行う能力)
・不安のレベル(1211)
(定義:特定できない要因から生じる著しい心配、緊張、気がかりの重症度)
2)目標
目標は、患者さんを「主語」にします。
「看護者が○○できる」ではなく、
「患者さんが○○できるようになる」といった具合です。
・生活リハビリを取り入れADLの維持ができる。
・安全な移乗や歩行の方法を述べることができ、実際に行うことができる。
・自助具を正しく使用できる。
・活動の障害とならないよう、疼痛や環境などをコントロールできる。
※看護師の目標としては以下のようなものが挙げられると思います。
・ADLの維持・向上を目指す。
・安全に移乗や歩行ができるよう介助する。
・環境の整備や自助具の使用で自立を促す。
・活動の障害となっている因子(疼痛、環境など)をコントロールする。
3.看護計画
1)観察計画《OP》
・バイタルサイン
・意識レベル
・認知障害(長谷川式20点以下、MMSE21点以下)
・疾患と疾患の病期
・要介護度
・安静度(ベッド上、室内フリー、病棟フリー、院内フリーなど)
・鎮静剤使用の有無
・麻痺の有無、部位
・安静時:疼痛の有無、範囲、部位、疼痛スケール
・体動時:疼痛の有無、範囲、部位、疼痛スケール
・疼痛時の鎮痛剤使用の有無
・活動による身体症状の出現(動悸、呼吸苦など)
・MMT(徒手筋力テスト)
・関節可動域
・自助具の使用
・車椅子への移乗能力(立位困難、移乗困難、全介助、一部介助、見守り)
・歩行状態(小刻み歩行、すり足歩行、突進歩行、小股歩行、痙性歩行、引きずり歩行)
・歩行時の姿勢(パーキンソン病の独特の姿勢、円背)
・間欠性跛行(少し歩くと足が痛くなり歩けなくなるが、少し休むと、また歩けるようになる)
・ADL、IADL
・自力で可能な関節可動域の範囲(どこまで出来て、どこから介助が必要か)
・認知症高齢者の日常生活自立度
・障害高齢者の日常生活自立度
・「指輪っか」テスト:ふくらはぎを1.2指で作った輪で囲み、指先がついたり重なったりするとサルコペニアの可能性が高いというもの。簡易指標)
・活動範囲(ベッド周囲のみ、室内のみなど)
・肥満、BMI=25以上
・着衣(浴衣、パジャマ、洋服)、はきもの(スリッパでないか)
・自宅の環境(手すりやスロープなどでバリアフリーになっているか)
・自宅の寝室(ベッドかふとんか)
・同居家族の有無、介護力
・意欲、活気
・消極的言動、無気力、不安
・睡眠と活動のバランス、睡眠不足
・清潔への意識(不潔となっていないか)
・食欲、食事量、水分摂取量、エネルギー不足
・皮膚状態、褥瘡の有無
・呼吸機能(SPO2、呼吸数、呼吸苦、息切れ)咳嗽
2)行動計画《TP》
・安全・安楽・自立に視点を置いて環境整備をする。
・自身でできることは自分で行ってもらう。そのための見極め(なにがどこまでできるのか)をし、他のスタッフへも申し送り、誰もが同じ介入をする。
・できないことの手助けをする。全部は手伝わない。
・移乗動作、歩行動作を日々アセスメントしながら介助する。
・適切な自助具を使用する。
・リハビリ職とも連携し、リハビリでの実施内容、進行状況、生活上の注意などの情報を共有し、療養生活に組み込む。
・活動しやすい衣服や履物を選択する。
・気分の落ち込みや、抑うつによる体動の現象がある場合には、季節の催しや売店への買い物、散歩など、気分転換しながら活動が行えるような介入を行う。
・安全な療養環境を整備する。手すりの設置がされているトイレへ誘導するなど安全に使えることを認識してもらい、自分にもできそうだと思ってもらえるような介入をする。
・急性期から早期離床に取り組む。
・関節可動域訓練、歩行訓練など筋力や関節可動域保持のための介入を行う。
・ベッド上でもできるROM訓練を取り入れる。
・日中はトイレまで移動する、食事の際は車椅子に移るなど、生活範囲の拡大につながるように声掛けをする。
・デイルームなどの皆が集まれるスペースがある場合には、食事の際やその他の時間に、お連れして、お互いにコミュニケーションをとってもらうように計らう。(刺激を与える)
・疼痛などにより活動が制限されている場合には、医師に鎮痛剤の指示をもらい、鎮痛剤の投与をする。
・肥満による体動困難やひざの痛みなどある場合には、間食の制限など、治療の計画に沿って介入を行う。
・患者や家族の話を傾聴し、不安や困っていることを傾聴する。またその中で介入が必要な事柄があれば、スタッフ間で話し合って、解決策を提示する。
・日中活動し、夜間睡眠がとれるようにバランスを整える。朝の日光を取り入れる。
・体交時には、麻痺側を巻き込んだり、下になったままにならないよう気をつける。
・食事量の低下が見られる場合には、口腔内の様子・腹部症状・食形態・嚥下機能などを評価し、食事量が増えるように調整する。食形態の変更、歯科の介入、補助食品の追加など。
・活動による呼吸苦や動悸などの身体症状が出る場合には、途中で休息ができるような工夫を取り入れる。時々パルスオキシメーターを装着して客観的な評価も取り入れた介助をする。
3)教育計画《EP》
・急性期の早期離床の効果を説明する。
・長期臥床による寝たきりへのリスクを説明する。
・自宅での療養環境を聞き取りし、自宅で安全に生活するための環境に必要な整備を本人やご家族と考える。また、福祉用具の導入などではケアマネジャーとの連携も行っていく。
・受傷による後遺症で麻痺が残った場合には、麻痺側の扱い(脱臼、血流障害)について説明する。
・車椅子に移乗するときには、麻痺側を体幹の内側に入れてから移乗する。
・体位変換時は、麻痺側を下にする時間は短時間とする。
・体位変換時は、麻痺の腕の位置に注意し、脱臼しないように注意する。
・痛みを感じないので、怪我などにも注意する。
・在宅では、朝起きたら更衣をし、暮らしのメリハリをつけることのメリットをお話する。
・デイケア、デイサービスなどの利用ができるよう、ソーシャルワーカーへ橋渡しをする。
・介護者の介護負担軽減(訪問サービスやレスパイト)のためのサービス利用ができるよう、ソーシャルワーカーと連携する。
・疼痛があるときには我慢せず、ナースコールを押すように説明する。
・介助が必要な場合には、遠慮せず、ナースコールを押すように説明する。
・内服薬は用法用量を守って内服するように、本人と介護者に説明する。飲み忘れしないような工夫も一緒に考えていく。
・食事にタンパク質を取り入れると筋肉量が維持されてサルコペニアの予防にもつながることを説明する。
関連の診断:不使用性シンドロームリスク状態
高齢者では、様々な要因で容易に廃用症候群(生活不活発病)となり、ひいては寝たきりとなってしまいます。身体可動性障害とも関連があると思いますので、よかったら下の記事も参考にしてみてください。
参照文献
T.ヘザー・ハードマン 上鶴重美. (2016). NANDA-I 看護診断 定義と分類 2015-2017. 医学書院.
岡庭豊. (2012). 看護師・看護学生のためのレビューブック. 株式会社 メディックメデイア.
恒藤暁 内布敦子. (2010). 系統看護学講座 緩和ケア. 株式会社 医学書院.
黒田裕子(訳). (2015). 看護成果分類(NOC)原著第5版 成果測定のための指標・測定尺度. エルゼビア・ジャパン株式会社.
山口徹 北原光夫 福井次矢. (2012). 今日の治療指針.
大橋優美子 吉野肇一 相川直樹 菅原スミ. (2008). 看護学学習辞典(第3版). 株式会社 学習研究社(学研).
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。ご意見ご感想ご質問がありましたら下のコメント欄よりお待ちしております(゚▽゚)
コメント