看護計画 領域11 安全/防御

NANDA-00246 術後回復遅延リスク状態 看護計画

領域11 安全/防御

類2 身体損傷  身体への危害または傷害

術後回復遅延リスク状態

看護診断:術後回復遅延リスク状態

定義:手術後に、生命、健康、安寧を維持する活動を、再開するまでに必要な日数の延長が起きやすく、健康を損なうおそれのある状態

2021年版では定義が少し変わっています。また、「ハイリスク群」「関連する状態」が追加となり、より具体的な内容になっています。

定義:手術後に、生命・健康・ウェルビーイングを維持する活動を、開始および実行するまでに必要な日数が延長しやすく、健康を損なうおそれのある状態

 

1.看護診断「術後回復遅延リスク状態」の適応

・高齢者

・小児

・既往歴が多い、複数の疾患を持っている

・ASAのPS分類3度以上(下記✩1参照)

・抗血小板薬(アスピリン、シロスタゾール)、抗凝固薬(ワーファリン)は4~5日前より休薬し、ヘパリンの点滴へ変更する。ヘパリンは半減期が短いため、手術の4時間前まで投与が可能。

・糖尿病、高血糖(HbA1C、GLU):糖尿病は様々な合併症をおこしやすいため、インスリンでのコントロールが必要となる。1週間前より内服薬を中止してインスリン投与で管理する(通常より早めに入院して管理する)

・ピルの内服:エストロゲンは肝臓で血液凝固因子を合成促進させるため、静脈血栓塞栓症リスクを高める。

 手術4週間前より休薬し、再開は術後2週間以上経ってから。

・喫煙者:呼吸器系の慢性的炎症による術後の呼吸器合併症リスクがある。

・栄養状態不良(TP、Alb):組織の回復遅延

・貧血

・高血圧:動脈硬化によるものが多く、術後の組織潅流現象による重要臓器の機能低下のリスクがある。降圧薬  

 は中止するものと継続するものとあるため医師に確認が必要。

・ステロイド内服:ステロイドの長期内服により、副腎機能が低下してしまう。通常なら術後の異化期には、副腎皮質刺激ホルモンによりステロイド(コルチゾール)が増加するが、ステロイド内服しているとその機能が働かずに、相対的にコルチゾールが不足し、血圧の維持などがなされない。手術侵襲の程度に合わせてステロイドカバーが行われる。

・肥満、高脂血症:術後低換気による呼吸器合併症リスクがある。

・慢性呼吸器疾患:呼吸器合併症リスクが高い。

・狭心症、心筋梗塞の既往

・術式、広範囲の手術

・アルコール中毒:栄養状態が悪い、薬剤耐性があり術中の麻酔量が多くなる

・精神疾患で服薬コントロール中:術中の麻酔薬の使用量が多くなる

・離床が進まない可能性:下肢の疾患、歩行障害、心理的障害など

  

✩1 ASAのPS分類

 ASAのPS分類は米国麻酔学会の術前身体状態分類のことです。

小児と妊婦はASAのHPを参照して下さい ​ASA Physical Status Classification System | American Society of Anesthesiologists (ASA) (asahq.org)

 

2.目標設定

リンケージによる目標設定

※「リンケージ」は「NANDA」「NIC」「NOC」をつなぐ役割があります(リンクは「連結」の意味)。

 

1)リンケージ上の成果

・術後回復:術直後(2305)

(定義:麻酔を必要とする大手術後に生理学的な基準値(ベースライン)に対する程度)

・術後回復:回復期(2304)

(定義:麻酔後のリカバリールームから術後の最終外来受診までの間の身体的機能、精神的機能、役割機能の程度)

・創傷治癒:一次癒合(1102)

(定義:創傷の癒合後の細胞や組織の再生の程度)

・知識:治療計画(1813)

(定義:特別な治療計画に関する理解の程度)

  

2)目標

目標は、患者さんを「主語」にします。
「看護者が○○できる」ではなく、
「患者さんが○○できるようになる」といった具合です。

・自身におこりやすい術後合併症について述べることができる。また、術後、異変を感じたら医療者に相談できる。

・術前から、喀痰のための方法を述べることができ、また実際に行うことができる。

・術前からの医師の指示を守ることができる(禁煙、休薬など)。

・術前から、医療者との関係を築き、不安を表出することができる。

※看護師の目標としては以下のようなものが挙げられると思います。

患者の不快症状や不安を緩和し、療養生活を支援する。

早期離床により、合併症のリスクを減らす。

異常の早期発見に努める。

術後の一時的なADLの低下に対して、療養上の世話(清潔ケアなど)を行う。

 

3.看護計画

1)観察計画《OP》

まず、術中の経過の異常で術後に起こりうるリスクを予想します。そして、術後の観察項目で異常(正常経過からの逸脱)の早期発見を目指します。これらの異常が術後回復遅延(バリアンス)につながります。

〈術中経過〉

・麻酔の種類

・麻酔の時間

・術中のバイタルサインの変化

・術中に使用した薬剤の名称と量

・麻酔後の覚醒状況

・術式、手術時間

・出血量、尿量

・輸液量、輸血量、輸血の種類

・手術体位、体位固定による圧迫

・手術部位、創の大きさ、創部の状態

・摘出部位の状態

・術中イベント(予想外の事象発生)

・転移や浸潤などの予想外の患者の状態

・術操作によるもの(出血)

・麻酔や体位によるもの

・バイタルサインの異常(不整脈、血圧低下、徐脈、BISモニター異常、低体温、高体温)

・ドレーン挿入部位、挿入種類

・膀胱留置カテーテル

・硬膜外麻酔、PCA回路

・点滴挿入部位、点滴種類

〈術後回復:術直後・回復期、創傷治癒〉

・意識レベル、せん妄

・人工呼吸器管理なら設定、回路異常、加湿、実測値

・心電図やSPO2などの生体監視モニターの装着(外れがないか、正しく装着されているか)

・呼吸数・呼吸エア入りと呼吸音の左右差・酸素量、投与デバイス、SPO2

・維持輸液の種類(輸液名)、投与速度、投与経路

・間欠投与の薬剤(抗生剤や肝庇護剤や胃薬など)

・持続投与の薬剤(昇圧剤、降圧剤、鎮静剤、鎮痛剤、筋弛緩薬など)

・薬剤による副作用

・バイタルサインの異常(体温、血圧、脈拍、不整脈、心雑音、SPO2など)

・酸素の吸入

・四肢冷感、チアノーゼ

・膀胱留置カテーテル内の尿の性状、量

・ドレーンの固定、性状、量、低圧持続吸引の設定や異常の有無(呼吸性変動やリーク)

・創部の状態、出血、創離開、感染(発赤、腫脹、発熱、疼痛、悪臭、アイテル)、創からの滲出液

・疼痛の有無と程度、フェイススケール

・腸蠕動音の有無、微弱、亢進

・腹部痛、腹部膨満

・NGチューブからの排液量、性状

・嘔気嘔吐

〈知識:感染管理〉肺炎、カテーテル関連の感染、創部の感染など

・感染経路

・感染の徴候(発赤・腫脹・熱感・疼痛)

・手指衛生

〈知識:治療計画〉

・疾患への理解

・処方薬への理解

・合併症の危険性への理解

・自己モニタリング法

・処方された食事(食形態・食事量・食欲)

・処方された運動(リハビリ)への意欲、進行度

 

2)行動計画《TP》

・観察項目より異常が発見されたら、リーダーおよび医師へ報告を行う。急変時は、その場を離れず、スタッフコールをする。

・術後経過に伴うADL低下に対して、療養上の世話を行う。

 (体位変換、おむつ交換、陰部洗浄、清拭、排泄介助、食事介助、入浴介助、マウスケアなど)

・治療計画に沿った診療補助を行う。

 (輸液管理、ドレーン管理、疼痛管理、ガーゼ交換、人工呼吸器管理)

・肺炎予防のための、排痰ケアを行う。(スクイージング、体位ドレナージ、タッピング、ネブライザーなど)

・自己喀痰困難な場合は、吸引を実施する。

・疼痛が強い場合には、鎮痛剤を使用する(医師の指示に従う)。

・せん妄のリスクが高い場合には、事前に抑制同意書を家族より得ておく。また、ナースステーションに近い病室とする。

・せん妄により、挿管チューブやドレーンを引っ張るなどの生命の危険につながる行為や、ベッドから乗り出すなどの転落の危険につながる行為がみられる場合には、抑制を行う。

・静かで落ち着いた環境をつくる。

・環境整備を行う。ルートが抜けたり、ルートによる転倒を防ぐ。

・ルート類が不潔にならないように整理する。

・一処置一手洗い、スタンダードプリコーションを実施する。

・段階的に飲水を行う。

・段階的に離床を行う。(初回離床は医師と行う)

・退院計画を立てる。(退院後にもセルフケアが必要な場合が有り、そのための準備をする。)

 

3)教育計画

・早期離床が術後合併症の発生率を抑えることを説明し、疼痛管理をしながら離床するように励ます。

・疼痛が強い場合には我慢せずナースコールをするように説明する。

・鎮痛剤が硬膜外チューブや静脈からの持続投与がされている場合、PCA回路がある製品のばあいは、PCAボタンを押すように促す(製品規格によって1時間あたりの流量が異なる。ロックアウト時間があるため、PCAボタンを何回押しても過量投与を避けることが出来る)

 バクスターHP参照:バクスターインフューザー | バクスタープロ (baxterpro.jp)

・チューブ・ドレーン類の取り扱いについて説明する。

・本人・家族に術後の経過を説明する。

・退院に向けた説明を行う。(退院後の生活習慣上の注意や、セルフケアの実施方法、社会保障制度の活用など)

・手洗いうがいなどの感染予防策の必要性と、実施法を説明する。

参照文献
T.ヘザー・ハードマン、上鶴重美、カミラ・タカオ・ロペス. (2021年7月1日). NANDA-I看護診断ー定義と分類 2021-2023 原書第12版. 株式会社 医学書院.

T.ヘザー・ハードマン 上鶴重美. (2016). NANDA-I 看護診断 定義と分類 2015-2017. 医学書院.
岡庭豊. (2012). 看護師・看護学生のためのレビューブック. 株式会社 メディックメデイア.
岡庭豊. (2019.3). イヤーノート2020. 株式会社メディックメディア.
黒田裕子(訳). (2015). 看護成果分類(NOC)原著第5版 成果測定のための指標・測定尺度. エルゼビア・ジャパン株式会社.
山口徹 北原光夫 福井次矢. (2012). 今日の治療指針.
山内豊明. (日付不明). フィジカルアセスメントガイドブック. 医学書院.
青柳智和. (2018). 洞察力で見抜く急変予兆~磨け!アセスメントスキル~. 株式会社ラプタープロジェクト.
大橋優美子 吉野肇一 相川直樹 菅原スミ. (2008). 看護学学習辞典(第3版). 株式会社 学習研究社(学研).

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