看護計画 領域11 安全/防御

NANDA-00100 看護計画 術後回復遅延

領域11 安全/防御 危険性や身体損傷や免疫系の損傷がないこと、損失の予防、安全と安心の保障

類2 身体損傷  身体への危害または傷害

看護診断「 術後回復遅延 」00100

看護診断: 術後回復遅延

定義:手術後に、生命、健康、安寧を維持する活動を再開するまでに必要な日数が延長している状態

 

1.術後回復遅延とは

1)「術後回復遅延」についての考えかた

術後の回復遅延を考えるときには、術後の一般的な経過を知る必要があります。一般的な経過からの逸脱があった時に、回復遅延といえます。

「術後回復遅延」は実在型看護診断なので、立案時点で実際に術後の経過が遅延している人が対象となります。

術前に逸脱しやすいハイリスクの人に対して立案する場合は「術後回復遅延リスク状態」を立案するとよいでしょう。

2)術後の一般的な経過

では、次に術後の一般的な経過について考えてみます。皆さんはムーアの分類をご存知ですか?ムーアさんはアメリカの外科医(2001年没)です。術後の生体変化を4段階でわかりやすく説明しています。下の表で示していますので参考にしてください。

✩☆彡ここでのポイント✩☆彡

ここでのポイントは、下表のムーアの分類に示されているように、どんなに健康な人でも、手術侵襲によって、下のような経過をたどるということです。

術後の日数によって、血糖が高いことや、尿の量が減少していることが必ずしも異常とは限らないということです。通常の「正常値」が正常値ではないところが重要です。

では、術後の経過で、どこまでが正常でどこからが異常となるのか…、それはこの記事には載せていませんのでご自分で調べてみてください(またはいずれ記事にするかもしれません)。

  

ムーアの分類 (Wikipedia参照)(医学書院:臨床外科看護総論参照)

3)術後に起こりやすい合併症

術後に起こりやすい合併症を表にまとめました。患者さんに以下のような症状が出ていませんか?そういった症状が遷延していたら正常な生理反応を逸脱していると言えますよね。

術後起こりやすい合併症

 

2.看護診断「術後回復遅延」の適応

定義は「手術後に、生命、健康、安寧を維持する活動を再開するまでに必要な日数が延長している状態」です。

ここまで紹介しました、術後に起こりうる合併症の頻発時期と、一般的な経過(ムーアの分類)とを併せて見ることで、この看護診断の適応が浮かんでくると思います。

クリニカルパスからの逸脱(バリアンス)

術後合併症を発症している。

離床がすすまない。(気分、疼痛、呼吸器症状、消化器症状など

 

3.目標設定

リンケージによる目標設定(NOCの後半に載っています)

 ※「リンケージ」は「NANDA」「NIC」「NOC」をつなぐ役割があります(リンクは「連結」の意味)。

 

1)リンケージ上の成果

術後回復:術直後(2305

(定義:麻酔を必要とする大手術後に生理学的な基準値(ベースライン)に対する程度)

・術後回復:回復期(2304)

(定義:麻酔後のリカバリールームから術後の最終外来受診までの間の身体的機能、精神的機能、役割機能の程度)

・退院準備:自立生活(0311)

(定義:医療施設から自立した生活に移行するための患者の準備状態)

・退院準備:生活支援(0312)

(医療施設から支援レベルの低い生活に移行するための患者の準備状態)

 

2)目標

目標は、患者さんを「主語」にします。
「看護者が○○できる」ではなく、
「患者さんが○○できるようになる」といった具合です。

・術後の経過で、疼痛、出血、痰の増加、呼吸苦など、事前に説明されているような異常をきたしたら、医療者に相談できる。

・早期離床のための意欲を示す(言葉に表出したり、離床のための取り組みに積極的に参加する)。

・効果的に痰を喀出できる。

※看護師の目標としては以下のようなものが挙げられると思います。

患者の症状や不安を緩和し、療養生活を支える。

早期離床により、合併症のリスクを減らす。

異常の早期発見に努める

術後の一時的なADLの低下に対して、療養上の世話(清潔ケアなど)を行う。

 

3.看護計画

1)観察計画 OP

まず、術中の経過の異常で術後に起こりうるリスクを予想します。そして、術後の観察項目で異常(正常経過からの逸脱)の早期発見を目指します。これらの異常が術後回復遅延(バリアンス)につながります。

〈術中経過〉

・麻酔の種類

・麻酔の時間

・術中のバイタルサインの変化

・術中に使用した薬剤の名称と量

・麻酔後の覚醒状況

・術式、手術時間

・出血量、尿量

・輸液量、輸血量、輸血の種類

・手術体位、体位固定による圧迫

・手術部位、創の大きさ、創部の状態

・摘出部位の状態

・術中イベント(予想外の事象発生)

・転移や浸潤などの予想外の患者の状態

・術操作によるもの(出血)

・麻酔や体位によるもの

・バイタルサインの異常(不整脈、血圧低下、徐脈、BISモニター異常、低体温、高体温)

・ドレーン挿入部位、挿入種類

・膀胱留置カテーテル

・硬膜外麻酔、PCA回路

・点滴挿入部位、点滴種類

〈術後回復:術直後・回復期〉

・意識レベル

・人工呼吸器管理なら設定、回路異常、加湿、実測値

・心電図やSPO2などの生体監視モニターの装着(外れや正しく装着されているか)

・呼吸数

・呼吸エア入りと呼吸音の左右差

・酸素量、投与デバイス、SPO2

・維持輸液の種類(輸液名)、投与速度、投与経路

・間欠投与の薬剤(抗生剤や肝庇護剤や胃薬など)

・持続投与の薬剤(昇圧剤、降圧剤、鎮静剤、鎮痛剤、筋弛緩薬など)

・体温

・血圧

・脈拍、不整脈、心雑音

・四肢冷感、チアノーゼ

・膀胱留置カテーテル内の尿の性状、量

・ドレーンの固定、性状、量、低圧持続吸引の設定や異常の有無(呼吸性変動やリーク)

・創部の状態、出血、創離開、感染(発赤、腫脹、発熱、疼痛、悪臭、アイテル)、創からの滲出液

・疼痛の有無と程度、フェイススケール

・腸蠕動音の有無、微弱、亢進

・腹部痛、腹部膨満

・NGチューブからの排液量、性状

・嘔気嘔吐

〈退院準備:自立生活・生活支援〉

・疾患への理解

・処方薬への理解

・合併症の危険性への理解

・社会資源の知識

 

2)行動計画 TP

・観察項目より異常が発見されたら、リーダーおよび医師へ報告を行う。急変時は、その場を離れず、スタッフコールをする。

・術後経過に伴うADL低下に対して、療養上の世話を行う。

 (体位変換、おむつ交換、陰部洗浄、清拭、排泄介助、食事介助、入浴介助、マウスケアなど)

・治療計画に沿った診療補助を行う。

 (輸液管理、ドレーン管理、疼痛管理、ガーゼ交換、人工呼吸器管理)

・肺炎予防のための、排痰ケアを行う。(スクイージング、体位ドレナージ、タッピング、ネブライザーなど)

・自己喀痰困難な場合は、吸引を実施する。

・疼痛が強い場合には、鎮痛剤を使用する(医師の指示に従う)。

・せん妄のリスクが高い場合には、事前に抑制同意書を家族より得ておく。また、ナースステーションに近い病室とする。

・せん妄により、挿管チューブやドレーンを引っ張るなどの生命の危険につながる行為や、ベッドから乗り出すなどの転落の危険につながる行為がみられるばあいには、抑制を行う。

・静かで落ち着いた環境をつくる。

・環境整備を行う。ルートが抜けたり、ルートによる転倒を防ぐ。

・ルート類が不潔にならないように整理する。

・段階的に飲水を行う。

・段階的に離床を行う。(初回離床は医師と行う)

・退院計画を立てる。(退院後にもセルフケアが必要な場合が有り、そのための準備をする。)

・社会保障制度の利用ができる疾患には、退院支援室と連携する(患者との橋渡し)。

 

3)教育計画 EP

・早期離床が術後合併症の発生率を抑えることを説明し、疼痛管理をしながら離床するように励ます。

・疼痛が強い場合には我慢せずナースコールをするように説明する。

・鎮痛剤が硬膜外チューブや静脈からの持続投与がされている場合、PCA回路がある製品のばあいは、PCAボタンを押すように促す(製品規格によって1時間あたりの流量が異なる。ロックアウト時間があるため、PCAボタンを何回押しても過量投与を避けることが出来る)

 バクスターHP参照:バクスターインフューザー | バクスタープロ (baxterpro.jp)

・チューブ・ドレーン類の取り扱いについて説明する。

・本人・家族に術後の経過を説明する。

・退院に向けた説明を行う。(退院後の生活習慣上の注意や、セルフケアの実施方法、社会保障制度の活用など)

 

参照文献

T.ヘザー・ハードマン、上鶴重美、カミラ・タカオ・ロペス. (2021年7月1日). NANDA-I看護診断ー定義と分類 2021-2023 原書第12版. 株式会社 医学書院.
T.ヘザー・ハードマン 上鶴重美. (2016). NANDA-I 看護診断 定義と分類 2015-2017. 医学書院.
岡庭豊. (2012). 看護師・看護学生のためのレビューブック. 株式会社 メディックメデイア.
岡庭豊. (2019.3). イヤーノート2020. 株式会社メディックメディア.
黒田裕子(訳). (2015). 看護成果分類(NOC)原著第5版 成果測定のための指標・測定尺度. エルゼビア・ジャパン株式会社.
山口徹 北原光夫 福井次矢. (2012). 今日の治療指針.
山内豊明. (日付不明). フィジカルアセスメントガイドブック. 医学書院.
青柳智和. (2018). 洞察力で見抜く急変予兆~磨け!アセスメントスキル~. 株式会社ラプタープロジェクト.
大橋優美子 吉野肇一 相川直樹 菅原スミ. (2008). 看護学学習辞典(第3版). 株式会社 学習研究社(学研).

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florence.no.tomoshibi@gmail.com

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