領域4 活動/休息
エネルギー資源の産生、保存、消費、またはバランス
類2 活動/運動 身体の一部を動かすこと(可動性)、働くこと、またはしばしば(常にではなく)抵抗に対して行動すること

00090 移乗能力障害


看護診断:移乗能力障害
定義:隣接する面から面への、自力移動に限界のある状態

隣接する面と面とは、、、、①②の両方の場合を含んでいます。
①「ベッドから車椅子」「ベッドからストレッチャー」「車椅子から便器」などの同じ高さの面の間での移動
②「シャワーチェアから浴槽」「車椅子から床」など、高さの異なる面への移動

補足:類似の看護診断について

体位変換や移乗に関する看護診断では、状態に合わせて以下のように選択してみてください。

1. 何らかの原因でADLの低下をきたしている場合:身体可動性障害

看護診断:身体可動性障害
定義:自力での意図的な身体運動や四肢運動に限界のある状態

2.ベッド上での体位変換ができない場合:床上可動性障害

看護診断:床上可動性障害

3.面から面への移動が困難な場合:ベッド⇔車椅子、ベッド⇔ストレッチャーなど:移乗能力障害

看護診断:移乗能力障害
定義:隣接する面から面への自力移動に限界のある状態

  

 

1.移乗能力障害の適応

定義上では「自力移動に限界のある」とあるので、介助を要しないと移乗できない状態が適応と考えます。
・認知機能低下(長谷川式20点以下、MMSE21点以下で認知症疑い)……移動動作が理解できない
・筋力不足(フレイル、サルコペニア、ロコモティブシンドローム)
・筋骨格系の障害
・骨折
・脊柱管狭窄症
・腰椎圧迫骨折
・変形性質関節症、変形性股関節症
・麻痺(片麻痺、不全麻痺など)
・神経筋障害(脳・脊髄および末梢神経など、あるいは筋肉自体の病変によって運動に障害を来す疾患)
・パーキンソン病
・脊髄小脳変性症
・筋萎縮性側索硬化症
・ギラン・バレー症候群
・筋ジストロフィー
・バランス障害:麻痺、めまい
・末梢神経障害をきたす疾患
・糖尿病性神経障害
・全身性エリトマトーデス
・めまいをきたす疾患(耳):メニエール病、突発性難聴、内耳炎、外リンパ瘻
・めまいをきたす疾患(脳):小脳梗塞、小脳出血、脳幹梗塞、脳幹出血、一過性脳虚血発作、聴神経腫瘍
・その他のめまいの原因:貧血、不整脈
・肥満
・栄養障害、るい痩
・視力障害
・生活環境(ベッドの高さ・広さ、布団、治療器具、車椅子の種類)
・自助用品(手すり、補助バーなど)
・疼痛

 

2.目標設定


リンケージによる目標設定(NOCの後半に載っています)
※「リンケージ」は「NANDA」「NIC」「NOC」をつなぐ役割があります(リンクは「連結」の意味)。

1)リンケージ上の成果

・移乗(0210)
(定義:自立して体位を変える能力(補助具を使用・不使用)
・体位変換:自力(0203)
(定義:補助具の使用の有無にかかわらず体位を変換する動作)
・安楽の状況:環境(2009
(定義:周囲の環境についての安心、安楽、安全)
・神経学的状態:脊髄神経系感覚/運動機能(0914)
(定義:感覚刺激と運動刺激を伝達する脊髄神経の機能)
・身体バランス(0202)
(定義:補助具の使用にかかわりなく、自身の環境内で目的に適った動きがひとりでできること)
・認知(0900)
(定義:複雑な精神的プロセスを実行する能力)
・疼痛のレベル(2102)
(定義:観察または報告された疼痛の重症度)

 

)目標

目標は、患者さんを「主語」にします。
「看護者が○○できる」ではなく、
「患者さんが○○できるようになる」といった具合です。

・生活リハビリを取り入れ、筋力維持を図ることができる。

・自身の障害に適した椅子や車いす、福祉用具を選択することができる。

・安全に移乗できる環境を整えることができる。

※看護師の目標としては以下のようなものが挙げられると思います。

・安全安楽に移乗ができる。
・自力での移乗を安全に遂行するための環境を整備する。(残存機能の活用)
・生活リハビリの概念を取り入れ、活動範囲の維持を図る。(ADLの維持)

3.看護計画

1)観察計画《OP》

・バイタルサイン
・意識レベル
・認知障害(長谷川式20点以下、MMSE21点以下)
・疾患と疾患の病期
・要介護度
・安静度(ベッド上、室内フリー、病棟フリー、院内フリーなど)
・鎮静剤使用の有無
・麻痺の有無、部位
・安静時:疼痛の有無、範囲、部位、疼痛スケール
・体動時:疼痛の有無、範囲、部位、疼痛スケール
・疼痛時の鎮痛剤使用の有無
・活動による身体症状の出現(動悸、呼吸苦など)
・MMT(徒手筋力テスト)
・関節可動域
・自助具の使用
・車椅子への移乗能力(立位困難、移乗困難、全介助、一部介助、見守り)
・歩行状態(小刻み歩行、すり足歩行、突進歩行、小股歩行、痙性歩行、引きずり歩行)
歩行可能距離
・立位時の姿勢(パーキンソン病の独特の姿勢、円背)
・間欠性跛行(少し歩くと足が痛くなり歩けなくなるが、少し休むと、また歩けるようになる)
・自力で可能な関節可動域の範囲(どこまで出来て、どこから介助が必要か)
・認知症高齢者の日常生活自立度(★1
・障害高齢者の日常生活自立度(★2
・「指輪っか」テスト:利き足でないほうのふくらはぎを1.2指で作った輪で囲み、指先がついたり重なったりするとサルコペニアの可能性が高いというもの。簡易指標)
・活動範囲(ベッド周囲のみ、室内のみなど)
・肥満、BMI=25以上
・同居家族の有無、介護力、介助や見守りをする余裕があるか
・意欲、活気
・消極的言動、無気力、不安
・睡眠と活動のバランス、睡眠不足
・清潔への意識(不潔となっていないか)
・食欲、食事量、水分摂取量、エネルギー不足
・皮膚状態、褥瘡の有無
・呼吸機能(SPO2、呼吸数、呼吸苦、息切れ)咳嗽
・室内環境
・整理整頓されているか、移動範囲にモノが置かれていないか
・補助具は適切に配置されているか(柵、介助バー、ポータブルトイレ、手すりなど)
・衣服(動きやすいものか)、おむつ(テープタイプではなくリハビリパンツになっているか)
・はきもの(移乗時に安全に立位を維持できる履物を選択しているか)
・ADL、IADL
・活動の能力:自力で体位をどのように変えているか(仰臥位から側臥位、臥位から座位、座位から立位)
・活動の能力:自力体位変換時、補助具を安全に使用できているか、設置場所は正しいか
・活動の能力:臥床したまま、平面から別の平面へ(ベッドから車椅子、車椅子から便器)移動できるか
・活動の能力:平面から高さの異なる平面へ移動できるか(シャワーチェアから浴槽など)


(★1)認知症高齢者日常生活自立度

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000077382.pdf

(★2)障害高齢者の日常生活自立度

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000077382.pdf

 

2)行動計画《TP》

・安全・安楽・自立に視点を置いて環境整備をする。
・自身でできることは自分で行ってもらう。そのための見極め(なにがどこまでできるのか)をし、他のスタッフへも申し送り、誰もが同じ介入をする。
・できないことの手助けをする。全部は手伝わない。
・移乗動作、立位姿勢を日々アセスメントしながら介助する。
・適切な自助具を使用する。柵、バー、手すり、スライディングボードなど。
・リハビリ職とも連携し、リハビリでの実施内容、進行状況、生活上の注意などの情報を共有し、療養生活に組み込む。
・活動しやすい衣服や履物を選択する。
・気分の落ち込みや、抑うつによる体動の現象がある場合には、季節の催しや売店への買い物、散歩など、気分転換しながら活動が行えるような介入を行う。
・急性期から早期離床に取り組む。寝たきりにならないように早期介入をする。
・関節可動域訓練、歩行訓練など筋力や関節可動域保持のための介入を行う。
・ベッド上でもできるROM訓練を取り入れる。
・日中はトイレまで移動する、食事の際は車椅子に移るなど、生活範囲の拡大につながるように声掛けをする。
・デイルームなどの皆が集まれるスペースがある場合には、食事の際やその他の時間に、お連れして、お互いにコミュニケーションをとってもらうように計らう。(刺激を与える)
・疼痛などにより活動が制限されている場合には、医師に鎮痛剤の指示をもらい、鎮痛剤の投与をする。
・肥満による体動困難がある場合には、間食の制限など、治療の計画に沿って介入を行う。
・患者や家族の話を傾聴し、不安や困っていることを傾聴する。またその中で介入が必要な事柄があれば、スタッフ間で話し合って、解決策を提示する。
・日中活動し、夜間睡眠がとれるようにバランスを整える。朝の日光を取り入れる。
・体交時には、麻痺側を巻き込んだり、下になったままにならないよう気をつける。
・食事量の低下が見られる場合には、口腔内の様子・腹部症状・食形態・嚥下機能などを評価し、食事量が増えるように調整する。食形態の変更、歯科の介入、補助食品の追加など。
・活動による呼吸苦や動悸などの身体症状が出る場合には、途中で休息ができるような工夫を取り入れる。時々パルスオキシメーターを装着して客観的な評価も取り入れた介助をする。

 

3)教育計画《EP》

・急性期の早期離床の効果を説明する。
・長期臥床による寝たきりへのリスクを説明する。
・自宅での療養環境を聞き取りし、自宅で安全に生活するための環境に必要な整備を本人やご家族と考える。また、福祉用具の導入などではケアマネジャーとの連携も行っていく。
・受傷による後遺症で麻痺が残った場合には、麻痺側の扱い(脱臼、血流障害)について説明する。
・車椅子に移乗するときには、麻痺側を体幹の内側に入れてから移乗する。
・体位変換時は、麻痺側を下にする時間は短時間とする。
・体位変換時や移乗時は、麻痺の腕の位置に注意し、脱臼しないように注意する。
・痛みを感じないので、怪我などにも注意する。
・在宅では、朝起きたら更衣をし、暮らしのメリハリをつけることのメリットをお話する。
・デイケア、デイサービスなどの利用ができるよう、ソーシャルワーカーへ橋渡しをする。
・介護者の介護負担軽減(訪問サービスやレスパイト)のためのサービス利用ができるよう、ソーシャルワーカーと連携する。
・疼痛があるときには我慢せず、ナースコールを押すように説明する。
・介助が必要な場合には、遠慮せず、ナースコールを押すように説明する。
・内服薬は用法用量を守って内服するように、本人と介護者に説明する。飲み忘れしないような工夫も一緒に考えていく。
・食事にタンパク質を取り入れると筋肉量が維持されてサルコペニアの予防にもつながることを説明する。
・ご家族の不安を傾聴し、複数のスタッフと情報共有し、最善のアドバイスをする。また必要時は、連携機関への橋渡しをする。(これからの経過や急変時、生活面、介護や技術面、生活の変化に対する不安、金銭面、精神面など不安のもととなっていることを聞き出す)

 

参考文献

T.ヘザー・ハードマン 上鶴重美. (2016). NANDA-I 看護診断 定義と分類 2015-2017. 医学書院.
岡庭豊. (2012). 看護師・看護学生のためのレビューブック. 株式会社 メディックメデイア.
黒田裕子(訳). (2015). 看護成果分類(NOC)原著第5版 成果測定のための指標・測定尺度. エルゼビア・ジャパン株式会社.
山口徹 北原光夫 福井次矢. (2012). 今日の治療指針.
大橋優美子 吉野肇一 相川直樹 菅原スミ. (2008). 看護学学習辞典(第3版). 株式会社 学習研究社(学研).
武田宣子. (2010 第5版). 系統看護学講座 別巻 リハビリテーション看護. 医学書院.

 

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投稿者 FlorenceMYM

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