
NANDA-00096 看護計画 睡眠剥奪
領域4 活動/休息 エネルギー資源の産生、保存、消費、またはバランス
類1 睡眠/休息 眠り、休養、安静、くつろぎ、不活動状態
00096 睡眠剥奪
看護診断:睡眠剥奪
定義:眠り(持続的で自然で周期的な相対的意識の停止)が長時間ない状態
2021年版では少し定義が変更になっています。
定義:休息をもたらす、持続的・自然的・周期的・相対的な意識の休止が、長時間ない状態
定義の「眠り(持続的で自然で周期的な相対的意識の停止)が長時間ない状態」というのはイマイチよくわかりませんね。睡眠剥奪というくらいですから、内的や外的な要因によって睡眠が奪われる、または睡眠が中断すると言い換えることができると思います。
看護診断「不眠」と似ているように感じますが、関連因子を見ると違いが分かります。
「不眠」では睡眠環境や生活習慣などが関連因子として挙がっているのに対し、「睡眠剥奪」では自分ではどうすることもできない「疾患」「介護育児」「加齢」が関連因子に挙げられています。
次に「不眠」と「睡眠剥奪」の関連因子を挙げていますので比較してみてください。
1.「不眠」と「睡眠剥奪」の関連因子比較
1)「不眠」の関連因子
・飲酒
・不安
・一日の平均的な活動量が性別や年齢別の推奨レベル以下
・抑うつ
・環境障壁(周辺雑音・日光/暗闇に体をさらすこと・大気温度・湿度・慣れない環境)
・恐怖
・頻回の昼寝
・悲嘆
・ホルモンの変化
・睡眠衛生が不十分
・薬剤
・身体的不快感
・ストレッサー
2)「睡眠剥奪」の関連因子
・加齢に伴う睡眠段階の変化
・1日の平均的な身体活動量が性別・年齢別の推奨レベル以下
・周期的に四肢が動く疾患(レストレッグ症候群、夜間ミオクローヌス)
・認知症
・環境障壁・家族性の睡眠麻痺(金縛り)
・特発性中枢神経性過眠症
・ナルコレプシー
・悪夢
・体力の回復しない睡眠パターン(介護責任、親業、一緒に寝る人に起因する=面倒を見る必要があり眠れない)
・刺激の多過ぎる環境
・長期にわたる不快感
・睡眠時無呼吸
・睡眠時驚愕症(★1)
・睡眠時遊行症(★2)
・睡眠に関連した夜尿症
・睡眠関連疼痛性陰茎勃起(★3)
・日没症候群(★4)
・サーカディアンリズムの非同期化の持続(連続的な夜勤など)
・不適切な睡眠衛生の持続
・不適切な睡眠衛生の持続
・治療計画
★1 睡眠時驚愕症(夜驚症)wikipedia参照
睡眠中に恐怖の表情を浮かべて、突然泣き叫ぶが、他者からの呼びかけに反応しない。覚醒後も夜間に叫んだことを覚えていない。ときには起き上がったりパニックとなるなどの激しい症状が出ることがある。
小学校低学年に多く現れ、睡眠中枢の未熟(深いノンレム睡眠の途中で覚醒してしまう)から発生する現象といわれている。成長に伴い改善する場合が多い。
てんかんとの鑑別が必要。てんかんでなければ、夜驚症の対策として、症状が起こったときに怪我をしないように安全な睡眠環境を整備することが大切である。
★2 睡眠時遊行症(夢遊病、夢中遊行症)wikipedia参照
睡眠中にもかかわらず体動が出現しぼんやりと歩き回る症状。
無意識の状態で起きだし、歩いたり何かをした後に再び就眠するが、その間の出来事を記憶していない状態を指す。その時間は、30秒から30分までの長さになり得る。夜驚症を合併することがある。小児期・学童期に多い病気である。
原因としては、興奮状態のまま眠りに就いてしまうことや、精神のストレスによるものが多いとされている。また、特に原因が見当たらず慢性的で難治性の場合もある。疲れていたり、昼間に猛烈なストレスを体験した場合に多くみられる。また、ぐっすり寝込んでいる子どもを、何らかの理由で無理やり起こした場合にみられることがある。
薬物原因としては、クロルプロマジン(ソラジン)、ペルフェナジン、リチウム塩、トリアゾラム(ハルシオン)、アミトリプチリン、ゾルピデム、クエチアピン(セロクエル)と交感神経β受容体遮断薬などがある
★3 睡眠関連疼痛性陰茎勃起 ナショナルジオグラフィック日本版サイト(文:三島和夫) 参照
http://第109回 「朝立ち」の科学 | ナショナルジオグラフィック日本版サイト (nikkeibp.co.jp)
レム睡眠に入ると自律神経の影響で陰茎の動脈が拡張して勃起が起こる。同時に静脈が圧迫され、仙骨神経が活性化することで勃起は持続する。(レム睡眠中は心因性EDの人でも勃起するらしいです。気になる人は上記記事を読んでみてください)
この症状が強く現れて陰茎に痛みを生じ、睡眠障害をきたしているものを睡眠関連疼痛性陰茎勃起という。治療は上記のURLより記事を参照してください。
★4 日没症候群(夕暮れ症候群) ナショナルジオグラフィック日本版サイト(文:三島和夫) 参照
http://第101回 睡眠と認知症と「夕暮れ症候群」 | ナショナルジオグラフィック日本版サイト (nikkeibp.co.jp)
夕方近くになると落ち着きがなくなり、徘徊や独語などの症状が見られるようになる症候群のこと。入院中の患者が夕方近くに「そろそろ帰ります」といって落ち着きがなくなるといった現象を多くの医療福祉関係者が経験しているでしょう。認知症高齢者の10%以上で見られると言われています。
2.睡眠周期
ナショナルジオグラフィック日本版サイト(文:三島和夫) 参照
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/web/15/403964/121100105/?P=2
最初のレム睡眠は寝ついてから1〜2時間ほどで出現し、以後平均して約90分周期で一晩に4~5回出現する。レム睡眠は睡眠時間全体の20〜25%を占める。7時間睡眠であれば1晩に80~100分ほどのレム睡眠が出現する。1回あたりのレム睡眠は平均で20分ほどだが、体内時計の指令で明け方になるにしたがって長くなり、最後のレム睡眠は1時間以上も続くこともある。
1)レム睡眠
急速な眼球運動を伴い抗重力筋の緊張が消失して身体が無動化するため、身体の睡眠と言われる。
妨害されると身体の不全感や集中力がかけるため、日中の活動への影響が大きい。睡眠の後半期に多く現れ、全体の25%である。
2)ノンレム睡眠
エネルギー保存の役割を担うとされ、脳の睡眠といわれる。4段階に分けられる。
段階1は、入眠時のウトウト状態、段階2は僅かな刺激で目を覚ます浅い眠り、段階3と4は脳波上の振幅の差はあるものの一括して深い眠りで徐波睡眠と呼ばれる熟眠状態を指す。この徐波睡眠は前半に多く見られる傾向がある。

3)睡眠周期から分かることと、理想的な睡眠時間について
睡眠の前半では脳の休息であるノンレム睡眠の徐波睡眠が多く見られるのに対し、睡眠の後半では身体の急速であるレム睡眠が多く見られる。よって、脳と身体の両方の休息を得るためには、まとまった睡眠を取る必要があると言える。
では理想的な睡眠時間とは何時間でしょうか?
大塚製薬 睡眠リズムラボの記事を参照し考えてみます。
https://www.otsuka.co.jp/suimin/column02.html
最適な睡眠時間は8時間と言われていましたが、米国の睡眠時間と死亡リスクの関係をみた大規模調査(110万人対象)では、睡眠時間7時間の人が男女ともに最も長生きしているという調査結果がでました。
短い睡眠では生活習慣病のリスクが高まるという研究結果も発表されていますが、反対に長い睡眠でも死亡リスクがあるという結果も出ています。
これは米国での結果ですから、日本人でも同じように当てはまるとも限りません。
睡眠障害の対応と治療ガイドラインでは、「睡眠時間は人それぞれ、日中の眠気で困らなければ十分」と示されていますので、日中の生活に支障が出ない睡眠時間がその人に取って適切な睡眠時間と言えそうです。
さらに、睡眠の質は加齢とともに変化しています。
加齢とともに睡眠時間は短くなり、眠りも浅くなります。
結論としては、脳と身体の両方の休息のためにはある程度のまとまった睡眠が必要だが、ひとそれぞれ理想的な睡眠時間は異なり、日中に眠気で困らない程度の睡眠が理想と言える。
3.看護診断「睡眠剥奪」の適応
・加齢に伴う睡眠段階の変化
・1日の平均的な身体活動量が性別・年齢別の推奨レベル以下
・周期的に四肢が動く疾患
・レストレッグ症候群(じっとしていると足がむずむずする女性に多い原因不明の症候群。眠れない場合は
睡眠導入剤を使用)
・夜間ミオクローヌス(睡眠中に不随意で起こる四肢の収縮やビクつき。代謝障害が原因となることがある。
目を覚ましてしまい睡眠が妨げられる場合には、バルプロ酸などの抗けいれん薬が投与されることがある)
・認知症(長谷川式20点以下、MMSE21点以下)
・環境障壁・家族性の睡眠麻痺(金縛り)
・特発性中枢神経性過眠症
・ナルコレプシー
・悪夢
・体力の回復しない睡眠パターン(介護責任、親業、一緒に寝る人に起因する=面倒を見る必要があり眠れない)
・日中の活動に影響が出ている
・日中の集中力低下
・幻覚
・情緒不安定(イライラ、興奮、混乱、不安、無関心)
・手の震え、知覚障害
・眠気、嗜眠
・倦怠感、消耗性疲労
・刺激の多過ぎる環境
・睡眠時無呼吸
・睡眠時驚愕症(★1)
・睡眠時遊行症(★2)
・睡眠に関連した夜尿症
・睡眠関連疼痛性陰茎勃起(★3)
・日没症候群(★4)
・サーカディアンリズムの非同期化の持続(連続的な夜勤など)
・不適切な睡眠衛生の持続
・治療計画(手術、安静、ICUでの管理など)
4.目標設定
リンケージによる目標設定(NOCの後半に載っています)
※「リンケージ」は「NANDA」「NIC」「NOC」をつなぐ役割があります(リンクは「連結」の意味)。
1)リンケージ上の成果
・睡眠(0004)
(定義:身体の回復を伴う自然で周期的な意識の停止)
・情緒の安定(1204)
(定義:状況に対する反応として、普段の情緒の調子が適切に調整されていること)
・集中力(0905)
(定義:特定の刺激に対して集中する能力)
・消耗性疲労のレベル(0007)
(定義:観察もしくは報告された、長引く一般的な疲労の重症度)
2)目標
目標は、患者さんを「主語」にします。
「看護者が○○できる」ではなく、
「患者さんが○○できるようになる」といった具合です。
・睡眠障害をきたしている原因を述べ、できる限り取り除くことができる。
・日常生活を見直し、活動と休息のリズムを整えることができる。
5.看護計画
1)観察計画《OP》
・高齢者(眠りが浅く睡眠時間短い)、若年者(夢遊病、夜驚症の可能性)
・認知機能低下
・睡眠時間
・就寝時間
・睡眠パターン
・熟眠感
・夜間排尿回数
・睡眠中の無呼吸、いびき
・悪夢
・睡眠中の無意識の覚醒、叫び、徘徊(夜驚症、夢遊病)
・手足のむずむず感(レストレッグ)
・睡眠中のビクつきにより目が覚める
・疼痛、呼吸苦などの身体状況
・環境(光、音、室温、湿度)
・環境の変化
・使用している寝具(マットの硬さ、枕の高さ・材質)
・体型(円背、やせ、肥満)
・睡眠導入剤の使用、効果
・睡眠障害をきたす薬剤の内服の有無
・精神疾患(抑うつ、不安)
・意識障害(せん妄)
・ストレッサー
・脳波
・日中の強い眠気
・活動への意欲・日中の集中力低下
・幻覚
・情緒不安定(イライラ、興奮、混乱、不安、無関心、泣く)
・手の震え、知覚障害
・眠気、嗜眠
・食欲低下
・倦怠感、消耗性疲労
・疼痛、睡眠関連疼痛性陰茎勃起
・頻尿、多尿
・呼吸苦、胸痛
・介護状況(自宅で介護している)
・育児状況(一人で育児をしている、双子などの多くの乳幼児を一人で育児している)
・被介護者への虐待
・乳幼児への虐待
2)行動計画《TP》
・原因が特定されている場合(夜驚症、夢遊病、レストレッグ、夜間ミオクローヌス、夜尿症、睡眠関連疼痛性陰茎勃起、日没症候群など)の治療計画に沿って、服薬介助や環境整備を行う。
・環境整備をする。(静かな暗い環境、寝具の中の温度は33℃前後、湿度50%前後)
・よく眠れる寝具を選択してもらう(吸湿・放湿性がよく、保温性のよいもの)(マットレスは適度に硬く、体が沈みこみすぎないもの)
・日中の短時間の昼寝(成人15分程度、高齢者30分程度)
・起床時にカーテンを開けて、日光を取り入れる(サーカディアンリズムの調整)
・睡眠2~3時間前の入浴(体を温めると寝つきやすくなり、且つ深い眠りも得られる)
・日中に歩行訓練など運動を取り入れる(運動で体を温めると寝つきやすくなり、且つ深い眠りも得られる。ただし、寝る直前の激しい運動は体が興奮してかえって眠れなくなり逆効果。
・睡眠導入薬の内服を介助する。
・ベンゾジアゼピン系の内服などの副作用を観察する。(特にせん妄、転倒、呼吸抑制)
・足浴や入浴など体の温まるケアを行う。
・不安を傾聴しストレス緩和につなげる。
・マッサージなどのリラクゼーションを行う。
・身体的要因(痛み、低酸素、頻尿、多尿)などが睡眠を傷害している場合には、医師へ報告し、原因への介入をしてもらう。
・痛みがあり、屯用での鎮痛剤使用の指示があれば、鎮痛薬を使用する。
・睡眠時無呼吸症候群でNPPV装着の場合には装着介助や、装着中の観察を行う。
・育児負担がある場合には、休息のための介入をしてもらう(市町村の窓口に相談。市町村
によってサービスの名前や内容が異なるので、まずは相談をする)。
・介護負担がある場合には、ソーシャルワーカーやケアマネジャーや市町村の福祉課へ相談する。レスパイトのための計画を立ててもらう。
3)教育計画《EP》
・原因が特定されている場合(夜驚症、夢遊病、レストレッグ、夜間ミオクローヌス、夜尿症、睡眠関連疼痛性陰茎勃起、日没症候群、睡眠時無呼吸症候群など)の治療の効果を教えてもらう。よく眠れるようになった、中途覚醒がなくなった、日中の眠気がおさまったなど。
・就寝環境を整えるよう勧める。(静かな暗い環境、寝具の中の温度は33℃前後、湿度50%前後)
・起床時にカーテンを開けて、日光を取り入れる(サーカディアンリズムの調整)よう勧める。
・睡眠2~3時間前の入浴(体を温めると寝つきやすくなり、且つ深い眠りも得られる)ように勧める。
・睡眠導入剤を自己管理している場合には、医師の処方上の用法と容量を守るよう説明する。
・疼痛など、睡眠中の覚醒につながる因子があれば、申し出るように伝える。
・頻尿で覚醒が多い場合には、申し出るように伝え、そうだった場合には夜間尿回数を医師へ報告する。
・質の良い睡眠の効果について説明する。
・睡眠前に脳への刺激となるスマホの使用は避けるよう説明する。
・育児に追われ、精神的にも肉体的にも疲労してしまう前に、一人で抱え込まないように相談するように説明する。必要時はソーシャルワーカーに引き継ぎ対策を取ってもらう。
・介護負担で精神的にも肉体的にも疲労してしまう前に、一人で抱え込まないように相談するように説明する。必要時はソーシャルワーカーに引き継ぎ対策を取ってもらう。
参考文献:
T.ヘザー・ハードマン 上鶴重美. (2016). NANDA-I 看護診断 定義と分類 2015-2017. 医学書院.
恒藤暁 内布敦子. (2010). 系統看護学講座 緩和ケア. 株式会社 医学書院.
黒田裕子(訳). (2015). 看護成果分類(NOC)原著第5版 成果測定のための指標・測定尺度. エルゼビア・ジャパン株式会社.
岡庭豊. (2012). 看護師・看護学生のためのレビューブック. 株式会社 メディックメデイア.
恒藤暁 内布敦子. (2010). 系統看護学講座 緩和ケア. 株式会社 医学書院.
大橋優美子 吉野肇一 相川直樹 菅原スミ. (2008). 看護学学習辞典(第3版). 株式会社 学習研究社(学研).
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。ご意見ご感想ご質問がありましたら下のコメント欄よりお待ちしております(゚▽゚)
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