
NANDA-00299 看護計画 活動耐性低下リスク状態
領域4 活動/休息
エネルギー資源の産生、保存、消費、またはバランス
類4 心血管/肺反応: 活動/休息を支える循環―呼吸のメカニズム
→類2 活動/休息: 体の一部を動かすこと(可動性)、仕事をすること、または大抵(つねにではなく)負荷に対して行動すること
※NANDA2021年版では類4から類2へカテゴリー移動しています。
目次
看護診断:活動耐性低下リスク状態(00299)
定義:必要な日常活動または望ましい日常活動を持続や遂行するための、生理的あるいは心理的エネルギーが不足しやすく、健康を損なう恐れのある状態
看護診断「活動耐性低下」は実在型であるため、実際に「活動耐性の低下」が見られる状態です。
それとくらべ、看護診断「活動耐性低下リスク状態」は、「実在型」でなく「リスク型」であるため、「活動耐性低下」に陥る可能性のある状態(そうなるリスクがある状態)を表しています。
1.「活動耐性低下リスク状態」の適応
この看護診断は「活動耐性低下」の実在型診断ではなく、「活動耐性低下リスク状態」のリスク型診断です。
以下の1)2)の理由により活動へのエネルギーが不足している状態です。看護診断「消耗性疲労」と異なり、「活動耐性低下」では、「活動する必要があるけれど、活動できない人」が対象となっていると思います。ですから、活動する必要のない人(終末期で緩和ケアが中心となっている人、急性期で状態変化が激しく活動よりも治療を優先する必要がある人)は該当しないものと考えて立案していきます。
1)活動で心身に変化が出る⇒現に活動時に正常を逸脱する
・活動時のバイタルサインの変化
・活動時の血圧変化
・活動時の頻拍、頻脈、動悸、胸部不快、胸痛
・活動時のSPO2低下、呼吸困難
・活動による心電図の変化
2)消耗性疲労⇒慢性的なエネルギー不足
(1)身体的疾患による消耗
※エネルギーが上手に使えなくなる疾患、エネルギーの消費が多くなる疾患、エネルギーの摂取が困難となる状態が該当します。
・慢性疲労症候群:
厚生労働省「慢性疲労症候群について」資料参照
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000yi7y-att/2r9852000000yihm.pdf
・悪性腫瘍:
・腫瘍による症状:発熱、閉塞症状、神経症状など
・抗癌剤による症状:食欲低下・口内炎、意欲低下、発熱、下痢、そのた副作用
・抗癌剤による免疫機能の低下、貧血、出血傾向
・手術、術後の経過
・放射線療法による副作用:宿酔、倦怠感、食欲低下、腹部照射では下痢など
・呼吸器疾患:
酸素の取り込み不良、労作による身体症状の出現(呼吸苦、動悸、SPO2低下)
・感染症:
・感染による症状:発熱、咳嗽、下痢、嘔吐
・治療による副作用
・代謝性疾患:糖尿病(エネルギー不足による体重減少)
・甲状腺機能亢進症(代謝亢進・動悸不整脈・発汗)
・貧血、出血
・認知症:食事に対する意欲が低下する→栄養障害
・嚥下機能障害:脳血管疾患後遺症、麻痺、神経筋疾患→栄養障害
(2)精神的疾患に起因する身体的消耗
・不安障害、恐怖症、パニック障害:不安から緊張が続きリラックスできない。予定が近づくと緊張が続く。人前に出るのが怖い。それらの理由から、動悸、頭痛、めまい、下痢、頻尿、便秘、嘔気嘔吐などの身体症状きたす
・抑うつ
(3)加齢による消耗
加齢により食欲が低下し、嗜好も変化し、運動量も低下し、筋肉量が低下し疲れやすくなります。
・食欲低下
・嚥下機能低下
・筋力低下、筋肉量低下
・易疲労
(4)心身のバランスを崩した状態からの消耗
・勤務形態:長時間労働、夜間勤務
・緊張、慎重さを要する職業:警察、消防、医師、看護師、教師、管理職、クレーム対応、など
・睡眠不足:育児、多胎育児、介護、いびきのうるさい人との同室(眠れない)、夜間頻尿
・環境変化:結婚、同居、入院
・災害、事故、喪失など、想定外の事柄への直面
消耗性疲労については下記記事も参照してみてください。
3.目標設定
リンケージによる目標設定(NOCの後半に載っています)
※「リンケージ」は「NANDA」「NIC」「NOC」をつなぐ役割があります(リンクは「連結」の意味)。
1)リンケージ上の成果
・バイタルサイン(0802)
(定義:体温、脈拍、呼吸、血圧が正常範囲にある程度)
・活動耐性(0005)
(定義:エネルギー消費を伴う日常生活活動における運動に対する生理的反応)
・耐久力(0001)
(定義:活動を持続する能力)
・消耗性疲労:効果の障害(0008)
(定義:日常的機能についての慢性的疲労の効果に関する障害もしくは阻害の重症度)
・消耗性疲労のレベル(0007)
(定義:観察もしくは報告された、長引く一般的な疲労の重症度)
・個人の健康状態(2006)
(定義:18歳以上の成人の身体的、心理的、社会的、霊的な全般的健康状態)
・個人の安寧状態(2002)
(定義:個人の現在の健康状態に対する肯定的な認識の程度)
・体力(2004)
(定義:身体的活動を活発に行う能力)
2)目標
目標は、患者さんを「主語」にします。
「看護者が○○できる」ではなく、
「患者さんが○○できるようになる」といった具合です。
・エネルギー不足となる原因を、除去あるいは緩和し、活動に備えられるように援助する。
・自助具を利用し、生活リハビリで筋力を維持し、ADLを保つことができる。
・入院中:疾患による消耗性疲労には、症状が出たら医療者に相談ができる。
・在宅:疾患による消耗性疲労には、症状に合わせて医師から処方されている方法で症状を緩和することができる。
・在宅:疾患による消耗性疲労には、症状の増悪や異変があるときには病院受診ができる。
・不安障害、パニック障害、PTSDなどの精神的な要因がある場合は、治療計画に沿って社会参加や治療に参加できる。
・嚥下障害にあわせた食事を準備し、活動に必要な食事を摂取できる。
※看護師の目標としては以下のようなものが挙げられると思います。
・エネルギー不足となる原因を、除去あるいは緩和し、活動に備えられるように援助する。
・自助具を利用し、生活リハビリで筋力を保持しながら、ADLの維持向上を目指す。
・疾患による消耗性疲労には、症状に合わせて症状の緩和のためのケアを取り入れつつ、ADLの維持を図る。
・疾患による消耗性疲労には、疾患の増悪や急変も想定し、観察を行い、異常の早期発見に備える。
・不安障害、パニック障害、PTSDなどの精神的な要因がある場合には、関係職と連携し、不快症状や不安の緩和に努める。精神的に安定している時には、活動をしていけるように促す。
・嚥下機能障害による摂食量減少には、原因に合わせて介入し、食事量の増加を図る。
4.看護計画
1)観察計画《OP》
・年齢(高齢者、小児)で予備力が少なく、変化に対応しにくい
・バイタルサイン:安静時と活動時の変化、正常値からの逸脱
・血圧、脈、呼吸数、呼吸の深度、SPO2
・心電図:安静時と活動時の変化
・酸素吸入量、安静時と活動時の酸素吸入量
・活動による身体症状の出現(動悸、呼吸苦、チアノーゼなど)→活動を控える→筋力低下
・意識レベル:嗜眠
・体力低下、倦怠感
・ADL、IADLの低下、活動範囲の縮小、寝たきり
・要介護度
・日中の活動量、活動と休息のバランス
・認知障害(長谷川式20点以下、MMSE21点以下)→意欲低下や食欲低下、集中力低下の原因が認知症ではないか
・認知症高齢者日常生活自立度(★1)
・障害高齢者の日常生活自立度(★2)
・栄養状態(血液データ、活気、顔色、ツルゴール反応)
・食欲、食事量、水分摂取量、エネルギー不足
・皮膚状態、褥瘡の有無→栄養状態の悪化や脱水が見られないか
・麻痺の有無、嚥下機能障害→食欲低下からのエネルギー不足
・睡眠の質:睡眠時間、入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒、断眠、熟眠感の欠如
・睡眠障害の原因:頻尿、せん妄、幻聴、幻視
・睡眠障害の原因:同室者のいびき、アラームなど安眠できない環境
・睡眠障害の原因:育児、介護などの役割による睡眠不足
・清潔への意識(不潔となっていないか)、意欲低下、清潔への無関心
・疾患による消耗性疲労
・疾患と疾患の病期
・悪性新生物の治療、治療内容、副作用
・貧血、汎血球減少など骨髄抑制
・感染症への罹患:発熱、咳嗽、下痢、嘔吐、咽頭痛、頭痛
・糖尿病などの代謝性疾患→エネルギーの活用がうまくできないため相対的にエネルギー不足
・強い不安、パニック障害、不安障害、何かに怯える、緊張が強い
・抑うつ
・甲状腺機能亢進症
・慢性疲労症候群
・生活環境の変化:結婚、単身赴任、子供の独立
・大きなライフイベント:死別、結婚
・ショッキングな出来事:災害、事故、犯罪に巻き込まれる、犯罪の被害者となる
・勤務形態:長時間労働、夜間勤務
・緊張、慎重さを要する職業⇒日常的なストレスへの暴露⇒消耗性疲労:警察、消防、医師、看護師、教師、管理職、クレーム対応、など
(★1)認知症高齢者日常生活自立度
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000077382.pdf

(★2)障害高齢者の日常生活自立度
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000077382.pdf

2)行動計画《TP》
・安全・安楽・自立に視点を置いて環境整備をする。
・症状に合わせて介助を行う。フェイススケール、NRSスケールなどを用い、客観的に評価しながら、無理のないように行う。
・汎血球減少時には、感染対策を徹底する。患者さんにも手洗いやうがいを勧め、介助者や面会者にも感染対策を行ってもらう。
・倦怠感や疲労感が強く、普段出来ていたこともできない場合には、症状に応じて介助する。床上排泄や食事介助、マウスケアなど。調子の良い時には自分自身で行ってもらい、ADLの維持に努める。
・術後や化学療法後、放射線療法後などは変化に注意し、正常経過の逸脱時には医師とリーダーへ報告する。
・嚥下機能障害による食事量低下には、食形態の変更や補助食品の検討を医師に依頼する。
・食事量の低下が見られる場合には、口腔内の様子・腹部症状・食形態・嚥下機能などを評価し、食事量が増えるように調整する。食形態の変更、歯科の介入、補助食品の追加など。
・関節可動域訓練、歩行訓練など筋力や関節可動域保持のための介入を行う。
・ベッド上でもできるROM訓練を取り入れる。
・リハビリ職とも連携し、リハビリでの実施内容、進行状況、生活上の注意などの情報を共有し、療養生活に組み込む。低負荷で頻回に無理なく行えるよう配慮する。
・活動しやすい衣服や履物を選択する。
・生活リハビリを意識し、日中はトイレまで移動する、食事の際は車椅子に移るなど、生活範囲の拡大につながるように声掛けをする。
・気分の落ち込みや、抑うつによる体動の減少がある場合には、本人の興味などを聞き取り、意欲が出るような趣向を凝らして、意欲を引き出す関わりをする。
・デイルームなどの皆が集まれるスペースがある場合には、食事の際やその他の時間に、お連れして、お互いにコミュニケーションをとってもらうように計らう。(刺激を与える)
・できていることに着目し、できていることを認める。エンパワメントの強化。
・信頼関係の構築につとめ、引きこもりからの脱却を目指す(外部とのつながりを持つ)。
・疼痛などにより活動が制限されている場合には、医師に鎮痛剤の指示をもらい、鎮痛剤の投与をする。
・患者や家族の話を傾聴し、不安や困っていることを傾聴する。またその中で介入が必要な事柄があれば、スタッフ間で話し合って、解決策を提示する。
・日中活動し、夜間睡眠がとれるようにバランスを整える。朝の日光を取り入れサーカディアンリズムを整える。
・活動による呼吸苦や動悸などの身体症状が出る場合には、途中で休息ができるような工夫を取り入れる。時々パルスオキシメーターを装着して客観的な評価も取り入れた介助をする。
・ショックな出来事(災害、事後、犯罪の被害など)で無気力となっている場合には、身体的なケアのお手伝いをする。傾聴し、心の変化を捉える。記録し、他職種とも情報共有し、心身の障害を軽減するための対策を話し合う。
3)教育計画《EP》
・病期に合わせたケアを行うことをパンフレットで説明する。
・疾患によりどのような症状が出るかを説明し、無理に我慢したり、恥ずかしがる必要はないことを説明する。
・めまい、出血、頭痛、吐き気、下痢、発熱、咳、口内炎、倦怠感、呼吸苦、息切れ、動悸など普段とは異なる症状が出たら看護師に伝えるように説明する。
・痛みなどの不快症状があったら我慢せず看護師に伝えるように説明する。
・嚥下機能障害による誤嚥性肺炎のリスクを説明し、むせ込みが見られたら看護師に伝えるようにお願いする。
・日中活動し、夜間は睡眠をとるように説明する。
・日中はデイケア、デイサービスなどの利用ができるよう、ソーシャルワーカーへ橋渡しをする。
・眠れない場合には、看護師に知らせるように説明する。
・介護者の介護負担軽減(訪問サービスやレスパイト)のためのサービス利用ができるよう、ソーシャルワーカーと連携する。
・介助が必要な場合には、遠慮せず、ナースコールを押すように説明する。
・内服薬は用法用量を守って内服するように、本人と介護者に説明する。飲み忘れしないような工夫も一緒に考えていく。
・ベッド上でひとりでもできる関節可動域訓練について説明する。
・不安があれば、一人で抱え込まず、相談してもらう。プライバシーは保護される(関係職種間では情報共有される)ので、安心して欲しいとお話する。必要ならば、カウンセラーなどの専門職種へ橋渡しする。
参照文献
T.ヘザー・ハードマン 上鶴重美. (2016). NANDA-I 看護診断 定義と分類 2015-2017. 医学書院.
岡庭豊. (2012). 看護師・看護学生のためのレビューブック. 株式会社 メディックメデイア.
恒藤暁 内布敦子. (2010). 系統看護学講座 緩和ケア. 株式会社 医学書院.
黒田裕子(訳). (2015). 看護成果分類(NOC)原著第5版 成果測定のための指標・測定尺度. エルゼビア・ジャパン株式会社.
山口徹 北原光夫 福井次矢. (2012). 今日の治療指針.
大橋優美子 吉野肇一 相川直樹 菅原スミ. (2008). 看護学学習辞典(第3版). 株式会社 学習研究社(学研).
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。ご意見ご感想ご質問がありましたら下のコメント欄よりお待ちしております(゚▽゚)