領域11 安全/防御
危険や身体損傷や免疫システムの損傷がないこと、喪失からの保護、安全と安心の保障
類1 感染 病原体の侵入に続く宿主の反応

感染リスク状態 00004 


看護診断:感染リスク状態
定義:病原体が侵入し増殖しやすく、健康を損なうおそれのある状態

いつもご覧いただきありがとうございます。

今回は感染リスク状態です。

感染と一口に言っても、様々あります。呼吸器感染、尿路感染、皮膚感染、結膜炎、脳炎、敗血症などなど、臨床でもよくお見掛けします。身体の器官に病原体が付着した状態が感染ですね。感染しても必ず発症するわけではありません。どのような場合に感染が成立するのか、またその感染症を広げないための方法にはどんなものがあるかおさらいしていきましょう。

1.感染成立要件

感染成立要件について、2つの分類方法で考えてみましょう。

✩感染の3要因

 1、感染元:感染の原因となる細菌やウィルスを含んでいるもの。
 ・血液、体液、分泌物、排泄物
 2、伝播経路:感染源を媒介する手段
 ・接触感染、飛沫感染、空気感染
 3、感受性宿主:抵抗力の低下した宿主
 ・年齢、基礎疾患、免疫状態、医療処置、侵襲的な治療、薬物(ステロイド、抗生物質)、栄養状態

 
✩感染の6要件

 1、病因:細菌、ウィルス、真菌、原虫、リケッチア、クラミジア、マイコプラズマ、寄生虫
 2、病原巣:患者、医療従事者、環境
 3、排出門戸:身体開口部(口、鼻、肛門)、菌のついた手指、医療器具
 4、伝播経路:接触感染、空気感染、飛沫感染
 5、侵入門戸:鼻、口、創傷、カテーテル挿入部
 6、感受性低下:易感染状態(免疫不全、抗がん剤使用、低体温、ステロイド使用、免疫抑制剤使用など)

 

2.看護診断「感染リスク状態」の適応 

1)疾患に起因するもの

・免疫力を低下させる疾患:
 糖尿病、がん、AIDS、腎不全、免疫不全、血液疾患、呼吸器疾患、歯周病、肝障害、熱傷、消化管疾患、肥満養
・バリア機能を低下させる病態:褥瘡、熱傷養
・感染予防行動が困難な状態:認知症、精神疾患(セルフケアを拒否する)

・治療にステロイドを使用する疾患(ステロイドは細胞性免疫を抑制する効果あり。容量と投与期間により感染リスクが増加する)→免疫力低下
    ・呼吸器系:喘息、喘息様気管支炎、COPD(肺気腫、慢性気管支炎)、
     間質性肺炎(急性、特発性)、好酸球性肺炎、薬剤性肺炎、サルコイドーシス、
     肺水腫、咽頭周囲炎、急性喉頭蓋炎、カリニ肺炎、サイトメガロウイルス肺炎、結核
    ・循環器系:心筋炎(パルス療法)、心膜炎、急性リウマチ性心内膜炎、
     急性リウマチ性全心炎、高安動脈炎
    ・消化器系:潰瘍性大腸炎、クローン病、急性肝炎、劇症肝炎、薬剤性肝障害、
     自己免疫性肝炎、原発性胆汁性胆管炎、腸チフス、急性腹膜炎
    ・腎・泌尿器系:急性進行性糸球体腎炎、ネフローゼ症候群、HBV・HCV関連腎症
    ・血液系:再生不良性貧血、自己免疫性溶血性貧血、特発性血小板減少性紫斑病、
     血栓性血小板減少性紫斑病
    ・代謝系:低血糖症、アミロイドーシス
    ・内分泌系:甲状腺機能亢進症(バセドウ病)、甲状腺機能低下症、急性副腎不全、
     慢性原発性副腎皮質機能低下症(アジソン病)
    ・アレルギー・免疫系:関節リウマチ、エリトマトーデス、多発性筋炎、強皮症、
     全身性血管炎(ANCA関連など)、シェーングレン症候群、ベーチェット病
    ・神経系:多発性硬化症、多発性ニューロパチー、ギランバレー症候群、末梢性顔面神経麻痺
    ・悪性腫瘍:白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫
    ・運動器系:椎間板ヘルニア、頸肩腕症候群、関節周囲炎、手根管症候群、
     急性痛風性関節炎(痛風)
    ・表皮系:重症皮膚炎、紅皮症、急性蕁麻疹、重症薬疹、天疱瘡、類天疱瘡
    ・その他:出血性ショック、宿植片対宿主病、急性脊髄損傷、血液型不適合輸血、
     アナフィラキシーショック、肺血症、結核、ハンセン病、
 ・免疫抑制剤を使用する疾患→免疫力低下
 ・自己免疫性疾患、臓器移植時の拒絶抑制、宿植片対宿主病予防
  ※免疫抑制剤:プログラフ(タクロリムス)、グラセプター(タクロリムス)、
   ネオーラル(シクロスポリン)、アザニン(アザチオプリン)、イムラン(アザチオプリン)、
   リツキサン(リツキシマブ)など
・脳梗塞などによる嚥下障害

2)治療や管理に起因するもの:

・手術、カテーテル治療
・透析
・薬物療法、抗生剤(腸内環境を変えてしまう)
・放射線療法養
・臓器移植
・膀胱留置カテーテル
・気管挿管、気管切開、人工呼吸器、自己喀痰困難
・ドレーン留置
・経管栄養、経管栄養剤

2)上記以外の感染リスク要因:

・乳児(生後4ヶ月までは母親由来のIgG残るがそれ以後消失、免疫力低下する)
・胎児の感染症(胎盤を通じて感染):
 風疹 、 トキソプラズマ症 、 サイトメガロウイルス感染症 、 ジカウイルス感染症 、 梅毒 
・感染症の流行地域、季節:アウトブレイクやパンデミック。
・感染対策が不十分(手洗いの不十分、換気が悪い、密集している)
・性感染症対策不足(知識不足、ワクチン未接種、未治療、不特定多数との交際)
・喫煙:気道粘膜の慢性的炎症、変性、一次防御機能の低下。
・ワクチン未接種
・噂:「ワクチンは効果がない」「金儲けのための手段だ」「ワクチンの副作用で後遺症は多くの人がなっていて危険」などという噂を信じやすい人

 

抵抗力低下による易感染状態では「非効果的抵抗力」の内容も参考にしてみてください。

3.リンケージによる目標設定(成果の確認)

  ※「リンケージ」は「NANDA」「NIC」「NOC」をつなぐ(リンクは「連結する」の意味)役割があります。
 1)地域のリスクコントロール:伝染性疾患(2802)
   (定義:一般の人々の健康を脅かす感染因子のまん延をなくすか、あるいは少なくする地域の行動)
 2)免疫状態(0702)
   (定義:内部・外部抗原を正しく標的として先天性・後天性の抵抗力があること)
 3)創傷治癒(1102.1103)
   (定義:癒合による創部の閉鎖後の細胞や組織の再生の程度、開放創の細胞や組織の再生の程度)

4.目標

 

目標は、患者さんを「主語」にします。
「看護者が○○できる」ではなく、
「患者さんが○○できるようになる」といった具合です。

 ・感染の6要因を断ち、感染成立を防ぐ。
 ・予防接種、手洗い、マスク着用の必要性を理解し、感染予防策を実施する。
 ・免疫力に応じた環境をつくり、感染を予防する。
 ・創部の清潔を保ち、感染を予防する。

 

5.看護計画


《OP》観察計画

感染成立の6要件に該当するものがないかを観察していきます。
 ・治療計画(抗がん剤の使用、ステロイドの使用、免疫抑制剤の使用)による作用と副作用
 ・易感染性の疾患(AIDS、糖尿病、白血病、熱傷など)の進行や症状、治療による易感染の程度
 ・侵襲のある治療(手術、ガンマ線など)の経過
 ・血液検査結果(WBC、CRP、プロカルシトニン、血清アミロイドAタンパク(SAA))の推移
   ※プロカルシトニンは感染症と相関性があります(正常値0.3ng/ml以下)
 ・画像診断(XP、CTなど)での感染兆候
 ・発熱(平熱より1℃以上の体温上昇)
 ・頻呼吸、血圧変動、脈拍変動などバイタルサインの変調
 ・呼吸音の左右差、肺雑音(喀痰による気管支閉塞、無気肺)
 ・気管切開部周囲の状況(感染兆候)
 ・喀痰の性状、量、臭気
 ・便の性状(ノロウィルスなどの消化管感染症)の推移
 ・便の回数
 ・尿の性状、尿の回数(尿路感染症)
 ・ドレーン挿入部の状況(感染兆候)
 ・ドレーンからの廃液(色、量、臭)
 ・中心静脈カテーテルの刺入部の状況(感染兆候)
 ・脂肪製剤(プロポフォールやイントラリポス)の投与
 ・バルンカテーテ挿入部の状況
 ・尿の性状、量、臭気
 ・帯下の異常(性感染症)、陰部の掻痒、発赤、熱感
 ・創部の状況(熱感、発赤、腫脹、疼痛)、膿様分泌物、離開
 ・感染に対する意識(手洗いの未施行)
 ・汚物の取り扱いが不適切(汚物に触れた手で別のところに触れる)
 ・不潔な環境
 ・低栄養、TP(6.7g/dl以下)、ALB(3.8g/dl以下)、コレステロール(120mg/dl以下)、
Hb(男性13.5g/dl以下、女性11.5g/dl以下)、BMI(18.5以下)
 ※低栄養は褥瘡や縫合不全などのリスクです
 ・生活環境の清潔さ(衛生的でない環境や地域、ゴミ屋敷など)
 ・感染症流行→地域での流行(アウトブレイク)、世界的流行(パンデミック・感染爆発)
   ※新型コロナは2020/3/12にWHOがパンデミックを発表しました。東京都の小池知事はよく感染爆発という言葉を使用していましたね。
 ・衛生物品の不衛生な取り扱い(哺乳瓶、おむつ)
 ・褥瘡の状態(上皮化する前は感染リスクが高い)
 ・食事の形態(嚥下機能に適した食事であるか)
 ・食事摂取状況(食事の際のむせ込み、食後のSPO2低下、肺雑音、吸引物)
 ・経管栄養時の姿勢、経管栄養直後の姿勢
 ・口腔内の衛生環境(不十分なマウスケア)
 ・ワクチンの摂取状況

 

《TP》行動計画


 ・クリーンルーム使用の場合は、使用基準を守り、外部からの病原菌を持ち込まない
 ・清潔な環境を保持する(片付け、清掃、環境整備)
 ・アウトブレイク、パンデミックの際には、マスク着用や手洗いを励行する。3密(密閉、密集、密接)を避ける
 ・易感染患者に対し、マスク着用と手洗いが習慣となるように、行動を促す。
 ・一処置一手洗いを励行する
 ・標準予防策(スタンダードプリコーション)の実施。
  ※スタンダードプリコーションは、すべての血液・体液・粘膜・を感染源とみなし、
   手指衛生の徹底や個人防護具(PPE)を適切にしようすることをいいます。
  ※個人防護具
   装着時:手洗い→ガウン→マスク→フェイスシールド→手袋(手袋はガウンの前でもいい)
   外す時:手袋→手指アルコール→フェイスシールド→マスク→ガウン
       最も汚い手袋を先に外します。
 ・誤嚥のある場合、食形態を工夫する(刻みあんかけ、ムース食)
 ・誤嚥のある場合、自助具の工夫をする養
  (スプーンを1口大のものにし、一口量が適切となるように工夫する)。
 ・食事摂取時、経管栄養時の姿勢を整える。
 ・口腔ケアを行い、口腔内の清潔を保持する。
 ・たんの多い場合は適宜吸引を行い、気道浄化に努める。
 ・オムツ着用の際は、定期的にオムツの交換をし、排泄物による皮膚のトラブルが起こらないようにする。
 ・体位交換を定期的に行い、褥瘡の発生を防ぐ。
 ・自力体位変換が困難な場合は、エアマットを導入し、褥瘡好発部位への過度な重圧を避ける。
 ・Baカテーテルを適切に固定し、尿道口の損傷を防ぐ。
 ・Baカテーテルの尿廃棄の際には不潔とならないように留意する。
 ・CVカテーテル挿入部のフィルム交換は清潔に行う。
 ・CVカテーテル挿入部から輸液までを順に辿り、破損や異常がないかを確認する。
 ・CVカテーテル感染の兆候があったら医師へ報告する。(カテーテル先端を培養に出す(と思います)ので介助する)
 ・プロポフォールを使用している際には12時間おきにルートを交換する。
 ・輸血製剤の使用ルートは24時間以上使用しない。
  ※気になる方はCDCガイドラインhttps://www.info-cdcwatch.jp/views/pdf/CDC_guideline2011.pdfをチェックしてください。
 ・留置針は72~96時間ごとに交換する。ルートも同時に交換する。
 ・透析の場合AVシャントの感染がないか、シャント音があるか確認する。
 ・ドレーンが引っ張られないように適切に固定する。
 ・ドレーンのメラバック交換の際は清潔に行う。
   ※脳ドレーン、硬膜外麻酔などの挿入物も同じ
 ・鎮静剤使用や、神経筋疾患などの自己喀痰困難な場合は、排痰ケアを行い、肺炎を予防する。
 ・RASSを用い、過鎮静となっていないか確認する。
 ・人工呼吸器関連肺炎(VAP)予防のために、回路の点検を行い、清潔操作で喀痰を吸引する。
 ・末端壊死がある場合は、足浴をし、清潔と血流保持をする。
 ・予防接種計画に基づく接種を促す。
 ・高齢者はインフルエンザや肺炎球菌ワクチンの接種を促す。
 ・術後、創部のガーゼ交換を清潔に行う。

 

《EP》教育計画


 ・免疫力低下をきたす疾患の場合、免疫力低下による感染リスクを説明する。
 ・免疫力低下時の感染予防行動(手洗い、マスク、3密を避ける)を説明する。
 ・免疫力低下(抗がん剤など)時は、食事を病院の指示に従うように説明する。
  (生ものダメ、マヨネーズも生の玉子を使っているのでダメ、などいろいろな規制があります)
 ・予防接種の有効性と副作用について説明する。
 ・Ba、ドレーン、点滴などの挿入物が地に落ちて不潔にならないように説明する。
 ・挿入物を引っ張らないように説明する。
 ・介護者の認識不足がある場合、正しい手技の獲得のための説明をする。
  (喀痰吸引、おむつ交換、排泄物の取り扱い、食形態、食事介助の留意点など)
 ・創部の疼痛や滲出液があったら申し出るように説明する。
 ・バランスよく食事を摂取するように説明する。(偏った食事はダメ)
 ・性感染症を繰り返さないために、不特定多数のパートナーとの関係に対する認識の改善や、コンドームの着用の必要性を説明し、行動変容を促す。性感染症による命の危険や不妊症についても説明する。

参照文献
T.ヘザー・ハードマン 上鶴重美. (2016). NANDA-I 看護診断 定義と分類 2015-2017. 医学書院.
岡庭豊. (2012). 看護師・看護学生のためのレビューブック. 株式会社 メディックメデイア.
岡庭豊. (2019.3). イヤーノート2020. 株式会社メディックメディア.
黒田裕子(訳). (2015). 看護成果分類(NOC)原著第5版 成果測定のための指標・測定尺度. エルゼビア・ジャパン株式会社.
山口徹 北原光夫 福井次矢. (2012). 今日の治療指針.
山内豊明. (日付不明). フィジカルアセスメントガイドブック. 医学書院.
青柳智和. (2018). 洞察力で見抜く急変予兆~磨け!アセスメントスキル~. 株式会社ラプタープロジェクト.
大橋優美子 吉野肇一 相川直樹 菅原スミ. (2008). 看護学学習辞典(第3版). 株式会社 学習研究社(学研).

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投稿者 FlorenceMYM

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