家事家政行動促進準備状態 00309

以前は家事の困難に対しては「家事家政障害」という診断がありました。2021年版では領域と診断名も変化しました。これまでは領域4の「活動・休息」に該当していましたが、2021年版では領域1の「ヘルスプロモーション」に移動しています。


領域4 活動/休息
エネルギー資源の産生、保存、消費、またはバランス
類5 セルフケア
自分の身体および身体機能をケアするための活動を実施する能力
看護診断:家事家政障害
定義:安全で成長を促す身近環境を、自力では維持できない状態

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領域1 ヘルスプロモーション
ウェルビーイングや機能の正常性についての意識、およびウェルビーイングや機能の正常性のコントロールを維持や強化するために用いられる方略
類2 健康管理
健康とウェルビーイングを維持する活動を明らかにし、コントロールし、実行し、統合すること
看護診断:非効果的家事家政行動(00300)
定義:安全な住居の維持管理に必要な知識と活動パターンが、不十分な状態

看護診断:非効果的家事家政行動リスク状態(00308)
定義:安全な住居の維持管理に必要な知識と活動パターンが、不十分になりやすく、健康を損なう恐れのある状態

看護診断:家事家政行動促進準備状態(00309)
定義:安全な住居の維持管理に必要な知識と活動パターンがさらに強化可能な状態

家事家政について2021年度より強化されています。これまでは「家事家政障害」のひとつの診断のみでしたが、「非効果的家事家政行動」「非効果的家事家政行動リスク状態」「家事家政行動促進準備状態」の3つになっています。

家事家政行動にやる気のある場合→→→「家事家政行動促進準備状態」
家事家政行動にやる気がない場合→→→「非効果的家事家政行動」「非効果的家事家政行動リスク状態」さらに、現状すでに問題がある場合は「非効果的家事家政行動」の実在型診断を、現状は問題がないがそうなる可能性がある場合には「非効果的家事家政行動リスク状態」のリスク型診断を立案してみてください。


1.家事家政行動促進準備状態の適応

1)まず次の(1)個人的要因(2)環境要因のなかから家事家政が困難となる要因を探し、さらに、それを克服する意欲がある者(患者本人や介護・育児をする家族)が対象となる。その意欲のないものは「非効果的」の診断にする。


(1)個人的 要因

・認知機能の低下(長谷川式20点以下、MMSE21点以下)
・家事ができない要因となる疾患
 ・在宅酸素吸入……火を扱う家事ができない
 ・リウマチ……細かい仕事ができない
 ・心疾患……家事をすると動悸がする
・麻痺があり動作に制限がある
・脳梗塞後遺症で視野欠損がある  など。
・家族構成(片親、大家族、高齢者のみの世帯など)
・家事を遂行する能力が未熟、あるいは能力の喪失
・個人の能力を超える量の家事がある
・ネグレクト
・介護負担(介護力と介護量のバランス)
・介護負担や育児負担を軽減するためのサービスについての知識が不足している。
・精神疾患
・若年


2)環境的要因

・家事をする者の孤立(サポートがない)
 ・母親一人で双生児など多胎児を育児している環境
 ・家族一人で寝たきり家族の面倒を見ている   など
 →いずれも介護者や親が睡眠不足となり疲労を蓄積している場合がある。
 →誰にも相談できず、自分を追い詰めてしまうこともある。
・紛争、貧困
 ・家事をしようにも環境が整っておらず、物も不足している。
・不衛生な環境による感染症の流行、疾病の流行
 ・自治体の経済力により十分な整備がなされていない。(飲料水の確保、下水処理の設備)
 ・衛生物品の不足
・不衛生な環境の現状
 ・ゴミ屋敷
 ・野良猫などが複数出入りする状態
 ・多頭飼育
 ・排泄物の不適切な処理

 

2.目標設定


1)リンケージによる目標設定(NOCの後半に掲載されています)

※リンケージはNANDA(診断)とNOC(成果)を繋ぐ役割があります。
・安全な家庭環境(1910)
・セルフケア:手段的日常生活活動(IADL)
・セルフケアの状態
・社会的支援
・介護者の心身の健康
・自己管理:急性疾患・慢性疾患

2)目標

目標は、患者さんを「主語」にします。
「看護者が○○できる」ではなく、
「患者さんが○○できるようになる」といった具合です。


・家事と家政に対する意欲が持続できる。
・残存機能に合わせたよりよい療養環境の整備ができる。
・家族計画を自身の経済状態に合わせて計画することができる。
・積極的に情報収集し、情報の正確性を確認することができる。

※看護師の目標としては以下のようなものが挙げられると思います。

・自宅での生活必需品やインフラが整備され、自身の健康状態が良好に維持できるよう支援する。(調整、教育)
・内的・外的な支援を受けて、患者や介助者が孤立しないように調整する。(家族による在宅介護・在宅看護・育児)
・相談機関などの情報提供を行う。
・家族計画について一緒に考える。
・介護サービス・障害サービスなど福祉サービス受給のための支援をする。
・疾患の自己管理ができるよう支援する。

 

3.看護計画


1)観察計画《OP》

・年齢、性別
・認知機能(長谷川式20点以下、MMSE21点以下で認知症疑い)
・知的障害、精神障害
・ADL、IADL(何をどこまでできるか、またどのような方法を取っているか)
・疾患(自力で家事ができるか)
・疾患による家事の制限(麻痺、振戦、視野欠損、酸素吸入による火気厳禁、家事による動悸など)
・疾患のコンプライアンス(服薬管理、塩分や水分などの制限)が守られているか
・家族構成(年齢、人数)
・精神的落ち込み、、意欲喪失
・家族内での役割、家族の家長の考え方
・所属する宗教の考え方(エビデンスに基づかない独特の考え方)
・介護の環境、家屋構造(スロープ、段差の有無、手すりの有無)
・介護をしている場合
 ・要介護度、介助量(全介助、部分介助)
 ・介護者の年齢、介護力、持病の有無
 ・老老介護・ヤングケアラー
・育児(多児を育児している場合)
 ・親の睡眠時間
 ・児の数
 ・育児経験
 ・親の生育歴(ネグレクト・身体的・性的・心理的虐待があったか)
・家事を行える環境にあるか(健康に家事が行えるか)
 ・インフラ(水道、下水道、電気、ガス)の整備
 ・疾患の原因(カビ、シックハウス症候群、ねずみ、疾患を媒介する蚊)
 ・安全な住宅か(シロアリ)
 ・治安
 ・騒音、光
・家屋の現状(ゴミ屋敷、近隣トラブルなど)
・地域の行政サービス

 

2)行動計画《TP》

患者本人や介護や育児をする家族の、やる気が継続するように自己効力感が高まる声かけや介入を行う。

・看護の原則「安全」「安楽」「自立」を念頭に置いた関わりをする。
・欠如したセルフケア(できない部分)の補填をする。
 必要以上に介入せず、残存機能を生かすような関わりをする。
 在宅に帰って生活することを視野に置いた関わりをする。
・麻痺:自助具の使用状況を確認し、自力で使用できるよう支援する。
・麻痺:補装具の使用法を確認し、自力での活動範囲拡大を支援する。
《在宅》
・部屋の整理整頓・清掃を行う。カビの除去。→→不潔な環境から清潔な環境へ。
・機能障害(麻痺や視野欠損など)に応じたバリアフリーを導入する。
 ・手すり、スロープ、エレベータなど
・ICTやIOTを利用したサービスを取り入れる。→介護者の負担を減らす。
 ・ネットスーパーの活用
 ・見守り機能付き家電を導入する。
 ・テレビ電話などで安否確認や介護者・育児者の孤立を防ぐ
・育児負担軽減のために、訪問中は母親の休憩や気分転換を促す。
・介護負担軽減のために、訪問中に介護者の休憩や気分転換を促す。
・介護者や育児者の考え方を傾聴する(自分はここまでしてあげたいなどの希望を聞く)
・育児や介護に対する不安や不満を傾聴する。
・育児や介護に対する不満や不安を解決するためのサービスを模索する。
 (ソーシャルワーカーやケアマネージャーへ繋ぐ)
・掃除の方法を伝える。訪問介護などのサービス導入(生活支援)の案内をする。
・インフラ整備のために必要な手続きの窓口への橋渡しをする(情報提供)。
・認知機能低下の場合は、モノの管理、場所などわかりやすく表示し、周辺症状出現を減らす工夫をする。
・家族構成や、主介護者のADLを考慮したケア計画を立てる。そのうえで、患者と家族がケアを自宅でも実践できるように、わかりやすく説明しながら、一緒に実践し、覚えてもらう。
・介護負担が大きくならないように、患者自身ができることは、自分でできるように促す。
 自助具を使用するなどの工夫をする。

 

3)教育計画《EP》

・カビの吸入による健康被害について説明する。
・掃除の必要性について説明する。
・手指衛生(手洗い)について説明する(特に免疫力の低い患者)
・水道、下水、電気、ガスなどの生活に必要なインフラの状況を確認し、整わない場合には行政(市役所の福祉課など)へ相談することを勧める。
・認知症の進行や精神疾患などで生活が整わない場合には行政(市役所の福祉課など)へ相談することを勧める。(ゴミ屋敷など)
・治療計画の理解度を確認し、理解が不十分なところを補足する。患者や家族が納得して治療を受けられるように支援する。
・自己管理の方法について説明する(服薬、食事、行動)
・ICTやIOTを利用したサービスを検討する。(買い物、家事、見守りなど)
・メディカルソーシャルワーカーやケアマネージャーとの橋渡しをし、介護サービス・障害サービスを受けながら在宅での生活が成り立つように調整する。
 (患者本人とそれを支える家族の両者の在宅生活に、無理が生じないようにサービスを導入する)
・同居のご家族にも、協力してもらえるように、病態・症状・起こりうること・療養上必要なこと・精神的支援の必要性などを説明し、理解を促す
・介助を必要とする場合には、安全のためにナースコールで看護師を呼ぶようにお願いする。何度も自分で動いてしまう場合には、繰り返し説明し、行動変容を促す。
・リハビリの進行具合を確認しながら、患者と相談し、患者の体格や習慣に沿った療養環境を整備する。

 

参照文献

T.ヘザー・ハードマン、上鶴重美、カミラ・タカオ・ロペス. (2021年7月1日). NANDA-I看護診断ー定義と分類 2021-2023 原書第12版. 株式会社 医学書院.

T.ヘザー・ハードマン 上鶴重美. (2016). NANDA-I 看護診断 定義と分類 2015-2017. 医学書院.
岡庭豊. (2012). 看護師・看護学生のためのレビューブック. 株式会社 メディックメデイア.
岡庭豊. (2019.3). イヤーノート2020. 株式会社メディックメディア.
岡庭豊. (平成15年). 病気がみえる VOL.2 循環器. 株式会社メディックメディア.
岡庭豊. (平成19年). 病気がみえるVOL.4 呼吸器. 株式会社メディックメディア.
黒田裕子(訳). (2015). 看護成果分類(NOC)原著第5版 成果測定のための指標・測定尺度. エルゼビア・ジャパン株式会社.
山口徹 北原光夫 福井次矢. (2012). 今日の治療指針.
大橋優美子 吉野肇一 相川直樹 菅原スミ. (2008). 看護学学習辞典(第3版). 株式会社 学習研究社(学研).

 

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投稿者 FlorenceMYM

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