領域11 安全/防御 類6体温調整  

周手術期低体温リスク状態 00254 

看護診断:周手術期低体温リスク状態

定義:手術の1時間前から24時間後までの間に、予期せず深部体温が36以下になりやすく、健康を損なうおそれのある状態

 

1.低体温とは

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1)定義:

一般社団法人日本中毒学会では「低体温症」を次のように定義している。

 http://jsct-web.umin.jp/wp/wp-content/uploads/2016/06/taionkanri.pdf

「健康な人が厳寒の環境にさらされると、低体温に陥ることがある。体温調節機構に傷害 を与える薬毒物によっても同様に低体温が起こるが、環境中への暴露がない低体温は一 般的に軽傷から中等症のことが多い。 深部体温が 35未満を一般的に「低体温症」と定義し、32℃以上– 35℃未満を軽症、 28℃以上– 32℃未満を中等症、20℃以上– 28℃未満を重症、20℃未満を超重症と分類する。」

2)低体温症状

  ・20℃:脳波停止、心停止

  ・25℃:腱反射消失、仮死状態

  ・27℃:昏睡状態、心室細動

  ・29℃:半昏睡、心拍や脈拍減弱、呼吸数低下

  ・31℃:歩行困難、錯乱、意識混濁、シバリング、頻脈、過呼吸

  ・33℃:傾眠傾向

  ・35℃:自律神経失調、排泄能低下

 

2.周手術期の体温調整

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1)周手術期体温低下の原因

術中は体温が以下の理由により下がりやすい。

①麻酔による中枢機能低下→体温調節中枢の機能低下→自律性体温調節機能低下(血管拡張・収縮)

②麻酔薬による抹消血管拡張→中枢の熱が抹消に移動(熱の再分布)

 これにより麻酔開始から1時間の間に急激に体温が低下しやすい。

 核心温低下の原因の2/3は熱の再分布によるものと考えられている。

③補液による血液の冷却→中枢温低下

④術野からの熱蒸発

⑤体性体温調節不可能(骨格筋収縮)→麻酔により筋肉の震えによる熱産生が抑制される。

 

2)術中体温の推移とセットポイント

麻酔薬の使用で麻酔薬を使用すると、中枢機能が低下する。視床下部の体温調節中枢も機能低下する。吸入麻酔薬デスフルラン使用時で、セットポイントが大幅に変動し、下限34.5~上限38.0℃の間では体温の下降と上昇を感知できないといわれている。

よって、34.6℃となっても体温が下がったと感じられず、37.9℃となっても体温が上がったと感じられない。仮に感じられたとしても、中枢抑制により自律性体温調節ができないので、下がったら下がりっぱなしで、上がったら上がりっぱなしの状態になる。

自己調節が不可能な状態となるので、術中の体温管理は他者に頼らざるを得ない。体温上昇を解熱することはいくつか対策が可能だが、体温低下を上昇させることは困難。よって術中体温管理で重要なのは、熱の喪失を最小限に抑えることといえる。

 

3)術中低体温による術後の身体への影響

術中低体温となると、術直後に様々な悪影響が出現する。

①シバリング

覚醒時に体温調節中枢が機能し始め、体温が下がっていると感知する。体温を上昇させようと、骨格筋を収縮させ、熱産生を促す(シバリングによる熱産生は、最大で安静時の6倍)。シバリング時はO2消費量が通常の4となり、呼吸循環器系への影響が大きくなる。シバリングは頭蓋内圧上昇や眼圧上昇を惹起させることがある。また、筋肉の収縮ではATPを多く使用するため、エネルギー喪失が大きい。

シバリング治療
①α受容体アゴニスト投与 クロニジンは視床下部の神経活動を抑制し、シバリングを減少させるといわれる
②抗コリン薬投与を控える アトロピンはセットポイントを上昇させる可能性があり、セットポイント上昇によりシバリング発生のリスクが高まるといわれる
③μオピオイド受容体アゴニスト投与(麻薬) モルヒネ、フェンタニル、メペリジンなどの麻薬はセットポイントを低下させ、シバリング発生頻度を減少させるといわれる。
④マグネシウム含有輸液製剤の投与 マグネシウムは生理的カルシウム遮断作用があり、麻酔後シバリング時に投与するとセットポイントを低下させるといわれる。
⑤ドキサプラム投与 呼吸促進薬としても知られる。揮発性吸入麻酔薬からの覚醒を促進する。シバリング抑制作用もあるといわれる。
⑥アミノ酸製剤の投与 アミノ酸製剤は体温保持・代謝促進作用があり、熱産生を促進するといわれる。
酸素の投与 酸素投与により冠血管虚脱防止、末梢血流確保。

②覚醒不良

低体温により代謝が低下する。薬物は肝臓・腎臓で代謝され排出されるが、肝腎機能も低下するため、薬物代謝が遅延し、覚醒遅延が起こる。

③出血

低体温により、血液凝固系に影響している血小板やサイトカインの機能も低下する。そのため易出血性となる。

④感染

低体温により、白血球・サイトカイン機能低下するため、生態防御機構もうまく機能せず、創部感染率が上昇する。

心イベント

低体温により体温調節中枢命令の自律神経調節が発動し、中枢の温度の高い血液を抹消に送ろうと心臓が拍出量の増加や抹消血管収縮・血圧上昇を試みる。それにより心負荷がかかる。血圧・心拍変動や、不整脈、心虚血→狭心症、心筋梗塞等が出現する可能性がある。

 

4)術中体温保持の意義

①低体温による術後合併症の予防→回復阻害因子の除去につながる

②早期社会復帰促進(ERAS)

 

5)術中体温管理の実際

低体温(36℃以下)予防対策で重要なのは…「下がってしまった体温を上げるのは大変」であることを考えると、熱喪失を最小限に抑えること(特に抹消血管へ再分布した熱の喪失を抑える)がポイントとなる。

(1)体温モニタリング

膀胱温、鼻腔温、スワンガンツなどで連続的に体温のモニタリングを行う。

(2)体温維持のための保温と加温

①温風加温器の使用。温風の温度は32℃・38℃・43℃の三段階。下の写真参照(3M社のパンフレットより引用)

②輸液の加温:輸液加温装置の使用。

※その他にも循環温水マット、電気毛布による加温などの方法がある

 

6)体温管理における手術室看護師の役割とは

体温をモニタリングし、薬液や輸液の投与量を調節し体温管理を行うのは麻酔科医が行っている。私たちは医師の指示を受け薬剤の準備や温風加温装置の準備を行う。

①温風・輸液の加温装置の整備

いざ使おうとした時に使用できないのでは困るため、術前に動作確認を行い、確実に加温できるよう環境を整える。

②室温調節

患者入室時と退室時には室温を25度にし、体温の喪失を防ぐ。

③薬品・輸液の安全性確保

薬品や輸液を安全な状態(使用期限内で破損がない状態)で管理し、麻酔科医が必要と判断した時に安全な薬剤や輸液を準備できるようにする。

④術前からのリスクの把握

術後にシバリングが起こりそうな患者や、術中体温低下などのリスクを把握し、心の準備・物品の準備をしておくことで、不測の事態にすぐに対応できるようにする。

 

3.周手術期低体温リスク状態の適応

・ASAのPS分類1度以上(★1

・術後のシバリング歴

・広範囲の開胸、開腹手術

・術中管理方法(全身麻酔、保温方法、輸液量)

・低体重

・通常の体温(平熱)が36.0℃未満

★1 ASAのPS分類

4.目標設定

リンケージによる目標設定(NOCの後半に載っています)

※「リンケージ」は「NANDA」「NIC」「NOC」をつなぐ役割があります(リンクは「連結」の意味)。

※私の持っている5版には「周手術期低体温リスク状態」のリンケージが掲載されていなかったため、「低体温」の頁を参考にしています。

1)リンケージ上の成果

体温調節(0800)

(定義:熱の産生、獲得、喪失のバランス)

バイタルサイン(0802)

(定義:体温、脈拍、呼吸、血圧が正常範囲内にある程度)

リスクコントロール:低体温(1923)

(定義:低体温の驚異を理解して予防し、排除または低減させるための個人の行動)

2)目標

目標は、患者さんを「主語」にします。
「看護者が○○できる」ではなく、
「患者さんが○○できるようになる」といった具合です。

・寒気、震え、呼吸苦、体熱感など、異常を感じたら、医療者に報告できる。

※看護師の目標としては以下のようなものが挙げられると思います。

・術前・術中の情報から、リスクを把握し、異常なバイタルサインの早期発見をする。

・異常時は医師へ報告し、早期対応につなげることができる。

 

5.看護計画

1)観察計画《OP》

リンケージの成果別に観察計画(OP)を立案していきます

〈体温調節 0800〉

・手術時に使用する(した)麻酔薬の種類、術中の麻酔時間、手術部位、術式

・手術時間、術中出血量、術中の輸液量、術中の輸血量

・術中のバイタルサインの変化

・術後のシバリング

・抜管時のバイタルサイン、気室時のバイタルサイン

・酸素投与の有無、投与量

・顔色、末梢冷感、爪床チアノーゼの有無

・努力呼吸

・深部体温の低下(35℃未満が低体温症)

・低体温症状(意識レベル低下、心拍数減少、脈拍減弱、呼吸数の異常)

 

〈バイタルサイン 0802〉〈リスクコントロール:低体温 1923〉

・保温加温装置の作動確認

・平常時のバイタルサイン

・術中、術後のバイタルサイン

・意識レベル、意識混濁、せん妄、幻覚

 

2)行動計画《TP》

〈手術室〉

・保温加温装置のセッティングを行う。

・手術中も温風加温装置が正常に稼働しているか確認する。

・麻酔科医の指示に従い輸液の加温を行う。

・術中モニタリングを行う

・異変を予測して、薬剤をすぐに準備できるようにする。(在庫や有効期限確認)

〈術後〉

・シバリングや悪性症候群の既往がある患者は注意して観察する。

・術後は15~30分毎にバイタルサインを測定し、変化に注意を払う。

・室温、掛物で調整する。

・術後の正常な経過を逸脱していたら医師へ報告し、指示を仰ぐ。

 看護計画「術後回復遅延」参照

・患者の訴えをよく聞き、不快症状の緩和に務める。

・意識レベルの低下などで自身のセルフケアが困難な期間は、介助を行う。

 

3)教育計画《EP》

・異常を感じたらナースコールで知らせるようにお願いする。

・術後のはじめの離床は、医師や看護師と一緒に行うので、それまでは安静を保持するように説明する。

・苦痛があったらナースコールを押して知らせるようにお願いする。

・ドレーンなどの管類が抜けないように、移動の際の手順を説明する。

 

参照文献

金田徹. (2013.11.16). 周手術期体温管理の理由とその方法. 第55回日本手術看護学会 東海地区学会総会 .

3M. (2013). 手術中の低体温予防.

日本麻酔科学会・周手術期管理チームプロジェクト. (2011.05.31). 周手術期管理チームテキスト

T.ヘザー・ハードマン 上鶴重美. (2016). NANDA-I 看護診断 定義と分類 2015-2017. 医学書院.
岡庭豊. (2012). 看護師・看護学生のためのレビューブック. 株式会社 メディックメデイア.
岡庭豊. (2019.3). イヤーノート2020. 株式会社メディックメディア.
黒田裕子(訳). (2015). 看護成果分類(NOC)原著第5版 成果測定のための指標・測定尺度. エルゼビア・ジャパン株式会社.
山口徹 北原光夫 福井次矢. (2012). 今日の治療指針.
山内豊明. (日付不明). フィジカルアセスメントガイドブック. 医学書院.
青柳智和. (2018). 洞察力で見抜く急変予兆~磨け!アセスメントスキル~. 株式会社ラプタープロジェクト.
大橋優美子 吉野肇一 相川直樹 菅原スミ. (2008). 看護学学習辞典(第3版). 株式会社 学習研究社(学研).

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投稿者 FlorenceMYM

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