
NANDA-00205 看護計画 ショックリスク状態
領域11 安全/防御
類2 身体損傷 身体への危害または傷害
ショックリスク状態
看護診断:ショックリスク状態
定義:身体組織への血液供給が不十分になる危険があり、命に関わる細胞機能障害が起きやすく、健康を損なう恐れのある状態
※2021年版では、定義が少し変わっています。
定義:細胞機能障害につながる可能性のある、組織への不十分な血液供給が起こりやすく、健康を損なうおそれのある状態
1.ショックとは?
日本救急医学会より引用→ショック 日本救急医学会・医学用語解説集 (jaam.jp)
1)ショックの定義
生体に対する侵襲あるいは侵襲に対する生体反応の結果,重要臓器の血流が維持できなくなり,細胞の代謝障害や臓器障害が起こり,生命の危機にいたる急性の症候群。収縮期血圧90mmHg以下の低下を指標とすることが多い。典型的には交感神経系の緊張により,頻脈,顔面蒼白,冷汗などの症状をともなうもの。近年,循環障害の要因による新しいショックの分類が用いられるようになり以下の4つに大別される。
2)ショックの病態と5徴候
(1)病態
日本救急医学会によるショックの定義を噛み砕いて理解していきます。
「生体に対する侵襲」とは、「感染、手術、外傷、打撲、急性心筋梗塞などの心疾患、アナフィラキシーの原因となるアレルゲン、神経を刺激するもの」のことです。
「侵襲に対する生体反応の結果」とは、「出血なら循環血液量が減少する、心筋梗塞なら心収縮力が弱くなる、感染による敗血症なら末梢と中枢の血液分布バランスが崩れる、迷走神経反射などの神経刺激なら副交感神経優位による心拍出量減少や心拍数減少となる」といった生体反応を指します
「重要臓器の血流が維持できなくなり」とは、「潅流圧の低下」です。潅流とは「臓器に液体が流れること」をいいます。「潅流圧」は臓器(組織や細胞)へ血液を流し込むための圧ということになります。その圧は「血圧」です。圧は「高いところから低いところ」へ移動する特徴があります。「血圧」は「循環血液量×血管抵抗」ですね。そのどちらが低下しても血圧は低下します。血圧が下がるということは、抹消へ潅流させる圧が下がることになりますので、「重要臓器への血流が維持できなくなる」というわけです。
ただ、この潅流圧の低下はこのままでは終わりません。組織に血流が低下すると、組織は酸素不足となります。それにより嫌気性代謝が亢進します。嫌気性代謝では乳酸が蓄積し、酸性に体が傾きます(アシドーシス)。アシドーシスでは、細動脈が拡張しますが、細静脈は拡張しにくくなります。細動脈の拡張により血液は末梢に運ばれますが、細静脈での回収ができないために、毛細血管での血流のうっ滞や血管外濾出が起こり、中枢での血流が減少します。
「収縮期血圧90mmHg以下の低下を指標とすることが多い」とありますが、ショック4分類のすべてで血圧低下をきたします。
総括すると、「各種原因で血圧(循環血液量×血管抵抗)が維持できなくなり、組織での潅流圧が低下し、重要臓器で機能障害をきたす、生命の危機的急性の疾患」ということになります。
(2)ショックの5徴候(代表的な症状)
重要臓器での機能障害を示す徴候です。有名ですね。
①蒼白(pallor)
②虚脱(prostration)
③冷汗(perspiration)
④脈拍触知不能(pulsessness)
⑤呼吸不全(pulmonary insufficiency)
3)ショックの4分類(原因)
ショックは原因別に4つに分類されます。
(1)循環血液減少性
循環血液量減少:血圧↓・心拍数↓・心拍出量↓・中心静脈圧↓・末梢血管抵抗↑
(2)心原性・心外拘束性
心収縮力減少:血圧↓・心拍数↓・心拍出量↓・中心静脈圧↑・末梢血管抵抗↑
(3)血液分布異常性
①敗血症性ウォームショック(サイトカインによる血管抵抗減少):血圧↓・心拍数↓・心拍出量↑・中心静脈圧↓・末梢血管抵抗↓
②敗血症性コールドショック(血管内皮細胞の破綻):血圧↓・心拍数↓・心拍出量↓・中心静脈圧↓・末梢血管抵抗↓
③アナフィラキシー(血管透過性の亢進):血圧↓・心拍数↓・心拍出量→・中心静脈圧↑・末梢血管抵抗↓
(4)神経原性
交感神経遮断or迷走神経反射:血圧↓・心拍数↑・心拍出量→or↓・中心静脈圧↑・末梢血管抵抗↓
2.「ショックリスク状態」の適応
ショックには4つの分類があります。分類に沿ってみてみます。
✩循環減少性ショックのリスク:
・出血:交通外傷、外傷、骨盤骨折、手術、子宮外妊娠、消化管出血、悪性腫瘍
・脱水:熱中症、嘔吐、下痢、高浸透圧性昏睡
・血管透過性亢進:広範囲熱傷、イレウス、低栄養、急性膵炎、汎発性腹膜炎
✩心原性ショックのリスク:
・心筋障害(心筋梗塞、拡張型心筋症、心筋炎、弁膜症、心損傷)
・不整脈(同不全症候群、アダムスストークス症候群、房室ブロック、心室頻拍、上室頻拍)
✩心外閉塞・拘束性ショックのリスク:
・心血管閉塞(肺血栓塞栓症、急性動脈解離、心房粘液種)
・胸腔内圧上昇(緊張性気胸、陽圧換気)
・心圧迫(心タンポナーデ、収縮性心膜炎)
・血管圧迫(縦隔腫瘍)
✩血液分布異常性ショックのリスク
・神経原性(脊髄損傷、血管迷走神経反射)
・アナフィラキシー(薬物、ハチ、食物)
・感染症(敗血症)、易感染状態(免疫抑制剤、抗がん剤、白血球減少)
※敗血症の原因は、肺炎・尿路感染・消化管穿孔・胆嚢炎・胆管炎が多い
・急性腎不全(副腎クリーぜ)
3.目標設定
リンケージによる目標設定(NOCの後半に載っています)
※「リンケージ」は「NANDA」「NIC」「NOC」をつなぐ役割があります(リンクは「連結」の意味)。
1)リンケージ上の成果
・ショックの重症度:アナフィラキシー(0417)
(定義:急激に発症した全身の過敏性反応に伴う血管拡張や、毛細血管透過性の亢進によって生じた、組織潅流に不十分な血流状態を示唆する症状および徴候の重症度)
・ショックの重症度:血液量減少(0419)
(定義:血管内液量の極度の減少によって生じた組織潅流に不十分な血液状態を示唆する症状及び徴候の重症度)
・ショックの重症度:神経性(0420)
(定義:交感神経系-副交感神経系の不均衡による持続性の血管拡張によって生じた組織潅流に不十分な血液状態を示唆する症状および徴候の重症度)
・ショックの重症度:心原性(0418)
(定義:心臓の収縮及びポンプ機能不全によって生じた組織潅流に不十分な血流状態を示唆する症状及び徴候の重症度)
・ショックの重症度:敗血症(0421)
(定義:広範囲にわたる感染に伴うエンドトキシンの産生による血管拡張によって生じた、組織潅流に不十分な血流状態を示唆する症状および徴候の重症度)
2)目標
目標は、患者さんを「主語」にします。
「看護者が○○できる」ではなく、
「患者さんが○○できるようになる」といった具合です。
・めまい、動悸、気分不快などの異常を感じたら、医療者に相談できる。
・治療計画を守り、自己管理ができる(内服など)。
※看護師の目標としては以下のようなものが挙げられると思います。
・異常の早期発見をし、早期治療に繋げる。
・患者さんが、治療計画を守れるよう支援し、ショックが起こらないように防ぐ。
4.看護計画
1》観察計画 OP
✩✩ショックの原因ごとに観察項目を分けています✩✩
《ショックの重症度:アナフィラキシー》
・アレルゲンの存在・アレルギーの既往・エピペンの所持
・収縮期血圧(基準110~120mmHg)の低下・拡張期血圧(基準70~80mmHg)の低下
・心拍数の増加
・不整脈
・鼻炎・喘鳴(ゼーゼー・ヒューヒュー)・咽頭けいれん・気管支けいれん
・呼吸困難
・PaO2低下
・温かく紅潮した皮膚
・口唇、眼瞼、舌の浮腫
・血管性浮腫・手足の浮腫・陰部の浮腫
・感覚異常
・掻痒感
・尿量減少
・意識レベル低下
・パニック
《ショックの重症度:循環血液量減少》
・収縮期血圧(基準110~120mmHg)の低下・拡張期血圧(基準70~80mmHg)の低下・脈圧(収縮期と拡張期の差で基準は40~60mmHg)の低下
※脈圧の増大は、太い血管の動脈硬化が進んでいることを意味します。
・平均血圧(拡張期+脈圧/3)
※平均血圧が高まると、細い血管の動脈硬化が進んでいること意味します。
・心拍数の増加
・不整脈
・呼吸困難
・PaO2低下・PaCO2の上昇・尿量減少・意識レベル低下・瞳孔反応の遅延
・毛細血管充満時間の遷延・呼吸数増加・浅呼吸・肺の断続性副雑音・胸痛・冷たく湿った皮膚・蒼白・血液凝固時間の延長・腸蠕動音の低下・口渇・瞳孔反応の遅延・代謝性アシドーシス・高カリウム血症
《ショックの重症度:神経性》
・反跳脈
(反跳脈とは、遅脈緩徐に立ち上がり, 消退もゆっくりの脈の事で、大動脈弁閉鎖不全症,動脈管開存,甲状腺機能亢進症,重症貧血などでみられる脈拍のこと。)
・収縮期血圧の低下・拡張期血圧の低下
・心拍数の減少・心拍数の増加
・不整脈
・呼吸の変化・PaO2の低下
・暖かく乾燥した皮膚・冷たく湿った皮膚
・体温低下
・尿量減少
・腸蠕動音の低下
・不穏状態・不安・嗜眠・意識レベル低下
・瞳孔散大・瞳孔反応の遅延
《ショックの重症度:心原性》
・脈圧の低下・平均血圧の低下・収縮期血圧の低下・拡張期血圧の低下
・毛細血管再充満時間の遷延
・中心静脈圧の上昇・頚静脈の怒張
・心拍数の増加・不整脈・胸痛
・呼吸数の増加・肺水腫
・肺の断続性副雑音
・PaO2の低下・PaCO2の上昇
・チアノーゼ・冷たく湿った皮膚・蒼白
・尿量減少
・意識レベル低下・不穏・不安
・代謝性アシドーシス
《ショックの重症度:敗血症》
※敗血症の原因は、肺炎・尿路感染・腸管穿孔・胆嚢炎・胆管炎が多い
・心拍数の増加
・収縮期血圧の低下・拡張期血圧の低下・不整脈
・呼吸数の増加・呼吸深度の増大
・浅呼吸・呼吸困難
・咳嗽・喀痰などの呼吸器症状
・PaO2の低下
・体温上昇・悪寒
・暖かく紅潮した皮膚
・体温低下・冷たく湿った皮膚・蒼白
・尿量減少・尿の性状・浮遊物・混濁・尿臭
・腸蠕動音低下
・腹痛・悪心・嘔吐・下痢、便の正常
・意識障害・嗜眠
・代謝性アシドーシス
2》行動計画 TP
・ショックの5Pなどの異常な症状が観察されたら、リーダーや医師へ報告する。
・治療計画に沿って療養生活が送れるように、検査や投薬などの診療の補助と、清潔ケアや環境整備などの療養上の世話を行う。
・症状に応じたケアを計画する。(看護の基本は安全・安楽・自立)
・アナフィラキシーを起こすリスクがあり、エピペンを所有している場合には、アナフィラキシーショック時に使用する(在宅)。 ※病院ならスタッフコール
・感染症による場合には、感染拡大しないように、標準予防策を行う。汚物の取り扱い、手指消毒、PPEなど。
・環境整備を行い、酸素・点滴・ドレーンなどのルート類の整理をする。
・挿入物(ドレーン・バルンカテーテル・Cvカテーテル・気管カテーテル)の管理は清潔に行う。
・自身で口腔ケアのできない人は、口腔ケアを念入りに行う。
・吸引で気道分泌物の貯留を予防する。
3》教育計画 EP
・いつもと違うと感じたら、具体的に言葉にできなくても(胸がもやもやする、気分が悪い、フラッとするなど)、ナースコールで知らせるようにお願いする。
・エピペンの使用法を説明する。
・手洗いとうがいの必要性を説明する。
・口腔ケアの必要性を説明する。
・吸引などの侵襲を伴うケアへの理解が得られるように、必要性を説明する。
参照文献
T.ヘザー・ハードマン 上鶴重美. (2016). NANDA-I 看護診断 定義と分類 2015-2017. 医学書院.
岡庭豊. (2012). 看護師・看護学生のためのレビューブック. 株式会社 メディックメデイア.
岡庭豊. (2019.3). イヤーノート2020. 株式会社メディックメディア.
黒田裕子(訳). (2015). 看護成果分類(NOC)原著第5版 成果測定のための指標・測定尺度. エルゼビア・ジャパン株式会社.
山口徹 北原光夫 福井次矢. (2012). 今日の治療指針.
山内豊明. (日付不明). フィジカルアセスメントガイドブック. 医学書院.
青柳智和. (2018). 洞察力で見抜く急変予兆~磨け!アセスメントスキル~. 株式会社ラプタープロジェクト.
大橋優美子 吉野肇一 相川直樹 菅原スミ. (2008). 看護学学習辞典(第3版). 株式会社 学習研究社(学研).
ここまでお付き合い頂きありがとうございました。ご意見ご感想ご質問がありましたら下のコメント欄よりお待ちしております(゚▽゚)
コメント